一般人(レプリ)は生き延びたい。
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(モブキャラが居ます)
「―――もしかして、捜索されてるのかな。たぶん、―――も心配してここに来ていそうだなあ。できれば会いたくないけど―――」
外野の音声を拾って、ゼロの意識が再浮上した。自らの声帯の奥から呻き声に似た音が漏れる。バックグラウンドでエラーのいくつかが修正され、先刻よりはボディの状態が落ち着いている。
アイカメラからの視界が開けると、日が落ち薄闇に包まれた室内の景色が飛び込んできた。すぐに露出を補正し、空間の薄闇が剥がれていく。
斜め向かい、ガラス面を失い枠組みだけとなった窓の下に、もう一人が座り込んでいた。眼前にいくつかの大きなホログラムスクリーンを展開し、片手でスクロールを繰り返している。今しがた、かなり大きな独り言を発したレプリロイドだ。スクリーンの光に照らされた無機質な顔面がゼロへ向けられる。
「あ、良かった!大丈夫ですか?」
「お前、ずっとここに居たのか?」
「え?ええ、居ましたけど……?」
「……とっくに逃げているかと思ったぞ」
「あんだけ口煩く言ったんですから逃げませんよ。今の貴方は重傷なんですから、護衛が必要でしょう」
少々うんざりとした様子でそう返される。
度々誰かしらに対して行っている護衛という行為を、ここでされる側になるとは想定外だった。
このライフル使いは本格的に、真面目で善良な性質のようだ。無法者かと思いきや、それに似つかわしくない性格だ。
こういうタイプは、適度な受け流しと大雑把な了承を繰り返していれば勝手に納得する傾向にある。経験上は。
若干失礼なことを淡々と思考している間に、ライフル使いはスクリーンを横目に、口を開く。
ちょっと質問がありまして、と相手は言った。
「ゼロさん―――たくさんのイレギュラーハンターの中でも、外観、性能共に非常に優れたレプリロイド。最古参のうちの一体で、元第0特殊部隊隊長にして現S級ハンター……これ貴方ですよね?間違いなく?本当に??実物???」
「?……ああ、そうだが」
今更な個人情報に念押しをされ、ゼロは内心で疑問符を浮かべる。その程度なら、オフラインでもオンラインでもどこにでも転がっている。市街地の店頭に並ぶ専門雑誌にすら載っている。
「本物かぁ……、いえ失礼。貴方のような歴戦の勇士相手に出しゃばってしまいました。申し訳無いです」
「いや、確かにあの時はまずい状況だった。冷静さを欠いていたのはこちらの方だ。悪かったな」
「いえいえ。無理矢理みたいな感じの扱い方で、こちらこそすみませんでした」
一瞬の気まずさの後、相手は再び口を開く。
「ハンターの方々が捜索に来ているようです。ここから……えー、二時の方向に識別信号が複数あります。まだキロ単位で距離がありますけれど。連絡を取ろうとしましたが、ジャミングの影響もあり、自分の回線ではキツいです」
「来たか。……中遠距離周囲内にあのイレギュラーの反応はどれほどある?」
ゼロはすぐさま思考を切り替えて、今後の立ち回りを思案し始める。
「周囲五百メートル圏内に五体が確認できます。しかし自分が使っている索敵センサーの精度には限界がありますので注意が必要です。貴方がたが使うものとは違って、民間のものですからね。センサーも回線も」
「構わない。ある程度の位置情報が掴めればいいからな。お前は索敵に専念、異常があればすぐに報告しろ。しばらく向こうとの通信を試みる」
「了解しました」
会話が途切れるや否や、ゼロはすぐさま通信回線を開いた。
通信妨害のノイズに一瞬顔をしかめるが、ノイズまみれのその奥に、確かに聞き覚えのある声を拾い上げた。
(―――ちら、エッ――!―――ゼロ、聞こえ―――!)
(こちらゼロ。聞こえているか?エックス?エックス!)
