空を見上げて
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「じゅうにばんたいのあたらしいたいちょう、ですか?」
「そうじゃ、祝いくらいやらんのか?」
瀞霊廷のとある一角、四大貴族のうちの一つである四楓院家の屋敷。当主の部屋ではなくさくらの部屋で、日常とは少し違った会話が行われていた。
「うらはらさま、やはりすごいおかたなのですね!」
「儂に比べれば、まだまだじゃがのぉ。して、どうするんじゃ、さくら。あやつには、お前は懐いておったろう?」
投手である夜一はさくらを揶揄うように、ニヤニヤと口元を歪ませている。
それに対してさくらは自分の目は間違ってなどいなかったのだ、とでも言いたげな強い光を浮かべた目から、ただ焦ったような様子に変わった。
なんだ、図星か。
そんなことを確信した夜一はまだ笑う。
「な、なにをおっしゃるのですか! よるいちさまの、むかしなじみ、って、きいてたから…」
「照れんでもよいじゃろう? 儂とて、さくらが関わりやすい者が増えた方が安心できるしの。まあ、その相手があやつでは、別の心配はあるが」
さくらはくるくると頭を回しそうになった。以前贈り物はもらったことがある。そのことに甘え、自分から彼に何か贈ろうとは考えたこともなかった。
「そういえば」
自分はなにも知らないのだ。彼の好きなもの、嫌いなもの、家族構成、普段の仕事ぶり。彼について。
そもそも身の回りに、使用人をしてくれている人や家族以外に男性などいないことに気がついた。
普段数え切れないほどお世話になっている彼に、何か返したい気持ちはあるが、どうしていいかわからなかった。今回はチャンスかもしれない。
「よるいちさま」
「ん? なんじゃ?」
わざととぼけたような顔をする夜一にすこし、むっとした。
「おくりものをさしあげたいのですが、なにがよいかわからなくて。よるいちさまに、うらはらさまについて、おしえていただきたいのです!」
いつか、浦原に言ったのと似たような言葉。あのときは、ただただ自分の好奇心と欲だけだったが、今回は、きちんとした目的がある。それだけで、何故か自分が誇らしくなれるように気がした。
「ふむ、あやつ自身に聞いた方が良いのではないか?」
「おどろかせたいのです! つぎ、おあいしたときまでに、よういしたくて」
思わず身を乗り出してそういうと、さくらの頭を少しだけ撫で、部屋を出て行った。
彼女の行動や言動は、ほんの少しだけ、浦原に似ている気がした。
しばらくして戻ってきた夜一は、後ろに使用人の若い男性を連れていた。若干顔を引きつらせているところを見る限り、無理矢理、連れてこられたのだろう。
そこから、その3人による会議が始まる。夜一はあまり興味がないのか、大雑把に浦原について告げると、どこかつまらなそうな顔をして菓子をつまんでいた。だが、ちゃんとさくらの話は聞いており、さくらの質問には答えていく。
ここで、使用人の男は、男目線としての意見を、世間一般としての意見を述べていた。
当初夜一が思っていたよりさくらが熱心に考え込んでいたため時間がかかった。正直昔馴染みの彼のことなど、どうでもよいとまではいかなくとも関心を持っていない。しかし、自分の可愛い妹のためには一肌脱ぐしかなかった。
「よるいちさま、きめました!」
目を輝かせて言う少女はなんとも愛らしい。思わず抱き寄せてから膝の上に乗せると頭をグリグリとなでてやった。
「えっと、どうしたんスか?」
「さくらがせっかくお前のために用意したんじゃぞ、ありがたく思え」
「いや、そうじゃなくて、なんかありましたっけ?」
四楓院の屋敷に一時的に置かせてもらっていた荷物を引き取りにきたところ、呼び止められる。そもそも夜一サンがいることは知らなかったが、わざわざ呼び止められるようなことがあるとは。
相変わらずほんの少しだけ顔を俯かせたさくらサンが、無言で包みを差し出した。
何かを貸したりしたことなんてなかったはずだし、心当たりがない。
「今度、お前が昇進すると聞いて、必死になって準備しておったのじゃ。しかも、喜助には黙っておいてくれとまで頼まれての」
