拝啓。サイバー空間より××を込めて。
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オレはどこにでも居るただの一般人である。
いや嘘だ。すまん、二行で終わる嘘を吐いてしまった。
正しくは人ではなくサイバーエルフだ。この世のスーパースペシャル科学技術を結集して作られたプログラムとデータの生命体。レプリロイドとはまた別種のテクノロジーの塊、か弱くてキラキラしたぷりちーゆめかわな電子妖精ちゃんだ。すまん、また世迷い言を宣ってしまった。マジ何言ってんだろ。
一般通過サイバーエルフであるこのオレだが、そこそこに波乱万丈の人生を歩んでいる者である。人じゃねーけど。
あの当時の世界の情勢は、『歯向かうレプリロイド絶対殺すバーサーカー国家と化したネオアルカディアvs絶対生き残るサバイバーと化した反政府組織レジスタンス』の構図だった。
ころころ殺し合いコロコロ転がった世の中を流れに流れ、ネオアルカディアに捕まってケージにブチ込まれていたところをレジスタンスのクソつよイケメン金髪レプリに助けられたのが人生の転機のひとつだった。
とにかくそれからというもの、レジスタンスの中心的人物である人間の少女に手を貸しながら今日まで生きている。こんなんでもオレは組織の一員なのだ。どや!
と言っても、現在では先に述べたネオアルカディアvsレジスタンスの構図はもう無くなっていて、何か知らんが生き残った旧四天王連中がせっせとネオアルカディアを立て直してるし、オレらもそれに協力する形になっていた。……だいたい、あっちの連中、よくよく話してみれば悪い奴ではなかったりするんだよな。今までは立ち場が丸っきり違ったり情勢がややこしかったりしただけで、なんだよコイツ根っこはマトモじゃねーかよって思うことが多くて最初は戸惑ったもんだった。
特にアイツ、あのあれ、なんつったっけ、可愛い名前の……ツンデレっぽい緑のアーマーの……ハーピー(名前うろ覚え)だっけ?あいつとか。何だかんだ文句言いながら、現在行方不明になってるオレらの仲間達を捜索してくれている。だからはよ帰って来んかいクソつよ金髪レプリとその同伴者!お前らのことだよオイッ!
なにはともあれ根本にあったエネルギー問題は解決できたらしいが、バイルとか言う逆怨みジジイの残党は各地で揉め事を起こしている上に、ネオアルカディア管轄地区の外に出ればイカれたイレギュラーだの無法者だのがアホほど闊歩している。
きっちり線を引いたように『平和な世界』になったわけではないが、みんなでそれなりに良いご時世に持っていこうと一生懸命なのであった。
閑話休題。
正直なところ、今のオレの状況を考えるとなかなかのっぴきならなくて、こういうバカなノリでいっちょまえにモノローグとか考えていないとやってられねーのである。そして自分語りしたいお年頃なのだ。
「あ゛ーーーシエルちゃん心配してっかなァーーぁあ゛」
協力している元レジスタンスの少女から、『サイバー空間内部を経由して、僻地のトランスサーバーの稼働状況を確認する』というお使いを頼まれて早くも二日目。オレはまたしてもケージにブチ込まれていた。うせやろ!?……マジなんだよなぁ。
端的に言うと、お使い任務遂行中、見知らぬ変な連中に捕獲されてここまで来てしまった。こんな邪魔が入らなければ一日で終わる仕事だったはずなのによぉ!なんでこんなとこで捕まらなきゃならんのか。
外を見渡してみる。狭っ苦しい牢屋みたいなスペースにサイバーエルフ用のケージが積まれていて、その一角には同じように拘束されてるレプリっぽいやつらが押し込められている。まさしく、“研究対象の保管場所”って感じだ。
助けを呼ぼうにも、どうやらこの部屋の中、妨害電波たれ流しのジャミングまみれ状態でウンともスンとも通信できやしねー。お手上げ状態。はークソ。
今現在ここの人数は五人。全員に話しかけてみたけど、街を歩いてたら捕まったとかいつの間にかここに来ていたとか、オレとほぼ変わらない境遇だった。
つい三十分くらい前にも、いかにも研究員ですって風体のレプリが意識の無いちっさい子を抱えてきて、そこの床に雑に寝っ転がしていった。そのあとしばらくしてまた何処か別の所に連れてかれちまったけど。ぐったりして声掛けても反応が無かったから、その子も同じく誘拐されてきたんじゃないかと思う。
オイオイ怖すぎねーかここ。……もうあれだろ、倫理観皆無のマッドサイエンティストのアジトかなんかだろ。そこらへんから適当に攫って集めてくるお手軽な現地調達!キサマを研究しつくしてやるフハハハ~~とか言っちゃうやつ。