数回の呼び掛けの後、ようやくまともな応答が返ってきた。聞き覚えのある親友の声―――もとい、エックスの声色に安堵が含まれる。雑音の隙間からでも、その様子ははっきりと把握できた。
(―――!ゼロ!良かった、無事―――識別信号が、拾えな――他に誰か―――負傷者は―――?)
(現在ここにレプリロイドが二体。うち重傷者が一体。俺は……まぁ……それなりに、だな)
(え?なん――その言い方―――)
(こちらの位置情報を送信する。……周りに足の速いイレギュラー共がうろついてやがるからな、注意しろよ)
(――了解。―――受け取っ―――ぐに向かう!)
回線が閉じられる。不安定ではあったものの、どうやら上手く伝わったらしい。これで問題無く救援が到着するだろう。
この負傷に関して、エックスへの適切な言い訳を考えておかなければならない。今回ばかりは耳の痛い話を甘んじて受け取って、大人しくメンテナンスルームへ行くことにしよう。さすがにこれではあらゆる面で支障をきたす。
そう考え一息付いたところで、索敵センサーを再度確認する。
「!」
……自らの感知範囲内へ飛び込んでくる、大型のエネルギー反応が一つ。十一時の方向から、それは真っ直ぐ一直線に急接近していた。
数秒遅れ。何を言うまでもなく、斜め向かいのレプリロイドが素早い動きで立ち上がった。こちらを庇うように背を向けて立ち、ライフルを構える。ゼロは無言で片腕をバスターへ変化させる。
「来るぞ」
「はい」
視線の先。次の瞬間、形を保っていた建物の壁に、重量のある大きな物体が激突した。建物が大きく揺れ、天井がぐらつく。細かな破片が降り注ぐ。
派手な破砕音と、獣の咆哮のような耳障りな金属音。盛大に飛び散るコンクリート片と粉塵の奥から、あの四脚のメカニロイドが頭を突き込んでくる。独特の尖ったマズルと光るメインカメラが視界に入った。
スライドを動かす重い音が響き、それから薄闇を切り裂いてエネルギー弾の弾幕が掃射される。
「こいつ、さっきの個体より装甲厚いです!」
ライフル使いの怒鳴り声が合間に挟まる。
敵の装甲は射撃になんとか耐え続けているようだが、それでもメインカメラは破壊され、外殻は砕かれ、徐々に削られていく。焦れたメカニロイドの前足が壁を抉り、再び破片が降り注いだ。
単調な攻撃手段だ。元々はレーザー砲の一つでも装備していたのかもしれないが、使う様子が無いところを見ると、破壊されているのかもしれない。
となれば、威圧感はあれどもそれは大きな的と大差ない。狙うには好都合だ。
現状を長引かせるのは悪手になるだろう。一定以上の威力を持つ大きな攻撃を叩き込まなければならない。あの狂った電脳を破壊する決定的な一撃が必要だ。ならばこそ。
「伏せろ!」
「っ!」
眼前のレプリロイドが瞬時に膝を折った。その頭上へ狙いを定める。この距離ならば外す道理もない。
いい加減、この犬の相手をするにもうんざりしていたところだったのだ。
「あいにく今の俺は機嫌が悪い。遊んでほしいなら他を当たれ」
掲げられたゼロのバスターが、強い輝きを撃ち放った。空間を引っ掻くように、無数の赤い電光が駆け抜ける。凝縮されたエネルギーの塊は、壁と天井の一部を巻き込みながら文字通り一撃でメカニロイドの頭部を消し飛ばし、貫通して消えていった。
指示系統を喪った四脚の機体が、瓦礫を巻き込み地響きを立てながら倒れ込んでいく。再び粉塵が舞い、視界を遮る。
ゼロはバスターを腕へ戻した。
「……わーお」
間の抜けたライフル使いの声が聞こえてくる。どうやら無事らしい。
口を開く前に鬱陶しいエラーの群れが再度視界へ入り込んできて、ゼロは顔を顰めた。ダメージを負ったボディには、今の攻撃は少々重かったかもしれない。しかしすぐ近くまで救援が来ているのだから、このまま大人しく待っていれば良い。どうせ今のバスターの発射音は、エックス達にも届いているだろう。何か起こったのだと勘付くはずだ。
