*氷帝学園*

｢夏希ー！
ぐっもーにん！｣

朝っぱらから少女の大声が、氷帝学園３年Ａ組の教室内に響きわたる。
彼女は氷帝学園中等部３年、坂本梓。
男子テニス部マネージャー。

「うるさい、馬鹿梓!」

夏希と呼ばれた少女は、鬱陶しそうに梓の頭を小突く。
小突いたにしては大きな音がしたが、毎日のことなので、周りは騒ぎ出さない。
彼女は氷帝学園中等部３年、鴨口夏希。
梓の幼なじみだ。

「こら、夏希！
梓さんがバカになったらどーすんダ！」

「もう馬鹿だろ。
…で、何だ？
くだらない用だったら、承知しない」

夏希は溜め息を吐き、梓を見る。

｢くだらなくなんかないヨ。
あのねー、テニ…」

「断る」

夏希は梓の言葉を遮り、拒否する。

「アタシまだ、なんも言ってないヨ!?」

「知るか。お前が持ち込むのは、厄介事かテニス部員か大声だけだ」

実際、梓がいるとテニス部員が来たり、騒がしかったりする。

「そんなこと、ないっしょ。
アタシは毎日夏希に潤いをお届けしているのさ！」

「おい、梓。朝っぱらから何騒いでんだよ」

別のクラスから、騒ぎを聞きつけた宍戸と向日がやってきた。

「そうそう夏希ったらヒドいのさ。
せっかくアタシがいい提案をしようとしてたのにねぇ」

「良い提案？
厄介事の間違いだろう」

「夏希のケチんぼ」

「ああ゛？」

夏希が梓を睨みつける。

「ひぃっ!!」

「梓はまた夏希にどんな無茶を言ってんだ」

「アタシが悪いの決定なの!?
亮、ヒドイ！」

「悪いかどうかはともかく、うるさかったのはお前だったしな」

「岳人まで!!」

梓は、ショックのあまりヒロインのように倒れ込む。

「はぁ…。
で、何だ？
聞いてやるから話を続けろ」

夏希は、段々と梓が鬱陶しくなったので、話を早々に切り上げようと考えた。