短編
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ーーーゲームセット!ウォンバイ、白石!6-2!
日差しが照りつける青空の中、審判の一声が響き渡る。
6-2という大差で勝利したとはいえ、それなりに腹の探り合い、技術のぶつけ合いもありいい試合だったと言えるだろう。
だからこその相手の表情、そして彼の表情なのだと思う。
向こうのコートで大きく肩で息をする相手をそっと見つめ、彼は頬から流れる汗を右手で拭った。
そうしてお互いの健闘を称えるようにネット越しに握手を交わす。こういった光景はスポーツならではの素晴らしいものだ。
ーーーいつも、そう思う。だからこそ、
「やっぱり白石の勝ちだよな」
「当たり前だろ。なんたって聖書テニスなんだから」
「きっと次の試合も余裕だろ」
…そんな言葉が入り込む場所なんてどこにもないというのに。
「お疲れ様」
夕暮れに染まるコートの傍。
ベンチに座る彼に後ろから声をかけると、彼は緩やかに振り向いた。
試合が終わり、バスに乗って四天宝寺中へ戻る。
彼はバスの中でもいつも通りだった。
暴走する金ちゃんを制止し、謙也のボケにツッコミ時折自分からボケる。光のクールな反応に苦笑し、銀さんや小石川さんとこれからの練習スケジュールを組み直す。あと小春ちゃんに言い寄られていつものようにユウジに睨まれてたし、千歳に明日の練習に参加するよう言い聞かせてたっけ。
全部、いつも通り。何事もなかったかのように。
コートに戻る彼の耳にも、あの心無い言葉の数々は届いていただろうに。
「おお、まだ帰ってへんかったんか。」
「白石こそ。早く帰れって行ったのはそっちなのに、結局一人で自主練してるじゃん。」
「あー…まぁ、な。」
差し入れにと近くの自販機で買ってきたスポーツドリンクを手渡す。
彼は罰が悪そうな顔をしながら"おおきに"と受け取ってくれた。
そうして受け取ってすぐに蓋を開けて口に含む。
夕方になると気温が下がってくるとはいえまだ蒸し暑いこの時期だ。喉が乾いていたんだろう。
それは私も同じことで、もう一本のスポーツドリンクを片手に彼の隣へ腰を掛ける。
同じように蓋を開け、一口飲むと体の奥が少しだけ冷えたような気がした。
1つ、息をつき空になったボトルの蓋を閉める彼を横目で見る。
「…白石ってさぁ…」
「ん?なんや?」
「…んー…」
歯切れの悪い私を、彼は訝しげに見つめた。
しばらく何も言わない私に真顔で見つめられると、流石の彼も照れたのか"なんやねん…"と言いながら目を逸らす。
赤いのは夕日のせいではないと思うが、今はそんなことは気にならなかった。
ーーーふと、彼の髪に手が伸ばす。
ポンポンと頭を撫でられると驚いたように目をパチクリさせてこちらを見た。
「なっ…どないしたん?」
「白石は、偉いね。」
「は…?」
「努力して、悩んで、けれどそれを人に見せる訳でもない。辛い思いを飲みこんで、部長として、聖書として立ち続けてる」
頭を撫でながら私の口からポロポロ出てくる言葉に、彼は目を見開いたまま聞き入る。
「"勝って当然"なんてないのに。聖書テニスだって、努力して身につけたものなのに。勝負の世界にいつだって、"当たり前"なんて言葉は無いのに」
「白石は、いつも頑張ってる。だから偉いし、凄いよ」
溢れてきた言葉は私の思いのありのままだった。
拙い、単純な言葉。けれどそれが全てだった。
いつも頑張ってる彼に『頑張ってる』と伝えたかった。
回りくどいことはなんにもしないで、ただ、言葉で。
「………」
相変わらず撫で続けている私。
先程の驚いて見開いていた目は、ただただ真っ直ぐに、私の目を捉えて離さなかった。
少しすると、困ったように、けれど嬉しそうな、泣きだしそうな表情を浮かべる。
そして撫でていた私の手をそっと握り、そのまま流れるように肩に顔を埋めた。
"ありがとうな"
その掠れた小さな一言が耳に届いた。
コートの向こうで、夕日がゆっくりと沈むのが見える。
少し風も出てきただろうか。生ぬるい風が少しずつ涼しくなっている。
明日にはきっとまた、ジリジリと太陽がこのコートを照らす。その下で彼はいろんな立場を背負いながら立ち続けるのだろう。
無理をしないでとも、休んでほしいとも言わない。
ただ、頑張ってることを見ている人がいるということを分かってほしい。
それだけで、人は救われるものだと、私は思うから。
「よーしよし。」
「ふはっ…!俺は犬とちゃうで?」
さっきよりも強めに頭を撫でると、彼はカラリと笑った。
