短編
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カサリ、カサリ。
枯葉を踏む音だけが、城の中庭に響く。
一歩一歩を踏みしめて歩くと、足の下を通して地面の冷たさが伝わってくるような感じがした。
日が沈みかけ、辺りが淡い橙色に染まりかけた頃、少女は中庭に立っていた。
少女がこの城の高い位に居る者というのは、その姿を見ただけで分かる。
美しい着物を何層にも重ね着していて、長く美しい髪は夜空のように暗く、神秘的だ。
その一つ一つの動作からも、気品があふれ出しているようだった。
少女は手の中にある小さな青色を一度見て、そして再び足を進めた。
向かった先は、大きな桜の木の根元。
今は季節のせいでカランと寂しくたたずんでいた。
ふと、少女の小さな唇が動く。
「小太郎。いるんでしょ?」
そう言うと、すぐさま彼女の後方に何かが降り立つ。
キレイな、夕焼けに花を添えるような赤い髪。
彼はこの少女の忍だった。
小太郎は足音を立てずに彼女の横に歩み寄る。
「いつも言ってるのに。隠れて私を見ていなくてもいいって」
「…(俺は、忍だから)」
「…また、そうやって」
チラリと横目で彼を見やると、小太郎は声を出さず、口の動きだけで伝えた。
長い付き合いの少女はすぐに言葉を読み取り、
そして曖昧な苦笑を浮かべた。
小太郎は彼女の手の中を静かに見た。
手の中には、青色。
キレイな青色の羽毛をまとった、小さな小さな小鳥。
その目は硬く閉じられていて、その羽を動かすこともない。
「…今朝、籠の中で死んでいたの」
「………」
静かに、少女は言った。
小太郎も何も言わない。
「この子はお爺様が異国から輸入してくれた小鳥でね、
私が…本当に小さい頃から一緒だった。
小太郎が来る少し前なんだけどね」
「…(覚えている)」
「ふふっ。
あの頃は全然なついてくれなくて、何度も逃がしちゃったよね。
で、小太郎が捕まえてきてくれた」
「…………」
何度も何度も逃がして、何度も何度も小太郎に捕まえてもらった。
私は小鳥が離れていくのが嫌だった。
だから何度も小太郎に頼んだ。
「ま、私が大きくなると、そういうことも少なくなってきたけどね。
だんだん慣れてきて、この子も大人しくしてるようになったの」
嬉しかった。なついてくれたんだと思った。
でも、大人になるにつれて、姫君という立場に立つようになってふと思うようになった。
この子は、幸せなのかな、って。
「籠の中の鳥…。逃げられない、世界の中で過ごす鳥。
飛びたくても飛べない。行きたいところにもいけない。
知らないところに連れて行かれて、人の娯楽のためにただそこにいる。
人間は、小鳥の心なんて知らずに、勝手な思想で小鳥も幸せだと決め付ける。
…そう、確かこういうことを伊達の御方はこう言っていたわ」
――――人間の、エゴなんだ、と。
「……」
「嗚呼、いいの。
こんなの……答えが出ないっていうのは分かってるの。
だから……ただ、聞いていて頂戴」
そう、コレさえもエゴ。自己満足。
ただ自分が納得したいだけ。この気持ちを、考えを口に出したいだけ。
日が沈んでいく。
既に淡い橙色も薄くなってきた。
少女は、小さく白い息をつき、ポツリと呟いた。
「…言葉が分からないっていうのは、本当に酷なものね」
「…(この木の根元に埋めるのか?)」
「…えぇ。ここならたくさんの人が来る。
春になったら桜も咲くし、秋には紅葉も色付く。素敵でしょ?」
「……(そうだな)」
スッと少女から小鳥を受け取り、素早く根元に穴を掘ると、
優しくそのなかに置いて埋めてやった。
「……ね、小太郎」
「…?」
「あなたも、幸せなら幸せって言ってね。
あなたには言葉は無いけど、伝えられるんだから」
「……」
小鳥が埋葬されるのを見つめながら、少女は言った。
小太郎はそんな彼女を少しの間見つめてから立ち上がり、正面に立った。
そして少女の片手をそっと掴み、己の口元に寄せた。
「…(俺は、幸せだ。千夜に仕えられて。その想いはこれからも変わらない)」