「よ、よるいちさま!」
「なんじゃ、本当のことではないか」
昇進、スか。
そこまで言われてようやく思い出す。
「もしかして十二番隊長の件ですか?」
「それしかなかろう?」
さして自分が気にしていなかったことだ。なのに、こんなものまで用意してくれたなんて。
パッと気づいてやれなかったからか、彼女の不安そうな顔にどうも申し訳なくなる。
「さくらサン、気なんて使ってくれなくていいんスよ? 夜一サンの昔馴染みといっても、今では上司と部下ですし」
「そんなんじゃなくて、ただ、うらはらさまをそんけいしてて…」
あらら、泣いてしまいそうっスね…。
そっと彼女に近づいて彼女の目線に合わせる。ゆっくりと手を差し出すと、ボクの手に恐る恐る乗せてくれた。
どっしりとした重みに思わず目を見開く。こんなに細い手がこんなものを持っていただなんて。
「開けてみてもいいっスか?」
中身が気になりそう問いかけると、小さく頷く。
決して包みを破いてしまうことのないように開いてみると、しっとりとしたデザインの扇子と髪紐があった。
「いぜん、おはなししているときに、なんどもかみをかきあげてらしたので、いいかなと…。あと、よるいちさまに、きかいをさわるのがおすきなのだと、ききまして。あつくなると、おからだにもさわりますから…」
いまだに不安感の抜けないような顔で見上げてくる。
ああやっぱり、どうしてこの子は。
「すごく気に入ったんスよー? さくらサン、さすがっスね、ボクのこと、よくわかってます」
ありがとう、と伝えてやると、安堵とともに小さく息を漏らした。そんなに息を詰めることがあっただろうか?
「いちどでもいいので、つかってください…!」
「いえいえ、ずーっと、使い続けますよ、せっかくいただいたんスから」
今後、何年、何十年、使い続けるんだろう。もし、未来の彼女がこれらをみたとき、何と言うのだろうか。
そんな小さなことが頭から離れなかった。
あまり執着することのないボクではあるが、これだけは大切にしていこう。
目の前の花のような笑顔を浮かべた彼女に心の中で誓った。
「そうじゃ、祝いくらいやらんのか?」
瀞霊廷のとある一角、四大貴族のうちの一つである四楓院家の屋敷。当主の部屋ではなくさくらの部屋で、日常とは少し違った会話が行われていた。
「うらはらさま、やはりすごいおかたなのですね!」
「儂に比べれば、まだまだじゃがのぉ。して、どうするんじゃ、さくら。あやつには、お前は懐いておったろう?」
投手である夜一はさくらを揶揄うように、ニヤニヤと口元を歪ませている。
それに対してさくらは自分の目は間違ってなどいなかったのだ、とでも言いたげな強い光を浮かべた目から、ただ焦ったような様子に変わった。
なんだ、図星か。
そんなことを確信した夜一はまだ笑う。
「な、なにをおっしゃるのですか! よるいちさまの、むかしなじみ、って、きいてたから…」
「照れんでもよいじゃろう? 儂とて、さくらが関わりやすい者が増えた方が安心できるしの。まあ、その相手があやつでは、別の心配はあるが」
さくらはくるくると頭を回しそうになった。以前贈り物はもらったことがある。そのことに甘え、自分から彼に何か贈ろうとは考えたこともなかった。
「そういえば」
自分はなにも知らないのだ。彼の好きなもの、嫌いなもの、家族構成、普段の仕事ぶり。彼について。
そもそも身の回りに、使用人をしてくれている人や家族以外に男性などいないことに気がついた。
普段数え切れないほどお世話になっている彼に、何か返したい気持ちはあるが、どうしていいかわからなかった。今回はチャンスかもしれない。
「よるいちさま」
「ん? なんじゃ?」
わざととぼけたような顔をする夜一にすこし、むっとした。
「おくりものをさしあげたいのですが、なにがよいかわからなくて。よるいちさまに、うらはらさまについて、おしえていただきたいのです!」
いつか、浦原に言ったのと似たような言葉。あのときは、ただただ自分の好奇心と欲だけだったが、今回は、きちんとした目的がある。それだけで、何故か自分が誇らしくなれるように気がした。