明日からも頑張る彼に、少しの心の安らぎを。
日差しが照りつける青空の中、審判の一声が響き渡る。
6-2という大差で勝利したとはいえ、それなりに腹の探り合い、技術のぶつけ合いもありいい試合だったと言えるだろう。
だからこその相手の表情、そして彼の表情なのだと思う。
向こうのコートで大きく肩で息をする相手をそっと見つめ、彼は頬から流れる汗を右手で拭った。
そうしてお互いの健闘を称えるようにネット越しに握手を交わす。こういった光景はスポーツならではの素晴らしいものだ。
ーーーいつも、そう思う。だからこそ、
「やっぱり白石の勝ちだよな」
「当たり前だろ。なんたって聖書テニスなんだから」
「きっと次の試合も余裕だろ」
…そんな言葉が入り込む場所なんてどこにもないというのに。
「お疲れ様」
夕暮れに染まるコートの傍。
ベンチに座る彼に後ろから声をかけると、彼は緩やかに振り向いた。
試合が終わり、バスに乗って四天宝寺中へ戻る。
彼はバスの中でもいつも通りだった。
暴走する金ちゃんを制止し、謙也のボケにツッコミ時折自分からボケる。光のクールな反応に苦笑し、銀さんや小石川さんとこれからの練習スケジュールを組み直す。あと小春ちゃんに言い寄られていつものようにユウジに睨まれてたし、千歳に明日の練習に参加するよう言い聞かせてたっけ。
全部、いつも通り。何事もなかったかのように。
コートに戻る彼の耳にも、あの心無い言葉の数々は届いていただろうに。
「おお、まだ帰ってへんかったんか。」
「白石こそ。早く帰れって行ったのはそっちなのに、結局一人で自主練してるじゃん。」
「あー…まぁ、な。」
差し入れにと近くの自販機で買ってきたスポーツドリンクを手渡す。
彼は罰が悪そうな顔をしながら"おおきに"と受け取ってくれた。
そうして受け取ってすぐに蓋を開けて口に含む。
夕方になると気温が下がってくるとはいえまだ蒸し暑いこの時期だ。喉が乾いていたんだろう。
それは私も同じことで、もう一本のスポーツドリンクを片手に彼の隣へ腰を掛ける。
同じように蓋を開け、一口飲むと体の奥が少しだけ冷えたような気がした。
1つ、息をつき空になったボトルの蓋を閉める彼を横目で見る。
「…白石ってさぁ…」
「ん?なんや?」
「…んー…」
歯切れの悪い私を、彼は訝しげに見つめた。
しばらく何も言わない私に真顔で見つめられると、流石の彼も照れたのか"なんやねん…"と言いながら目を逸らす。
赤いのは夕日のせいではないと思うが、今はそんなことは気にならなかった。
ーーーふと、彼の髪に手が伸ばす。
ポンポンと頭を撫でられると驚いたように目をパチクリさせてこちらを見た。
「なっ…どないしたん?」
「白石は、偉いね。」
「は…?」
「努力して、悩んで、けれどそれを人に見せる訳でもない。辛い思いを飲みこんで、部長として、聖書として立ち続けてる」
頭を撫でながら私の口からポロポロ出てくる言葉に、彼は目を見開いたまま聞き入る。
「"勝って当然"なんてないのに。聖書テニスだって、努力して身につけたものなのに。勝負の世界にいつだって、"当たり前"なんて言葉は無いのに」
「白石は、いつも頑張ってる。だから偉いし、凄いよ」
溢れてきた言葉は私の思いのありのままだった。
拙い、単純な言葉。けれどそれが全てだった。
いつも頑張ってる彼に『頑張ってる』と伝えたかった。
回りくどいことはなんにもしないで、ただ、言葉で。
「………」
相変わらず撫で続けている私。
先程の驚いて見開いていた目は、ただただ真っ直ぐに、私の目を捉えて離さなかった。
少しすると、困ったように、けれど嬉しそうな、泣きだしそうな表情を浮かべる。
そして撫でていた私の手をそっと握り、そのまま流れるように肩に顔を埋めた。
"ありがとうな"
その掠れた小さな一言が耳に届いた。
コートの向こうで、夕日がゆっくりと沈むのが見える。
少し風も出てきただろうか。生ぬるい風が少しずつ涼しくなっている。
明日にはきっとまた、ジリジリと太陽がこのコートを照らす。その下で彼はいろんな立場を背負いながら立ち続けるのだろう。
無理をしないでとも、休んでほしいとも言わない。
ただ、頑張ってることを見ている人がいるということを分かってほしい。
それだけで、人は救われるものだと、私は思うから。
「よーしよし。」
「ふはっ…!俺は犬とちゃうで?」
さっきよりも強めに頭を撫でると、彼はカラリと笑った。
明日からも頑張る彼に、少しの心の安らぎを。
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