小さく溜息を吐き、前方へ視線を向ける。
「……何をやってる」
「気にしないでください。良い動きしてましたから、きっとよい素材が使われているのではないかと思いまして」
得物を放り出したライフル使いが、工具を片手にメカニロイドの残骸を物色していた。使われているパーツを拝借するつもりらしい。
なるほど、こいつはそれを目的としてこの区域をうろついていたということか。高品質な部品や希少価値のある付属物は、中古であっても高値で取引される場合があると耳にした記憶がある。それをあてにしている様子を見ると、不審者ではなく賞金稼ぎやパーツ屋のたぐいだったようだ。
「もうすぐ救援が到着する。お前も同行しろ」
「へ?なんでですか?こっちはこれからが忙しいので、貴方は帰投してください。他の個体からも物資を頂かねば……」
「……ここが立ち入り禁止だということを忘れてないか?俺は忘れていないがな」
「えぇ!?その話まだ引っ張るんですか!?貴方へのフォローでお咎め無し、チャラでは!?」
こちらを振り返って慌てるその顔面に、皮肉めいた笑いを向ける。
「それとこれとは話が別だ。……残念だったな、今から来るやつはそういうところにもっと厳しいぞ」
「そ、それって、もしやあの……エックスというハンターさんだったりします?ゼロさんと同じくあの有名な??元17部隊長の……?」
「そうだ。諦めてお前も絞られろ。その手癖の悪さも含めてな」
「ぎょええ」
圧死寸前の小動物のような声を吐きながら、相手は焦った様子で工具を仕舞い始めた。ちゃっかり小さな部品を剥ぎ取っていたのを、ゼロは見逃していない。
その顔立ちも素性もよく解らないままだが、あとはベースへ連れ戻ってから処遇を決めれば良い。今の段階では厳重注意程度になるだろうが、とりあえずこれ以降はエックスに丸投げしようと考えた。……今のあいつはもう少し、やらかした者へ対する対応を再考させたほうが良いだろう。
「そういえば、名前を聞いていなかったな」
「うぐ」
ライフル使いの動きが不自然に停止した。沈黙の後、再び引きつった口元が垣間見える。
「えー、お好きにどうぞ。何でもいいですよ、テキトーに。村人Aとか、通りすがりの一般人とか」
「……」
「ぼくたちの出会いは一期一会のこれっきりですから、忘れてください」
妙なところで妙な冗談を言うものだ。ゼロは半目になりながら見上げるように睨む。相手はやや怯んだ様子はあったものの、しかしそれでも今度は屈しなかった。素早くライフルを背負い直し、フットパーツの具合を確かめるようにつま先を打ち鳴らす。屈伸運動を繰り返す。
「で、ではでは失礼します!!お大事に!!おやすみなさーい!」
「っ、おい待て!」
逃げられる。そのままライフル使いは窓枠へ片脚を引っ掛け、壁を蹴って一息に屋根へと跳び上がっていく。
何かステルス迷彩でも持っていたのかもしれない。レプリロイド一体分のエネルギー反応が、移動しながら急激に小さくなっていく。やがて今のゼロのセンサーに感知できないレベルへと変化し、とうとう判別不可能になってしまった。身体が万全であればすぐさま取っ捕まえてやったというのに。
「……」
何だったんだ今のは、とあまりの勢いに呆れ返る。嵐のように去っていく、予想以上の逃げ足の速さだった。
その間に、今度はエックスの識別信号がセンサーへ入り込んでくる。ああそうだった、次はあいつの小言を聞く番だった。
ゼロは出来るだけ普段通りの表情を装ってから、この崩れかけの室内へ飛び込んできた青いレプリロイドを出迎えた。
「エックス」
「ゼロ!無事で―――っ!?その怪我は……!?」
「応急処置は済んでいる。問題無い」
何事もないかのような返事を口に出す。ゼロのこの有り様を見て、案の定エックスはショックを受けたようだった。いい加減、この程度の損傷くらい慣れても良いはずなのだが。
「問題無いわけないじゃないか!!バスター撃ってただろ?!こんな状況でも無茶するなんてどうして君はいつも、」