「・・・・ありがとう」
淡く微笑んだ彼女の頬には涙の跡がついていた。
枯葉を踏む音だけが、城の中庭に響く。
一歩一歩を踏みしめて歩くと、足の下を通して地面の冷たさが伝わってくるような感じがした。
日が沈みかけ、辺りが淡い橙色に染まりかけた頃、少女は中庭に立っていた。
少女がこの城の高い位に居る者というのは、その姿を見ただけで分かる。
美しい着物を何層にも重ね着していて、長く美しい髪は夜空のように暗く、神秘的だ。
その一つ一つの動作からも、気品があふれ出しているようだった。
少女は手の中にある小さな青色を一度見て、そして再び足を進めた。
向かった先は、大きな桜の木の根元。
今は季節のせいでカランと寂しくたたずんでいた。
ふと、少女の小さな唇が動く。
「小太郎。いるんでしょ?」
そう言うと、すぐさま彼女の後方に何かが降り立つ。
キレイな、夕焼けに花を添えるような赤い髪。
彼はこの少女の忍だった。
小太郎は足音を立てずに彼女の横に歩み寄る。
「いつも言ってるのに。隠れて私を見ていなくてもいいって」
「…(俺は、忍だから)」
「…また、そうやって」
チラリと横目で彼を見やると、小太郎は声を出さず、口の動きだけで伝えた。
長い付き合いの少女はすぐに言葉を読み取り、
そして曖昧な苦笑を浮かべた。
小太郎は彼女の手の中を静かに見た。
手の中には、青色。
キレイな青色の羽毛をまとった、小さな小さな小鳥。
その目は硬く閉じられていて、その羽を動かすこともない。
「…今朝、籠の中で死んでいたの」
「………」
静かに、少女は言った。
小太郎も何も言わない。
「この子はお爺様が異国から輸入してくれた小鳥でね、
私が…本当に小さい頃から一緒だった。
小太郎が来る少し前なんだけどね」
「…(覚えている)」
「ふふっ。
あの頃は全然なついてくれなくて、何度も逃がしちゃったよね。
で、小太郎が捕まえてきてくれた」
「…………」
何度も何度も逃がして、何度も何度も小太郎に捕まえてもらった。
私は小鳥が離れていくのが嫌だった。
だから何度も小太郎に頼んだ。
「ま、私が大きくなると、そういうことも少なくなってきたけどね。
だんだん慣れてきて、この子も大人しくしてるようになったの」
嬉しかった。なついてくれたんだと思った。
でも、大人になるにつれて、姫君という立場に立つようになってふと思うようになった。
この子は、幸せなのかな、って。
「籠の中の鳥…。逃げられない、世界の中で過ごす鳥。
飛びたくても飛べない。行きたいところにもいけない。
知らないところに連れて行かれて、人の娯楽のためにただそこにいる。
人間は、小鳥の心なんて知らずに、勝手な思想で小鳥も幸せだと決め付ける。
…そう、確かこういうことを伊達の御方はこう言っていたわ」
――――人間の、エゴなんだ、と。
「……」
「嗚呼、いいの。
こんなの……答えが出ないっていうのは分かってるの。
だから……ただ、聞いていて頂戴」
そう、コレさえもエゴ。自己満足。
ただ自分が納得したいだけ。この気持ちを、考えを口に出したいだけ。
日が沈んでいく。
既に淡い橙色も薄くなってきた。
少女は、小さく白い息をつき、ポツリと呟いた。
「…言葉が分からないっていうのは、本当に酷なものね」
「…(この木の根元に埋めるのか?)」
「…えぇ。ここならたくさんの人が来る。
春になったら桜も咲くし、秋には紅葉も色付く。素敵でしょ?」
「……(そうだな)」
スッと少女から小鳥を受け取り、素早く根元に穴を掘ると、
優しくそのなかに置いて埋めてやった。
「……ね、小太郎」
「…?」
「あなたも、幸せなら幸せって言ってね。
あなたには言葉は無いけど、伝えられるんだから」
「……」
小鳥が埋葬されるのを見つめながら、少女は言った。
小太郎はそんな彼女を少しの間見つめてから立ち上がり、正面に立った。
そして少女の片手をそっと掴み、己の口元に寄せた。
「…(俺は、幸せだ。千夜に仕えられて。その想いはこれからも変わらない)」
「・・・・ありがとう」
淡く微笑んだ彼女の頬には涙の跡がついていた。