一般人(レプリ)は生き延びたい。
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時刻は夕方。雲ひとつ無く、風も弱く、ただ真っ赤な夕日が容赦なく地上の廃墟を染めている。そんなところにぼくは来ていた。
ここは公安によって、レプリロイドを含む一般人の立ち入りが禁止とされているエリアだ。ぼくは当然、許可なんて貰っていない、完全なる不法侵入である。
なんでこんなところに居るかといえば、目的の物品を手に入れるためだ。怪しい取引とか強盗とかそういうヤバい話ではない。モンスターをハントするがごとく、獲物を仕留めて所持アイテム(というか使われている部品類)を頂こう!という算段だ。コレがなかなか高く売れるわけで、美味しい稼ぎになる。
眼の前には廃ビルの列、壊れたたくさんの看板と、地面に落ちてるガラス片やら鉄屑やらがひたすら続いている。それなりに栄えていたように見える旧市街地。人間はもちろん、普通のレプリロイドだってなかなか入りたがらないところ。
かつては要所で警備を行っていたはずの機械の成れの果て、すなわち電脳がイカレたイレギュラー達がウロウロしていて、好き勝手に出たり入ったり、辺りを無差別に破壊して回っている―――と、いう場所だ。
うむ、結構結構。まさに絵に描いたような荒廃した世界観だ。荒れに荒れ、見て見ぬふりをされ、復興など後回しにされている。これを更地にしてまた建て直すのには莫大な予算がかかりそうだし、行政にはそういうアテも無いのかもしれない。超リアルな話。
「素材がいっぱい取れる……ありがとうきみたち!」
周りに誰も居ないと独り言がデカくなる。致し方なし。
イレギュラーハンターによってイレギュラー認定済みとされている、犬みたいな形のでっかいメカニロイド……つまり、本日の目標を追い掛け回してもう三体目。この感じではまだまだウロついているだろう。索敵センサーに引っかかりっぱなし。
どこからやってきたのやら、やたらと数が多い。生き物でもあるまいに、まるで繁殖でもしているようだ。誰かが造って放流しているのかもしれない。誰かって?そりゃ、どっかの元隊長みたいなタイプの悪い奴らとか。
追っていたメカニロイドが瓦礫を避けて跳んだ。身体が伸び、更に首、頭部が上に伸びる。そこを狙って、エネルギーの弾丸をお見舞いした。手元のライフルから一直線に無数の光が射出される。
元から装甲は半壊だったお陰で無事に破壊、そのままの勢いで胴体が地面に落ちていった。がしゃんとぐしゃんの中間みたいな騒音が周りにこだまする。よしよし。…………、
「……ん?」
メカニロイドを倒すことに集中していて気が付かなかった。少し先にレプリのエネルギー反応がある。でも、なんだかちょっと弱々しくて変な感じだ。……何かの罠だろうか。
首を傾げつつ、瓦礫の先を覗き込む。その先には、今さっきのメカニロイドと同型の残骸が転がっていた。
それから広がる赤と金。真ん中にうつ伏せで倒れているのは、鋭角的なシェイプのアーマーと、整った顔のレプリロイド。長い金髪が赤い液体を含んで散らばっていて、薄っすら開いた青目とバッチリ視線が合った。
「―――ぅえ゛っ!?」
慌てて瓦礫の陰に隠れる。心臓……ではなくて、動力炉がどきどきと緊張感を訴えている。
ちょっと待て。落ち着け。今のはなんだ。なんかとても凄くどこかで見覚えのある感じな雰囲気の青年レプリロイドが倒れていたような気がする。
この世界において、赤くて金髪で青目でイケメンなキャラクターなんて一人しか知らない。そういう色彩のレプリは普通に他にもいるんだろうけど、少なくとも特徴に当て嵌まる形をしているのは一人だ。
……ボディカラーが黒かったり紫だったり赤いオーラを纏わせていたりコウモリみたいな羽根で浮いてたり、はたまた記憶喪失していたりと多少の差分はあるものの、とにかく一定のフォルムをしている。
そう。あれはイレギュラーハンターのゼロだ。世間的にも前世的にも有名なレプリロイドが、まるで撒き餌のように唐突にそこに倒れていた。
―――関わりたくない。認知されたくない。
ロクデナシなことだが、ぼくの正直な気持ちはこれだ。だってそうだろ、これからの生存に関わるかもしれないのに、目を付けられちゃたまったもんじゃない。
