「うーん…。海堂って、悪い奴じゃないけど…可愛いかって言われると…」

「むー…見た目とか雰囲気とか見ても可愛いタイプじゃないよね」

梓はもう一度由良と海堂の様子を観察してみる。由良は楽しそうに海堂の頭を撫でている。海堂は困っているようだが、同時に嬉しそうな満更でもないような複雑な表情をしていた。
梓は理解した。

(なるほど、この薫くんって由良のこと好きなんだ。
ただ、この由良の様子を見ると、由良にとって薫くんは信夫（しのぶ）くんと同じような感じに見える。弟みたいなのかな。
どんまい。)

「よし、空の旅も長いしちょっと休憩するネ」

梓は菊丸と桑原にそう言ってから、椅子の背にもたれる。

(…そういえば)

梓はやけに後ろが静かな気がした。先程までは色々と話し声が聞こえていた筈だ。

(みんな、寝ちゃったのかな)

梓は後ろを向き、座席から顔を出す。
何やら、殆どが一方に注目していた。
梓が皆の視線を辿ると、そこには澪菜がいた。
彼女は眠っていた。
澪菜は乗り物酔いする為、よくバスや飛行機で眠る。それを知っている梓にとっては不思議でもなかった。そもそも飛行機で寝る人なんて珍しくもない。

(…もしかして、みんな澪菜の寝顔見てんの？)

澪菜は可愛い。男子に人気がある。注目するのも分かる。

(あぁ、侑士まであんなエロい顔で、情けナシ！
夏希が好きじゃなかったのかヨ！)

梓は自分の友人に呆れかえる。

「澪菜、可愛いから仕方ないのかなぁ」

梓の呟きに隣の菊丸が疑問に思い、尋ねる。

「何が？」

「んー。侑士が他に好きな子いんのに、澪菜をエロい目で見てんの」

「うえー、最低。変態じゃん」

「だよねぇ。侑士とはお友達だけど、そういうトコは許しガタシ！」

再度、梓が後ろを見ると、恵が立ち上がり、日吉の前を抜け、澪菜の元へと向かっていた。
そして周りを見渡し、

「澪菜を変な目で見るからには、相応の覚悟があるってことだよね」

と、とても爽やかな笑顔で言う。