空を見上げて
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「あ、あの、うらはらさま…」
「…ん? ああさくらサン、また来たんですか? いらっしゃい」
「きょうは、よるいちさまも、おかえりになられたので、ぜひかおをみせにいけと…」
「あぁ、あのひとの指示っスか」
まだまだ小さな姫と出会ってから四楓院の屋敷に来るのは、4度目くらいか。
普段なら瀞霊廷で寝泊まりしているが、過去に世話になった関係で、この屋敷でそのまま、夜を明かすこともある。
使用人たちが昔のよしみでと部屋を貸してくれるのだが、屋敷に来るたび部屋を訪れ、姫はボクに顔を見せてくれた。
「どうしたんスか、一人で。いつもは誰かと一緒なのに」
「わ、わたしだって、ひとりでこうどうできます! それに、ちかくにだれもいなくて…」
「誰にも言ってないンスか? ダメじゃないっスか、心配、かけちゃいますよ」
「…………ごめんなさい」
きつく言いすぎてしまっただろうか。
そんなことが頭をよぎるが、なにしろ子供の扱いなどわからない。いくら貴族の子息であろうと、まだまだ幼いのだ。
「次から、せめて一言誰かに伝えてくださいね、ボクも夜一サンに怒られますから」
そんなことを言いながらも何故か、心が軽くなっているのに気づく。屋敷に来たとはいえ、当主が帰ってきたのだから、そちらで忙しいのであろう、ボクは部屋に一人だった。
「…うらはらさま」
以前あったときより少しばかり伸びた髪を揺らす彼女の声に、感じる違和感はなんだろうか。
「さて、今日は何をしましょうか? 普段はお勉強ばかりなんだし、なにかして遊びますか?」
「…いいんですか?」
「あんまり遊んでないと、教養はついても他のことが疎かになりすぎちゃいますから。さくらサン、なんかしたいことはないっス?」
不思議と深く考えずとも言葉が出てくる。
いつも自分のところに来たときに、ボクが彼女に与えるものは楽しみや娯楽でなく、教養だ。
しかし、ボクはあくまで当主の昔馴染みであり、教師でないのだ。
今まで必死に話を聞いてくれていたのも知ってるが、子供なのだから。
「うらはらさまから、よるいちさまのおはなしをききたいです」
「え、夜一サンっスか? 本人から聞くよりつまらないと思いますよ」
「よるいちさま、なかなかごじぶんのこと、おはなししないんです」
ふむ。確かに部下である自分は、本人より客観的なことはわかるが。面白い話は正直ない。
「わかりました、じゃあ、なにから話しましょうか」
彼女を近くに座らせて、考えを巡らせながら、口を開いていく。
幼い頃のやんちゃぶり、護廷十三隊に入ったとき、隊長になったとき。
とくに夜一サンの戦いぶりを聞いている時のさくらサンは、神話でも聞いているような陶酔ぶりだ。
「あの放浪っぷりじゃあ、いつか四楓院家なんてほっぽりだして、帰ってこなくなるんじゃないかと、みんなに心配されてましたんスよ?」
「そんなことありえません! よるいちさまは、せきにんかん、せいぎかん、とうしゅさまとしてのさいのうにあふれたかたなのですよ!」
「あはは、どうっスかね」
笑いながら彼女の小さな頭をぐしゃりと撫でてやる。彼女の髪を整えた使用人には申し訳ないが、無意識に動いてしまったのだから仕方ない。
ほんの少しだけ俯いたさくらサンの顔は緩んでいたので、安心した。
「あ、そういえば」
話終わって、他愛もないことを話しているときにふと思いだす。
「はい、これ」
「…?」
丁寧に包まれたものを手渡すと、きょとりとしたかおで見上げてくる。
笑い返して開けるようにうながすと、慎重に包みをほどいてゆく。
「わあ、おにんぎょう…?」
「ぬいぐるみ、っていう布と綿でできたお人形っス。さくらサンの好みに合うかどうか自信、ないんスけどね」
「これ、どうしてわたしに…?」
たまたま出かけたときに見かけたものを、気づいたときには購入していた。といっても、流魂街で買ったもので、貴族からすれば安物。しかも、くまのぬいぐるみ。ふだん陶器で出来た人形とは触れ合う機会があれど、ぬいぐるみは庶民のものだろう。
「さくらサン、外に出ないし、同世代の子のお知り合いとか、いらっしゃらない、っスよね。夜一サンもたまにしか帰ってこないし。お寂しいんじゃないか、と思いましてね」
今の彼女が抱えられるサイズで、手触りもいい。子供向けのデザインをしているものだ。人形遊びをしたことがあるかは不明だが、子供の孤独を多少なりともうめてくれるだろう。
「ありがとうございます…! こんなのはじめてで」
「いえいえ、こちらこそお世話になってるっスから」
気に入ってくれたようで、ぎゅうっと抱いている。心からの笑顔ももらった。
貴族とは大変だ。子供であっても貴族だからと、大人ぶって見せなければいけない。年相応という言葉とはかけ離れてしまう。
女の子はませているというが、そんなものではなく、大人として扱えるくらいにはなっていることが求められるような世界だ。
「ボク、これから忙しくなっちゃうと思うんで、なかなか来れないンスよ」
「じゃあ、おてがみ、かきます…! おへんじ、くれますか?」
「もちろん、たのしみにしてるっスね」
自分の娘や妹にしては距離が遠く、友というには歳が離れ。