―――なんでこんなとこに居るんだよ。アンタは強いだろ。どうしてこんなタイミングで怪我してるんだよ。
ゼロは物語のキャラクターで、世界を動かせる登場人物の一人。強いし、慕われているし、自爆しても大破しても復活するようなやつなのだ。だから、ぼくみたいなそこらへんのモブレプリの手助けなんていらないだろう。ただの足手まといになる。治安の悪い街中でたむろってるような無法者なら、相手がハンターのゼロだと認識した瞬間にきっと見捨てて逃げると思う。
―――どうせ放置したって死なない。
決まったストーリーというものがあるのだから、こんなどうでもいい場所で死ぬ運命などではない。ぼくが立ち去ってしまっても、彼は何らかの手段でもって必ず生き長らえる。どんなに傷が深くても、現段階で本当に死ぬことはないはず。
なんどでも蘇ってくるのは彼の方だ。だって彼自身の本懐を遂げていないから。前世のぼくの記憶ではそうなっていた。
―――なのに。
今のぼくはレプリロイドになってしまっている。そして彼らもこの現実で生きていて、まさにすぐそこにいる。ゲームの、フィクションの登場人物ではない。
……顔に傷がある悪友の、得意げで生意気な笑顔が脳裏に浮かんだ。あいつだってこの世界では生きている。人でなくても生きている。
そうだ。キャラクターだから、どうせ死なないからって、今そこで死にかけているのを見て見ぬふりしていい理由にはならない。見捨てるのは後味が悪いから仕方が無いという言い訳を添えて、自分の中で揺れていた天秤が簡単に傾いていく。ちょろいな自分、という諦め。
―――あーーーーーーもう!!クソッ!!!!
腹をくくって隠れている瓦礫から飛び出した。
飛び散った赤い液体に染まる赤いレプリロイドへ、掛ける言葉を必死に考える。
とりあえずこの時点で、声音や表情に干渉してくる感情制御プログラムのリソースを最小限にしておいた。いわゆるポーカーフェイスというやつを作っておく。フェイスガードを付けているのだけど、念には念を。
これで動揺して噛んだり変顔をしてしまうことはない。こういうところ、レプリって便利だよな。
「い、生きていますか?お兄さん。いろいろと大変なことになっていますが……」
怪しまれないように慎重に、ただの通りすがりを装ってフランクに接してみる。
しかしこれは、大変なことどころではない。手足一本ずつ取れてるじゃないか。まさかあのメカニロイドにやられたのだろうか?……ゼロともあろう者が!?
千切られて放り出された手足の位置を横目で確認する。……これが生身の人間だったらもっとヤバかった。グロ注意だった。
細く眇められた青色の目―――目というか、カメラなんだが―――が再びこっちを見て、少し億劫そうに口を開く。
「……この場所は一般の立ち入りが禁止されているエリアだ。お前はここで何をしている?」
……と、かなり心配して声をかけてみたのに、どうしてだろうか凄く睨まれた。あのイケメンボイスで文句を言われてしまった。
「あっ、い、いえ何もしてないです。って、その言い方じゃ、悪い事してるみたいじゃないですか!」
心外だ。ぼくは機能停止したメカニロイドからしかパーツを頂いていないぞ。追い剥ぎだの窃盗だの、本当の悪事を働いているわけではない。と、弁明しようとしたのに、
「……」
「アッいえすみません、ゴメンナサイ……」
なんか解らんけどめちゃくちゃにメンチ切られた。ものすごい圧を感じる。怖すぎんか。
なんだよ、全然死にかけじゃないじゃん。心配していたのに思ったよりも平気そうだぞ。ぼくのさっきまでの一人修羅場時間を返せ。
「あー、そのー……て、手を貸しますから、そちらの仲間の救援要請とか……」
「手助けは必要ない。それより、ここに侵入しているお前の方が問題だ。身元の証明と個体識別信号を―――」
「いやいやそんなことより!この状態で周り見えてます?そこらへん貴方の血で酷い有様ですし、敵がいつ現れるかも解らないですよ!」
「………………」
無言だった。何か物申したそうに、すごく顔をしかめている。本音を言えば、そんな怪我してるくせに職務質問やってる場合か!アンタは何回大破するんだ青い人に謝れと逆に説教をしてやりたかった。いや、できないけどね。
そんなしょうもないやりとりをしている間に、またもやあのメカニロイドがセンサーに引っかかった。ゆっくりとこちらへ近付いてくる。
