一般人(レプリ)は生き延びたい。
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青空が広がる市街地の中。その少年は上機嫌な様子で目的地を目指していた。
額と胸元の丸いクリスタルが淡く輝き、少しの緊張感と悪戯っぽさをたっぷり含んだ緑色のアイカメラがぱちぱちと瞬く。その白い顔面の、眉間から鼻筋にかけての大きな傷が剣呑な印象を与えてくるものの、楽しげな口元がそれを打ち消している。跳ねた栗色の髪と紺色のアーマーを纏った少年型レプリロイド・アクセルは、ちらりと壁の向こうを覗き見た。きょろきょろと辺りを見回して誰も居ないことを確認する……何かが居ても別に構わないのだが、気分の問題だ。
―――いやー、ほんと久しぶりだなー。
弾んだ気持ちで考えながらそのまま壁を越え、灰色のコンクリートが晒されたビルの間を軽い足取りで駆けていく。
ここ一帯は、たくさんの人やレプリロイドが行き交う大通りから外れた先の、荒れた看板や古いビルが並ぶ区画。ひび割れたアスファルトと放置された車両が目立つが、浮浪者や無法者のような人影――これはレプリロイドも含む――の姿は無い。つまりは寂れてはいるものの、治安が悪い訳では無いということだ。
―――まぁそんなヤツらに負けるような僕じゃないんだけど。
襲ってくるような不届き者が居ればコテンパンに伸してやればいいのだ。何も問題はない。
そもそもここ周辺は、古いとはいえそれなりの数のレプリロイドが住んでいるはずだ。家賃が安いと彼女から聞いていたし、もしかすると人間も居るのかもしれない。
何度目かの角を曲がり、他所の雑居ビルの中庭を無断で通り抜け、ショートカットの代わりに壁蹴りで建物を乗り越えていく。パルクールの要領で突き進むことしばし、アクセルは目的のビルを視界に入れる。
―――あれ?識別信号が無いな。もしかして留守? それとも、オフにしてるだけ?
ここまで近付いたというのに、反応が自らの索敵センサーに引っ掛からない。ということは彼女は不在かもしれない。しかし、かと言ってこのまますごすご帰ってしまうのも勿体ない。
そもそも時間が空いてしまったとはいえ、連絡を入れてみたのに応答しないあちらが悪いのだ。シャットアウトされてしまうくらいなら、もういっそのこと住処まで直接押し掛けてしまおう!……などと考えて、今現在に至る。当人からすれば迷惑千万、門前払いをされても仕方がないかもしれないが、知ったこっちゃない。
目的のビルに到着する。エントランスホールには入らず、壁伝いに上階へ。階段の踊り場から廊下へ音もなく降り立った。
―――へっへーん。身の熟し、けっこーサマになってたんじゃない!?
そんな自画自賛を思い浮かべつつ、コンクリートが剥き出しの廊下を進み、彼女の住処のドアの前までたどり着いた。
小さなコンソールを慣れた手つきで操作して、何の躊躇いもなく入り口を解錠する。ガコン、と音を立ててロックが外れ、扉が開く。……ちなみに、スペアキーはずっと前に貰ったものだ。
部屋に入ると自動で照明が点灯した。空調の音が静かに響き、空気が流動する。
「……なにこれ。夜逃げでもする気?」
入り口から進んですぐに、両手で抱えきれるサイズのコンテナが積み上がっていた。指先でつついてみると、何らかの荷物がみっちり詰まっているようだ。
アクセルは内心で首を傾げつつ、声を張り上げる。
「アトラ?僕だけどー!……アトラーー!?本当に居ないのー?」
返事は無い。無いので、我が物顔で部屋の中を進む。
「勝手にお邪魔しまーす」
手狭な室内には、スリープ用のカプセル、小さなデスクの上にはモニターと端末が置かれている。以前訪れた時はもっとごちゃごちゃとした物がたくさんあったはずなのだが、今は全体的に片付いている。
彼女が愛用している銃器のパーツ、アーマー用の変なデカール、お気に入りだった据え置き型レトロゲーム……ここにあったはずのそれらはさっきのコンテナの中に詰め込まれているのかもしれない。
じろじろと、辺りを無遠慮に見回す。がらんとしたこの様子を見ていると、本当に引っ越しでもする予定がありそうだ。
―――僕に一言も言わずに? ちょっとそりゃ無いんじゃないの?