「ふむ、あやつ自身に聞いた方が良いのではないか?」
「おどろかせたいのです! つぎ、おあいしたときまでに、よういしたくて」
思わず身を乗り出してそういうと、さくらの頭を少しだけ撫で、部屋を出て行った。
彼女の行動や言動は、ほんの少しだけ、浦原に似ている気がした。
しばらくして戻ってきた夜一は、後ろに使用人の若い男性を連れていた。若干顔を引きつらせているところを見る限り、無理矢理、連れてこられたのだろう。
そこから、その3人による会議が始まる。夜一はあまり興味がないのか、大雑把に浦原について告げると、どこかつまらなそうな顔をして菓子をつまんでいた。だが、ちゃんとさくらの話は聞いており、さくらの質問には答えていく。
ここで、使用人の男は、男目線としての意見を、世間一般としての意見を述べていた。
当初夜一が思っていたよりさくらが熱心に考え込んでいたため時間がかかった。正直昔馴染みの彼のことなど、どうでもよいとまではいかなくとも関心を持っていない。しかし、自分の可愛い妹のためには一肌脱ぐしかなかった。
「よるいちさま、きめました!」
目を輝かせて言う少女はなんとも愛らしい。思わず抱き寄せてから膝の上に乗せると頭をグリグリとなでてやった。
「えっと、どうしたんスか?」
「さくらがせっかくお前のために用意したんじゃぞ、ありがたく思え」
「いや、そうじゃなくて、なんかありましたっけ?」
四楓院の屋敷に一時的に置かせてもらっていた荷物を引き取りにきたところ、呼び止められる。そもそも夜一サンがいることは知らなかったが、わざわざ呼び止められるようなことがあるとは。
相変わらずほんの少しだけ顔を俯かせたさくらサンが、無言で包みを差し出した。
何かを貸したりしたことなんてなかったはずだし、心当たりがない。
「今度、お前が昇進すると聞いて、必死になって準備しておったのじゃ。しかも、喜助には黙っておいてくれとまで頼まれての」
「よ、よるいちさま!」
「なんじゃ、本当のことではないか」
昇進、スか。
そこまで言われてようやく思い出す。
「もしかして十二番隊長の件ですか?」
「それしかなかろう?」
さして自分が気にしていなかったことだ。なのに、こんなものまで用意してくれたなんて。
パッと気づいてやれなかったからか、彼女の不安そうな顔にどうも申し訳なくなる。
「さくらサン、気なんて使ってくれなくていいんスよ? 夜一サンの昔馴染みといっても、今では上司と部下ですし」
「そんなんじゃなくて、ただ、うらはらさまをそんけいしてて…」
あらら、泣いてしまいそうっスね…。
そっと彼女に近づいて彼女の目線に合わせる。ゆっくりと手を差し出すと、ボクの手に恐る恐る乗せてくれた。
どっしりとした重みに思わず目を見開く。こんなに細い手がこんなものを持っていただなんて。
「開けてみてもいいっスか?」
中身が気になりそう問いかけると、小さく頷く。
決して包みを破いてしまうことのないように開いてみると、しっとりとしたデザインの扇子と髪紐があった。
「いぜん、おはなししているときに、なんどもかみをかきあげてらしたので、いいかなと…。あと、よるいちさまに、きかいをさわるのがおすきなのだと、ききまして。あつくなると、おからだにもさわりますから…」
いまだに不安感の抜けないような顔で見上げてくる。
ああやっぱり、どうしてこの子は。
「すごく気に入ったんスよー? さくらサン、さすがっスね、ボクのこと、よくわかってます」
ありがとう、と伝えてやると、安堵とともに小さく息を漏らした。そんなに息を詰めることがあっただろうか?
「いちどでもいいので、つかってください…!」
「いえいえ、ずーっと、使い続けますよ、せっかくいただいたんスから」
今後、何年、何十年、使い続けるんだろう。もし、未来の彼女がこれらをみたとき、何と言うのだろうか。
そんな小さなことが頭から離れなかった。
あまり執着することのないボクではあるが、これだけは大切にしていこう。
目の前の花のような笑顔を浮かべた彼女に心の中で誓った。