「ああほら、また来ちゃいましたよ。三体か。リポップが早い」
立ち上がって周りを見回す。まだ姿は見えない。
どうしよう。今この場で、あの動きの早いメカニロイドを三体同時に相手をするのはかなり難しい。ゼロさんが万全の状態であったら問題ないだろうが、守りながらというのは無茶だ。ならしょうがない、どこかへ移動させるしかないか。
えー、背負う?…片足がないから安定しない。担ぎ上げる?…髪とショルダーパーツが邪魔だな。
……選択肢が無いんですけど!?無慈悲。なるべく凪いだ気分になるよう心がける。
「分が悪いので移動しましょう。ちょっと失礼」
「何をして……、おいっ!?」
本当にすみませんと心の中で謝罪を連呼しながら、ゼロさんを抱え上げた。思ったよりも重くないなー(現実逃避)
これ以上はできるだけ雑念を排して余計なことを考えないようにする。
「じっとしていてください」
脱兎のごとく駆け出した。途中でさり気なく、切れて放置されていた赤い手足を回収する。
ゼロさんが鬼の形相をしているのは見ないふりだ。不機嫌極まりない視線がトゲ地帯のごとくめちゃくちゃに突き刺さる。
すみませんすみませんぼくのような雑魚が触ってしまってごめんなさいおこがましくて申し訳ないですゆるして。
「……………………………、何の真似だ?」
「に、睨まないでください。運び方に関してはもうすみませんとしか……。あのシチュエーションで貴方だけ放置して逃げるなんてできませんので」
「……お人好しと言われるだろう」
「まぁ、言われますね。……よっ、と」
デカいコンクリート片をひょいと飛び越える。その間に深い溜め息をつかれた。納得はしていないみたいだけど、こちらの行動の理由には一定の理解を示してくれたのか、意外と暴れることもなく大人しく運ばれてくれている。
たったか走り続けてしばし、索敵センサーにはもう何も入り込まなくなっていた。どうやらあのメカニロイドが居ないか少ない地帯へ抜け出せたようだ。
視界の端に周辺の簡易マップを表示して、目的のポイントを確認する。ここまで来る途中に、何かと使えそうな建物をいくつかピックアップしておいたのだ。厚めの壁があって、屋根も残っている無人の廃屋。たぶん元々は何かのオフィスだったと思う。近くをイレギュラーがうろついても対応できそうな場所で、立てこもるのにちょうどいい。
また一度周りを索敵する。すぐさま対応するべき敵は周囲に居ないようだが、一旦見回りをしたほうがいいかしれない。小型のイレギュラーが潜んで居ないとも限らない。
目当ての廃屋へ駆け込んで、ようやっとゼロさんを降ろした。鮮やかな夕陽がたっぷりと差し込む荒れた空間。それに混ざりきらない赤と金は、壊れかけていても綺麗だった。
「こちらへ近付いて来そうな敵を片付けてきます。救援は呼べそうですか?」
座るような姿勢で壁にもたれさせて、手足を添える。……これでいいのか?解らないぞ。文句言われないから良いんだろう。
「……ジャミングが発生している。今はまだ無理だ」
億劫そうな応答がくる。
と、恐る恐るゼロさんを見てみれば、さっきまでの圧はどこへやら、思い切り顔をしかめて不快な感覚を抑え込む表情をしている。痛覚を切っているのかどうか解らないが、身体はあまり良い状況とは言えなさそうだ。不具合とエラー溜まりまくり、血―――と言うか循環液をばら撒きまくり。たぶん人間だったら脂汗かいて顔が真っ青になっているところじゃないか?今すぐ病院に担ぎ込むべき。
「そうですか。……イレギュラーハンターは確か、ここから離れた都市部に基地がありましたよね?」
言うまでもなく、あの有名なハンターベースのことだ。
「……ああ」
「もしこちらが出ている間に先方と連絡が取れそうならそうしてください」
「なぜ無関係な相手にそこまでする?」
「重傷者を目の前にして放置するワケにもいかないでしょう」
あんまりな物言いにちょっと面食らう。確かに助けるか迷ってしまったのは事実だが、ここまでやっておいて途中で放り出すなんて無責任なことはしたくない。
「お前にメリットは無いだろう」
「どうしてそこまで頑ななんですか。要救助者は大人しくしてろって話ですよ」
もしかして、本人的に手足もげる程度は大した怪我には入らなかったりする?充分に大破だと思うんだけど、イレギュラーハンターって感覚が一般人と違うのかな……?それともこのひとだけ??