そんなこと言っていいのか??おん??オレ様のバックには元四天王のハーピー(うろ覚え)がついているんだぞ???覚悟はできてんのか??ん??……なお、呼び付けたら来るかどうかは自信がない。(そもそも外と連絡取れねーけど) そして、あいつからは変な生物を見るような目を向けられた記憶しか出てこない。
「ハァ……なんとかならないもんかね……」
なぁんつって、バカなことでも考えていないとやってられないんだよマジで。このままどう扱われるのか、連れて行かれた子がどうなるかなんて、ヤバそうなことをイメージしたくねーよ……。オレは無事生き残って仲間の元へ帰りたいのだ。
たまに見回りに来るやつが居て、ケージと拘束具の状態確認をして戻っていく。その間に上手く隙を作って脱出できればいいけど……あぁ、オレ一人じゃここの子ら全員を連れて逃げるにはちと荷が重い。何か策を練らないとな。
「どうせならどっかで爆発でもしてくんねーかなあ。そんで都合良くココが停電でもして、そのタイミングで脱出なり通報なりできりゃ御の字なんだけど。そんな上手い話、
―――ずどぉぉぉ……ぉん。
――ばちん、
腹の底に響くような爆発音と、点滅して消える部屋の明かり。非常灯の小さい光が出入り口の方に灯る。
ぴぴぴっ、がこん、と音がして、出入り口のドアとケージのロックが解除される。
これ全部が今、一度に起きた。とてもとても都合良く。タイミング良く。
…………。
……………………。
……はい???マジ?こマ???
オレ混乱。
「マジかよ……???」
辺りを見回す。
どゆこと?オレ何もしてないけど。意味も無く小声でお気持ち表明してただけだよ。
誘拐被害者の同室メンバー達が、怯えたようにざわめいた。
「な、何の音ですか!?」
「爆発じゃねーかな?」
「どうしたの?檻が開いてるよ?」
「わかんねー。外からだったな」
「誰か来たのかな。出してもらえるかなぁ」
「デリートされちゃう?私たち始末されちゃいますか……?」
「いやさすがにイキナリそりゃ無いだろ」
さざめく声に逐一ツッコミをいれてしまう。そんなことをしつつもしかし、これは降って湧いたチャンスだという気持ちがもくもくと発生する。何が起きたか解らないが、このタイミングを逃す手はないだろ。総員脱出すっぞオラッ。
「……なぁ、みんな動けるよな?」
ケージの中から被害者達みんなの顔を見渡す。青褪めていたり脅えていたりするが、それぞれが黙って頷いていた。
「よし、だったら、」
「ぁ……ま、待って。誰か近づいてきていませんか?」
「へ?」
一人が上げた声に、一同が沈黙する。ここのアジトの機械はたぶんほとんど止まっていて、稼働音も何も無い静けさが広がっている。
ドアとか非常灯とか最低限のエネルギーが通っているだけ。――その向こう側から、軽い足音が聞こえた気がした。
おぅ……これはちと、マズいタイミングだ。誰かこっちに近付いてくる。見回りのやつだろうか。
眠っているフリをして、ロックが解除されていることに気づかないフリをして、黙っていよう。そんな意味を込めて、口に手を当ててみんなの顔を順繰りに見つめる。意見が合致した。それぞれが息を潜める。
窺っている間に、例の足音はだんだんと近づいて、ドアが開かれた。誰かがするりと入ってくる。驚くほど静かで、何かそういう『荒事』に手慣れていそうな動作をしていた。オレは寝たフリをしつつ、薄っすら目を開ける。
「(……なんだこいつ)」
明らかにここのアジトのやつじゃなかった。
小柄で細身だ。なんつーのか、太腿くらいまでの丈の……レインコート?マント?ローブ?そういうのを着ていて、ご丁寧に頭にはフード。レプリのフットパーツが見えた。薄暗い中でも、青っぽい色をしているのが解る。
……フィクションなんかで出てくるユウレイとかオバケってやつに似ている気がした。そいつはそこに居る筈なのに、存在があやふやでブレている。そういう誰かの影法師。……いや、違う意味でビビったわ。マジでホラーかよと。これで返り血的なペイントがベッタリついてたらオレは気絶してたかもしれん。
そいつは部屋の真ん中まで歩いてきて、オレらの顔を何も言わずぐるりと見渡す。フードの下の、真っ直ぐ結ばれた口元だけが見えた。
「……居ない」
ぽつんと吐き出されたそれは大人じゃない、少年的な声だ。
今こいつ、居ないっつったか?誰か探してるのか?探しに来たのか?ん?……と、ここでぴーんと閃く。
はっはーん!解ったぜ!
