短編
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――ピコン―――…ピコン―――…
白い部屋の中を、無機質で軽い音が単調に響く。
それが僕にとって安心する音。
そして、
君の、命の音だ。
数週間ほど前の話。
僕と君はいつも一緒だった。
幼い頃からよく色んなところに遊びに行ったし、美味しいものも、分け合って食べた。
別に、血の繋がった兄弟というわけでもない。
いわゆる『幼馴染』というもの。
それだけのつながりで、それだけがつながりだった。
そんな風に一緒に大きくなって、子供の頃は一緒だった背丈も僕のほうが大きくなって、
やはり人間という動物であり、僕は男だ。
いつしか君を好きになった。
伝えたい想い。言葉。日を重ねるごとにそれは大きくなった。押さえられないほどに。
だから、君を呼び出した。
待ち合わせ場所を決めて、君にあげるプレゼントを持って、想いの言葉を胸に抱き、
あの場所へ、行った。
だけど、
そこで光っていたのは、無数に輝く赤いランプだった。
「僕のせいだ。ごめん…ごめんね……」
もう何度目か分からないその言葉を呟く。
ベットの上の君は、横になり虚空を見つめたまま何も言わない。
あの場所で、君は事故にあった。
不慮の事故だった。君にぶつかった自動車の運転手は居眠りをしていたらしい。
僕にはなんの責任もない。そう、事実上は。
けれど僕の中でそれで収まるはずもなかった。
僕のせいだ。僕が君をあそこへ呼び出さなければ。僕が君を、好きになんてならなかったら。
そう思うと、死んでしまいたいほどだった。
君は生きている。
生きているけど、動かない。
耳と脳をやられたらしい。
いわゆる植物状態の君は、何も言わないし、開けている目も僕を見ることはない。
僕が君の瞳を覗き込んでも、その瞳はまるで鏡のように僕の苦い顔を映し出すだけ。
「…君の、好きそうな歌を作ったんだよ」
「君が言ってた…あの機械の声、使ってみたんだよ」
「中々調整が難しくてね…色々苦戦したんだよ」
「聞けないのなら、僕の耳をあげるから」
「……ねぇ、君が、好きだよ」
たとえ罪深い僕でも、君が好きなんだ。
君に、殺されてもいいから。
お願いだから、君だけは、僕を嫌いにならないで。
他に何も、いらないから。
「好きだよ。君が好きだよ。好きで好きで、胸が痛いんだ。苦しいよ。…ねぇ」
ギュッと君の白い手を握った。
冷たい、冷たい、白い手を。
その時、小さく君の口が動いた気がした。
「っ!」
ハッと顔を見ると、君は相変わらず空を見つめている。
けれど、本当に微かに口が動いていた。
僕は目を見開きながら、その口を見つめていた。
『(――…キ…………ミ……、の…)』
「…!」
ゆっくり、ゆっくり、僕はその言葉を読み取った。
それと同時に、視界が霞んでいく。
駄目だ。最後まで読み取らなきゃ。ああ、なんて邪魔なんだろう。
拳でそれをぬぐい、君を見つめる。
しばらくして、それを全て読み取ってから、泣き出した。
単調になり続けていた君の命の音は、すでに聞こえなくなっていた。
『(キミの耳なんていらない。キミの心だっていらない。
―――キミがそうやって、苦しんでる顔をみれたらいいよ)』
それが、私の大好きなキミへの罰…。
私に縛り付けるための、罰だから。
君は、薄く微笑んでいた。