むすっと頬を膨らませて考え込む。途端に詰まらない気分になって、デスク前のスツールにすとんと座り込んだ。
彼女は……友達……そう、友達だ。もしかしたら腐れ縁とか悪友とでも表現したほうが良いかもしれないが、それなりに付き合いは長い。気心の知れた仲であり、よく一緒にイレギュラーを倒したりしていたくらい息も合うタイプだ。自分はそう思っていたのだけれども。
もやもやとしている間、部屋の片隅にぽつんと置かれている小型の冷蔵庫を発見した。前はあんなものは無かったような気がする。初めて見る物に好奇心を掻き立てられ、考え込むことを一時放棄しつつニヤリと笑う。
「中身、見ーちゃおー」
座ったままのスツールごとずりずりと移動する。彼女が見れば「おい床が傷付くだろやめろ!」と慌てていたかもしれないが、本人が居ないので知らない。仕方がない。
片手で冷蔵庫を開く。微かな冷気が人工皮膚を撫でていく。
「……えっ?お菓子?」
スティックタイプのケーキバーが並んでいた。横にはレプリロイド向けエネルギー缶が収まっていたのだが、食べ物のほうが種類も数もずっと多い。
意外だ。以前まで、彼女はエネルギーの摂取方法に無頓着だったはずだ。記憶の中の彼女はエネルギー缶かミネラルウォーターばかり摂っていたし、人やレプリロイドの味覚を楽しませる嗜好品にはさほど興味が無さそうだったのに。
「……何かあったのかな」
何かあったから、自分と連絡を取りたがらないのか。
―――相談も無しに? 僕ってそんなに頼り甲斐無いかな。
冷蔵庫からケーキを一つ手に取って、包装を解く。頂きまーすと頭の中だけで呟いて勝手に食べ始める。美味しい。やっぱり甘いモノは好きだ。もぐもぐと頬張って、残った包装を隣のゴミ箱へ投げ込む。冷蔵庫からまた取って、遠慮なく食べ始める。少し安っぽいフルーツの風味が味覚を刺激する。あっという間に四つほどを食べ尽くしてしまった。
「……」
食べながら、なんだか物凄く面白くない、と思った。彼女とは良好な関係だと思っていたのに、知らないうちに知らない状況になっている気がする。確かに、長らく連絡を取ることができなかったのは自分の落ち度ではあるのだが。
―――だってレッド達があんな事になってさ、大騒ぎだったんだし……。ニュースでもやってたじゃんか。知らないはずないよね。
今はもう気持ちの整理も付いて、自分の立ち位置も固まってきたところなのだ。ようやく一段落ついた頃合いなのに、しかし彼女は姿を見せてくれない。
―――ハンターベースのみんなは確かに良いひと達ばっかだけどさあ、やっぱ昔っからの友達って別枠っていうか……。
ますます面白くない。面白くないのだが、どうしてそう感じるのかはイマイチ解らない。解らない事だらけで首を傾げる。
とにかく、彼女を捕まえた暁にはたくさん文句を言ってやろうと思いながら唇を尖らせる。
「ちぇー、なんだよもー」
冷蔵庫から追加でケーキを取り出して、またかぶり付く。いっそのこと悪戯として残らず食べ尽くしてしまおうかと良からぬ考えがよぎったとき、不意に通信回線から、甲高い呼び出しのアラートが鳴り響いた。
「うわぁっ!?…っとと、びっくりした……」
取り落としそうになったケーキを慌ててキャッチする。
まだ聞き慣れないそれの発信元は、ハンターベース司令部からだった。ふぅと息を吐いて回線を開く。開いた直後、最近やっと慣れてきた女性レプリロイドの声が響いてきた。
(アクセル、聞こえる?)
(どうしたの?エイリア。なんかあった?僕、今外に居るんだけど)
(実は少し問題が起きていて……一旦ベースまで戻ってきてくれるかしら。実は、警邏任務に出たゼロの行方が解らなくなってしまったのよ。今、捜索チームを組んでいるところだから貴方も出て欲しくて。エックスも出る予定よ)
ベースにてオペレーターを務めるエイリアが、冷静でありながらも戸惑った様子でそう告げる。
(ええ!?ゼロが!?……確か今日は単独任務だったよね?急いで探さないと!すぐ戻るよ!)
(ええ、お願いね。ゼロなら大丈夫だとは思うけど、なるべく急いでちょうだい)
(了解!十分以内に帰るから!それじゃ!)
回線を閉じる。ケーキの残りを口へ放り込んで、スツールから飛び降りた。
こんな時に転送装置を使わせてもらえればあっという間なのだが、ここはベース近隣の地区であるが故に許可が下りない。来た時と同様に自力で帰るしかない。
心持ち早歩きで部屋の入り口へ向かう。扉を前にして、くるりと振り返る。
「それじゃアトラー!また来るからー!今度はちゃんと家に居といてよねー!」
無人の室内へ向け、腹いせ混じりにそう叫んで部屋を後にした。きっちりと施錠をする。
誰も居ないビルの廊下を駆け抜ける。来た時とは逆に、階段の踊り場から階下へ向かって一息に飛び降りる。すとんと綺麗に着地を成功させた。
視界の端にマップデータを表示して、ハンターベースまでの最短ルートを算出しながら思考を回す。
―――これはきっと、エックスもナーバスになってるんだろうな。
あのゼロが行方知れずとは、これは一大事なのではないか。……その割には何となく、危機感が若干薄かったような気がするが、気の所為だろう。
エックスや他のみんなの様子が気になるところではあるが、しかしここで怯んでいてはいけない。こういう時こそ実力を発揮していかなければと意気込んで、アクセルはベースへの帰路についたのだった。
「ゼロ!メンテ終わった?」
「アクセル……ああ、繋ぎ直しただけだからな」
「どうなるかと思ったけど、無事でよかったよ!」
「あれくらいなら問題ない。お前らが大袈裟すぎるんだ」
「えぇー。なんか平然とし過ぎじゃない? ……ゼロってさ、行方不明慣れしてるの?」
「なんだ、急に」
「だってさ、みんなしてなんとなーく薄っすらと『あ、またか』みたいな雰囲気してたし」
「……結局はただの通信妨害だったからな。こんなものは行方不明のうちに入らないだろう」
「うーん。そうかなあ?」
「それに、運良く協力者も居た。比較的無事だったのはそいつのお陰でもある」
「(あの怪我で比較的無事って……どういう基準なの…)そ、それはラッキーだったね。どんなやつだったの?」
「量産型レプリロイドだったが、初めて見る相手だった。お前と同じく銃器を使っていた。ライフルだったな」
「え?ライフル?」
「ああ。フェイスガードも装備していた」
「ええー!?」
「……なんだ?」
「まっまさか……!これくらいの背丈で、あっちこっちカスタマイズしまくってるアーマーで、大型ライフルぶん回していて、」
「お前の知り合いだったか」
「すっごく逃げ足早い女の子のレプリロイド!?」
「……あいつは女だったのか」
「あーーー!!もう!!家に居ないと思ったらそっちに居たの!!?バカアトラーーーー!!!」
「?」
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