「何を企んでいる?」
「いえ、何も。……なんでこんな疑われてるんですかね?」
「お前の行動と風体が怪しい」
ええー。一体どうしたことか、なんか変な感じで雑に疑われている。大変に遺憾だ。
しかしこれは、なんだかえらくトゲトゲしいし、らしくない気がする。本人は涼しい顔で平静を装っているだけで、内心は怪我のせいで苛立っているのかもしれない。無理矢理にでも丸め込んで話を終わらせよう。
「はぁ、もういいです。とにかく重傷者は大人しくしていてもらわないと!あの犬のイレギュラーがまだうろついてるんですから、じっとしてないと“今度こそ”死にますよ!」
余計なお世話ではあるだろうが、叱るような気持ちで言い切る。するとゼロさんが驚いたような表情をしていることに気付いた。……あれ?意外な反応。
切れ長の目元が丸く見開かれて、すぐに閉じられる。数秒の沈黙のあと、薄い苦笑いを浮かべてため息をつかれた。そういうのはイケメンにだけ許される動作なんだよなぁ。
「ふ……ああ、そうだな。全くその通りだ」
「はぁ……?まぁ、解っていただけたのなら良いですが」
なんだか勝手に納得してもらえたようだ。意味不明だが、丸め込まれてくれて良かった。
とりあえず今は有言実行。周辺の掃除をしに行かねばならない。
背負っていたライフルを手繰り寄せて、エネルギー残量と動作確認をしていく。問題無し。その他手持ちのアレやコレも問題無し。
現在エリア外への通信状況は悪いままだが、これは元からだ。ゼロさんの、おそらくはハンター専用の回線だと思われるそれがダメだというのなら、ぼくが使う民間向けの貧弱回線が使えるわけもなく。仕方が無い、あるものでどうにかしよう。
ぼくは気持ちを切り替えながら立ち上がった。そろそろこちらのエネルギー反応を感知して、イレギュラーが近寄ってきてもおかしくない頃合いだ。
じっとこちらを見ていたゼロさんが口を開いた。ていうか見ないで。
「慣れているな。手際がいい」
「そうですか?」
「新入りに少し似ている」
「え?」
新入り?それってもしや、と問い返そうとした矢先、ゼロさんが急に表情を歪めて頭に手を当てた。アイカメラの視線がフラフラと空中をさまよっている。耐えるように歯を食いしばる音と忌々しそうな舌打ちが微かに聞こえたかと思いきや、そのまま片腕が力無く滑り落ちていく。かくんと頭が揺れ、動かなくなる。思わず支えようとぼくは手を伸ばす。
「……」
「ちょ、!?嘘!?し、しっかりして下さいよ!」
両目はしっかりと閉じられていて、応答は無い。
……おいおいおいおいダウンしたぞ!?気絶!?やっぱ何ともないフリをしていただけだったんじゃないか!?しかしまずくないか?応急処置は必要??
でも一般的なレプリの対応でいいのか???だってレプリって全部エックスの系譜だしこのひとだけはそうじゃないよな!?なんか下手に触ったら急に起き上がってぶっ殺されそう怖い!!勝手に触るんじゃねぇぞクソガキが!みたいな!?赤いオーラで髪の毛ブワってなってボコボコにされそう!!覚醒しないで!飯屋こないで!!
パニックになったものの、一周回って冷静に考えてみれば、このひともハンターベースでは普通にメンテだのパーツ強化だのを施されているはずで……いちいちビビっている自分がバカらしくなった。
「……あー、なんでこんなことに」
手持ちのメディカルキットを使うかどうかの判断は、もう少し様子を見てからにしよう。もしかしたら自力で復帰してくれるかもしれない。
恩を売るつもりはこれっぽっちも無いが、ぼくが通りかからなかったらどうするつもりだったんだろう。このひと、そういう生存戦略的な部分はノープランなイメージがある。生き残る気力が無いというか死なば諸共というか。自分に対して投げ遣りだ。
見ている方の身にもなって欲しいと、どう考えてもメタ視点で思ってしまう。第四の壁の逆バージョンみたいなやつ。絶対に口には出せないけど。
言うに言えない気持ちをそんな風に思い浮かべながら、頭を抱えるのであった。
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