色のないボクの世界にじわりと色を足してゆく少女に、今までの日常を忘れそうになっていた。
「…ん? ああさくらサン、また来たんですか? いらっしゃい」
「きょうは、よるいちさまも、おかえりになられたので、ぜひかおをみせにいけと…」
「あぁ、あのひとの指示っスか」
まだまだ小さな姫と出会ってから四楓院の屋敷に来るのは、4度目くらいか。
普段なら瀞霊廷で寝泊まりしているが、過去に世話になった関係で、この屋敷でそのまま、夜を明かすこともある。
使用人たちが昔のよしみでと部屋を貸してくれるのだが、屋敷に来るたび部屋を訪れ、姫はボクに顔を見せてくれた。
「どうしたんスか、一人で。いつもは誰かと一緒なのに」
「わ、わたしだって、ひとりでこうどうできます! それに、ちかくにだれもいなくて…」
「誰にも言ってないンスか? ダメじゃないっスか、心配、かけちゃいますよ」
「…………ごめんなさい」
きつく言いすぎてしまっただろうか。
そんなことが頭をよぎるが、なにしろ子供の扱いなどわからない。いくら貴族の子息であろうと、まだまだ幼いのだ。
「次から、せめて一言誰かに伝えてくださいね、ボクも夜一サンに怒られますから」
そんなことを言いながらも何故か、心が軽くなっているのに気づく。屋敷に来たとはいえ、当主が帰ってきたのだから、そちらで忙しいのであろう、ボクは部屋に一人だった。
「…うらはらさま」
以前あったときより少しばかり伸びた髪を揺らす彼女の声に、感じる違和感はなんだろうか。
「さて、今日は何をしましょうか? 普段はお勉強ばかりなんだし、なにかして遊びますか?」
「…いいんですか?」
「あんまり遊んでないと、教養はついても他のことが疎かになりすぎちゃいますから。さくらサン、なんかしたいことはないっス?」
不思議と深く考えずとも言葉が出てくる。
いつも自分のところに来たときに、ボクが彼女に与えるものは楽しみや娯楽でなく、教養だ。
しかし、ボクはあくまで当主の昔馴染みであり、教師でないのだ。
今まで必死に話を聞いてくれていたのも知ってるが、子供なのだから。
「うらはらさまから、よるいちさまのおはなしをききたいです」
「え、夜一サンっスか? 本人から聞くよりつまらないと思いますよ」
「よるいちさま、なかなかごじぶんのこと、おはなししないんです」
ふむ。確かに部下である自分は、本人より客観的なことはわかるが。面白い話は正直ない。
「わかりました、じゃあ、なにから話しましょうか」
彼女を近くに座らせて、考えを巡らせながら、口を開いていく。
幼い頃のやんちゃぶり、護廷十三隊に入ったとき、隊長になったとき。
とくに夜一サンの戦いぶりを聞いている時のさくらサンは、神話でも聞いているような陶酔ぶりだ。
「あの放浪っぷりじゃあ、いつか四楓院家なんてほっぽりだして、帰ってこなくなるんじゃないかと、みんなに心配されてましたんスよ?」
「そんなことありえません! よるいちさまは、せきにんかん、せいぎかん、とうしゅさまとしてのさいのうにあふれたかたなのですよ!」
「あはは、どうっスかね」
笑いながら彼女の小さな頭をぐしゃりと撫でてやる。彼女の髪を整えた使用人には申し訳ないが、無意識に動いてしまったのだから仕方ない。
ほんの少しだけ俯いたさくらサンの顔は緩んでいたので、安心した。
「あ、そういえば」
話終わって、他愛もないことを話しているときにふと思いだす。
「はい、これ」
「…?」
丁寧に包まれたものを手渡すと、きょとりとしたかおで見上げてくる。
笑い返して開けるようにうながすと、慎重に包みをほどいてゆく。
「わあ、おにんぎょう…?」
「ぬいぐるみ、っていう布と綿でできたお人形っス。さくらサンの好みに合うかどうか自信、ないんスけどね」
「これ、どうしてわたしに…?」
たまたま出かけたときに見かけたものを、気づいたときには購入していた。といっても、流魂街で買ったもので、貴族からすれば安物。しかも、くまのぬいぐるみ。ふだん陶器で出来た人形とは触れ合う機会があれど、ぬいぐるみは庶民のものだろう。
「さくらサン、外に出ないし、同世代の子のお知り合いとか、いらっしゃらない、っスよね。夜一サンもたまにしか帰ってこないし。お寂しいんじゃないか、と思いましてね」
今の彼女が抱えられるサイズで、手触りもいい。子供向けのデザインをしているものだ。人形遊びをしたことがあるかは不明だが、子供の孤独を多少なりともうめてくれるだろう。
「ありがとうございます…! こんなのはじめてで」
「いえいえ、こちらこそお世話になってるっスから」
気に入ってくれたようで、ぎゅうっと抱いている。心からの笑顔ももらった。
貴族とは大変だ。子供であっても貴族だからと、大人ぶって見せなければいけない。年相応という言葉とはかけ離れてしまう。
女の子はませているというが、そんなものではなく、大人として扱えるくらいにはなっていることが求められるような世界だ。
「ボク、これから忙しくなっちゃうと思うんで、なかなか来れないンスよ」
「じゃあ、おてがみ、かきます…! おへんじ、くれますか?」
「もちろん、たのしみにしてるっスね」
自分の娘や妹にしては距離が遠く、友というには歳が離れ。
色のないボクの世界にじわりと色を足してゆく少女に、今までの日常を忘れそうになっていた。