もしかしたら、ここに連れて来られた被害者の仲間か?奪還しに来たとかそういうのじゃないか!?大昔のムービーよろしく、敵の本拠地に破壊工作ドカン!ヨシ!みたいな?……いや待てよ、以前のオレら……っつーか例のクソつよ金髪レプリ氏も似たような事やってたな……??
いやいやそれはそれとして、これは声掛けてみるべきだろ!と即決する。黙って寝たフリ作戦は死んだ!プランBへ移行する!……え?プランBの内容?ねーよそんなもん。
何か言いたげな表情で目配せをしてくる周辺を置き去りにして、オレは小さい声で話しかけてみた。
「なぁなぁ、にいちゃん。さっきの爆発はアンタがやったのか?」
「……」
じろっと睨まれた気がした。一瞬だけフードの下から赤く光る目に覗かれた気がした。
それはかつて、ネオアルカディアを守護せんと闊歩していた無数のパンテオンを連想させてきて、背筋が凍る。――だけども眼の前のにいちゃんはアレのようなモノアイではなくて、ちゃんとしっかりアイカメラが二つあった。一瞬だけしか見えなかったけど。
「これくらいの、小さい女の子を探しているんだ。見かけなかったかい?」
「――あっ、ハイ、小さい女の子っすか」
爆発云々は普通にスルーされてしまった。しかし思ったより現実的で冷静、柔らかい言葉が返ってきて、無駄に緊張したのがバカバカしくなる。
いきなり縁起でもねーフラッシュバックは止めやがれ下さい。パンテオンな、アレ嫌いなんだよオレ。怖ぇーもん。
「さっきまで居たっすよ。また別のとこに連れてかれたけど」
「……」
「ここに居るのはオレも含めてみんな攫われてきたんすよ。なんか科学者風情の連中が集めてるみたいで」
「……………………ああ、なるほど。良くわかったよ」
「えっ、アッハイ」
んんんーー??あるぇーーー??にいちゃんの声のトーンが二段階くらい下がった気がするぞ?あの女の子は、大切な人だったのだろうか。
これはあれだな、怒らせちゃいけないタイプの性格をしているおヒトなのだな。たぶん普段は真面目で穏やかなのにスイッチ入ったら無茶苦茶をやっちまう系だ。オレは知らんぞ。ここの研究員よ南無三。
にいちゃんがふと手を動かす。浮かび上がった四角いホログラムが、こちらに向かって投げ渡された。なんじゃこりゃと見てみると、建物の内部構造やら周辺の地図が細かく書き込まれている。
「マップデータ?」
「この施設と、この街のものだよ。すぐにここの予備ジェネレータも落ちるから、脱出するのならその後にするといい。街のセキュリティの方にも通報してあるし、じっとしていてももうじき誰かが駆け付けてくるけれど」
「おおお……感謝するっす!」
いつの間にか寝たフリを止めていた周辺のみんながソワソワと動き出す。やったぜ、これでなんとかなりそうだ!今度こそ総員帰宅!
