可愛いのも男前なのも罪だと思うの
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ある程度練習に区切りがつき、一つ息をつく。
打ち合っていたコートのそばのベンチに腰を掛けると、空いている右手は無意識に置いてあった自分の携帯へと伸びる。
「…あ」
ーーーふと、コートの端でふわりと揺れる焦げ茶色の髪が目に入った。
ひょこひょこ動くその色にそちらへ目を向けると、そこにはつい2ヶ月程前に入ったマネージャーがいた。
彼女は部員達が打ったテニスボールを転がったそばから拾って籠に入れている。
練習中ともあって、飛んで来るボールはきりがない。
けれど彼女ーーー桜井は嫌な顔一つせず、せっせとボールを拾い集めていた。
「ーーーでね、その男の子がすごい可愛かったの!」
「ほんまに、千夜ちゃん可愛いの好きやねぇ。」
授業の合間の休憩時間。
トイレから戻った俺が教室に入るとそんな声が聞こえる。
楽しそうな上ずった声は、あまり部活中には聞いたことのない声で、
「だからね…ーーっあ、財前くん…!」
いつもその声は、俺が自分の席である桜井の後ろに戻ると聞こえなくなってしまう。
視界の端に俺の姿を捉えた桜井はその間抜けな顔を一瞬こちらに見せた。
「なんやねん、話しとったらええやん。」
「ん、あーいや、えへへ…」
「…はぁ」
困ったようにように笑う桜井に面倒くさくなると、俺はいつものように携帯の画面に目を落とす。
俺が視線を外したとしても、もう彼女の先程のような声が聞こえてくることはないだろう。
耳に届くのは、彼女の1番親しい友達でもある古賀と当たり障りない昨日のドラマの話をしている落ち着いた桜井の声。
部活中によく聞く、『良く出来たマネージャー』の声。
ほんまなんやねん。明らかに意識して変えてるのバレバレやん。
カチカチと気に入ったブログを巡回し、記事を流し見しながらも浮かぶ考えは別のもの。
部活で驚くほどマネの仕事を完璧にこなし、サポートに徹してくれている桜井。
先程の、好きなものの話で盛り上がる桜井。
別に部活と教室でキャラが違うなんてそんな気にならないことでもある。
オンとオフがはっきりしていると捉えることもできる。
問題は、俺がいるのといないのとで態度が切り替わっているところだ。
それはつまり、俺を意識して、意図的に態度を変えているということで。
何か、違和感を感じる。
「…めんどくさ…」
ふいに口から漏れたその言葉は、幸い古賀と話し込んでいる桜井には届かなかった。
この違和感が、喉に引っかかった魚の骨のようにチクチクと気持ち悪い。
いっそはっきりと聞いてやろうか。
そう思って彼女の背中をちらりと見た。
「…さ『キーンコーンカーンコーン』
俺の声は面白いくらいタイミング良く鳴ったチャイムにかき消される。
桜井の前に座っていた古賀も移動し、彼女も次の授業の準備を始めた。
完全に声をかけるタイミングを失った俺の顔は、さぞかし滑稽なんだろう。
…めんどくさいわぁ。
今日何度思ったかわからないその一言を胸にこらえ、ぱたんと携帯を閉じた。
打ち合っていたコートのそばのベンチに腰を掛けると、空いている右手は無意識に置いてあった自分の携帯へと伸びる。
「…あ」
ーーーふと、コートの端でふわりと揺れる焦げ茶色の髪が目に入った。
ひょこひょこ動くその色にそちらへ目を向けると、そこにはつい2ヶ月程前に入ったマネージャーがいた。
彼女は部員達が打ったテニスボールを転がったそばから拾って籠に入れている。
練習中ともあって、飛んで来るボールはきりがない。
けれど彼女ーーー桜井は嫌な顔一つせず、せっせとボールを拾い集めていた。
「ーーーでね、その男の子がすごい可愛かったの!」
「ほんまに、千夜ちゃん可愛いの好きやねぇ。」
授業の合間の休憩時間。
トイレから戻った俺が教室に入るとそんな声が聞こえる。
楽しそうな上ずった声は、あまり部活中には聞いたことのない声で、
「だからね…ーーっあ、財前くん…!」
いつもその声は、俺が自分の席である桜井の後ろに戻ると聞こえなくなってしまう。
視界の端に俺の姿を捉えた桜井はその間抜けな顔を一瞬こちらに見せた。
「なんやねん、話しとったらええやん。」
「ん、あーいや、えへへ…」
「…はぁ」
困ったようにように笑う桜井に面倒くさくなると、俺はいつものように携帯の画面に目を落とす。
俺が視線を外したとしても、もう彼女の先程のような声が聞こえてくることはないだろう。
耳に届くのは、彼女の1番親しい友達でもある古賀と当たり障りない昨日のドラマの話をしている落ち着いた桜井の声。
部活中によく聞く、『良く出来たマネージャー』の声。
ほんまなんやねん。明らかに意識して変えてるのバレバレやん。
カチカチと気に入ったブログを巡回し、記事を流し見しながらも浮かぶ考えは別のもの。
部活で驚くほどマネの仕事を完璧にこなし、サポートに徹してくれている桜井。
先程の、好きなものの話で盛り上がる桜井。
別に部活と教室でキャラが違うなんてそんな気にならないことでもある。
オンとオフがはっきりしていると捉えることもできる。
問題は、俺がいるのといないのとで態度が切り替わっているところだ。
それはつまり、俺を意識して、意図的に態度を変えているということで。
何か、違和感を感じる。
「…めんどくさ…」
ふいに口から漏れたその言葉は、幸い古賀と話し込んでいる桜井には届かなかった。
この違和感が、喉に引っかかった魚の骨のようにチクチクと気持ち悪い。
いっそはっきりと聞いてやろうか。
そう思って彼女の背中をちらりと見た。
「…さ『キーンコーンカーンコーン』
俺の声は面白いくらいタイミング良く鳴ったチャイムにかき消される。
桜井の前に座っていた古賀も移動し、彼女も次の授業の準備を始めた。
完全に声をかけるタイミングを失った俺の顔は、さぞかし滑稽なんだろう。
…めんどくさいわぁ。
今日何度思ったかわからないその一言を胸にこらえ、ぱたんと携帯を閉じた。