まさかの連続ご都合展開に、思わずその場でサムズアップ。こんなケージの中でなけりゃその場でぴょんぴょんして、被害者一同みんなにハグして回っていたところだった。
「……それじゃあ、これで」
そんなオレらを横目に、にいちゃんはサッサと踵を返して出て行こうとする。目的の探し人が居るから急ぎたいんだろう。そりゃそうか。その為に来たんだろうしな。
その影法師みたいな背中に、みんなが声をかけた。
「ありがとう、おにいさん」
「感謝です~!」
「ありがとうございます!」
「助けてくれてありがとね!」
「にいちゃん、サンキュな!あと、その子が大事なら、ちゃんと手とか握っといてやれよ!迷子にさせちゃ可哀想だぜ?」
一瞬、にいちゃんの動きが停まった。
「……」
何も言わずに振り返って、その口元が少しだけ笑っていた気がした。フードに隠れているはずなのに、優しい表情をしている気がした。そういう雰囲気だった。全部『気がした』だけで、顔なんてろくに見えなかったはずなのに不思議だ。
それからまた何事もなかったように、にいちゃんは出て行ってしまった。軽い足音が施設の奥の方へと離れていった。
「……あ、名前聞きそびれちまったな」
うーん、名乗りもせず去っていく後ろ姿……実にカッコイイぞ。めっちゃクールだ! ユウレイだとかパンテオンだとかテキトーなこと思っちまってゴメンな。にいちゃんはイケメンで良いヤツだよ。あのクソつよ金髪レプリといい勝負だぜ。オレが保証してやる。何の根拠もねーけどな!
そのあと、にいちゃんが向かった施設の奥からドンパチやり合う派手な銃声が聞こえ始め、それにすっかりビビり散らしたオレ達は大人しく助けを待つことになった。……やっぱあのにいちゃんは戦い慣れしてるおヒトだったんだろうなあ。
んでそれから、やっと到着した街のセキュリティのレプリに無事助け出されたのだった。
あれやこれや事情聴取され、しかし大した事を知らない被害者だと解るとあっさりと解放された。どうやらあのアジトはオレの予想通り、あちこちからレプリやサイバーエルフやらを攫っているマッドなサイエンティスト共の研究所だったようだ。謎の行方不明者多数の報告があちこちから上がっていたらしく、手掛かりも無いまま捜索は難航。その矢先に今回の研究所の情報が届けられたとか。
連中はレプリなら電脳の中身を、サイバーエルフならその構成するプログラムを、片っ端から解析して収集していたらしい。まるで『翅をピン留めされた虫の標本』みたいな感じで処理されてたやつも居たとかで…………ヒェッ。
も~~~~止めてくれよマジでさぁ。頭パカーンで電極グサリかよ。ロボトミーか。可愛い女の子捕まえてエグい事すんの止めろよホント。趣味悪いわ! 一応、収集されていた被害者もみんな修復されるっつーから良かったけど!
それで何をやらかそうとしていたのかは想像もつかんが、大昔の妖精戦争の二の舞みたいなオチだけはゴメンだわ。シャレにならねーからな!せっかく色んなやつが世の中を立て直そうと頑張ってるのによ!
でもって結局、奥の部屋に残ってたのは戦闘の痕跡と壊された機械、気絶して床に転がる研究員レプリ達だったそう。研究員共は全員しょっ引かれて一件落着だったが、あのにいちゃんやちっさい女の子の姿は影も形も無かったらしい。
いやスゲーな。ちゃんと助け出して、とっとと去っていったんだろうな!名前を聞けなかったのが超惜しい。次見かけたら絶対聞いとこ。なんなら礼もしたいし、ついでに顔も見せて欲しい。(そのコートを)脱げ!ぜひとも!
―――とにかくそんなこんなで、お使いのはずが無駄に濃厚な数日間を過ごすハメになった一般サイバーエルフであるこのオレだが、きちんと無事帰宅することができたのだった。
例の元レジスタンスの少女――シエルちゃんや仲間のみんなにめちゃくちゃ心配されまくったし、これ以上仲間が行方不明にならなくて良かったと泣かれてしまったのだが……まぁ、それはまた別の話っつーことで。