「はいはい解った解った」
「はいは一回で!!……皆、こっちだ!ゼロを発見した!」
エックスが声を張り上げると、同伴していた他のハンター達が慌ただしく部屋に入ってくる。
「うわっ!?ゼロさんやべーっすね!?災難でしたねー!」
「このイレギュラーの残骸もまた派手にやって……ここなかなか安全にならないわよね。あっちこっち手が回んないからホントにもー」
「ほら君達、口を動かしながら手も動かしてくれ。早く移動してしまおう」
「うっすスンマセン」
「はーい。あっちの待機組にも連絡入れますね」
ここはジャミングが発生しているエリアであり、例のイレギュラーがまだまだ闊歩している場所だ。こちらの反応に引き寄せられて集まられても厄介だ。ゼロを運び出してから、離れた地点で転送を使うのだろう。どうやらこれで、本当に今回の任務を完了できる。
周りを索敵しているらしいエックスが、首を傾げて口を開く。
「ゼロ、他に誰か居るって言っていなかったかい?」
「ああ。お前のことを出した途端に逃げていったぞ。フェイスガードを付けて大型ライフルを使っていたレプリロイドだ。知り合いか?」
「ライフルとフェイスガード?……んー、ちょっと思い当たらないな。その相手の具合は?」
「おそらくは無傷だろうさ。動きに違和感は無かった。まだそこらをうろついてるかもしれないが」
「うろつくって……ここは立ち入り禁止なんだけど……」
捕まえるか否かと渋い顔をして考え込むエックスを横目に、軽く肩を竦める。あれを確保するのは骨が折れるかもしれない。ゼロとしては今回は目を瞑ってやろうと思う。今はとにかく、さっさと帰投して休みたかった。
「……やれやれだ」
負傷していたとはいえ、ああいった運ばれ方をされたのは大変不服であったし、文句を言いそびれてしまった。今回のところは仕方が無い。さっさと逃げていったあのライフル使いのレプリロイドには、次に見かけた時にでも一発ぶん殴ってやろうとゼロは決めたのであった。
「―――もしかして、捜索されてるのかな。たぶん、―――も心配してここに来ていそうだなあ。できれば会いたくないけど―――」
外野の音声を拾って、ゼロの意識が再浮上した。自らの声帯の奥から呻き声に似た音が漏れる。バックグラウンドでエラーのいくつかが修正され、先刻よりはボディの状態が落ち着いている。
アイカメラからの視界が開けると、日が落ち薄闇に包まれた室内の景色が飛び込んできた。すぐに露出を補正し、空間の薄闇が剥がれていく。
斜め向かい、ガラス面を失い枠組みだけとなった窓の下に、もう一人が座り込んでいた。眼前にいくつかの大きなホログラムスクリーンを展開し、片手でスクロールを繰り返している。今しがた、かなり大きな独り言を発したレプリロイドだ。スクリーンの光に照らされた無機質な顔面がゼロへ向けられる。
「あ、良かった!大丈夫ですか?」
「お前、ずっとここに居たのか?」
「え?ええ、居ましたけど……?」
「……とっくに逃げているかと思ったぞ」
「あんだけ口煩く言ったんですから逃げませんよ。今の貴方は重傷なんですから、護衛が必要でしょう」
少々うんざりとした様子でそう返される。
度々誰かしらに対して行っている護衛という行為を、ここでされる側になるとは想定外だった。
このライフル使いは本格的に、真面目で善良な性質のようだ。無法者かと思いきや、それに似つかわしくない性格だ。
こういうタイプは、適度な受け流しと大雑把な了承を繰り返していれば勝手に納得する傾向にある。経験上は。
若干失礼なことを淡々と思考している間に、ライフル使いはスクリーンを横目に、口を開く。
ちょっと質問がありまして、と相手は言った。
「ゼロさん―――たくさんのイレギュラーハンターの中でも、外観、性能共に非常に優れたレプリロイド。最古参のうちの一体で、元第0特殊部隊隊長にして現S級ハンター……これ貴方ですよね?間違いなく?本当に??実物???」
「?……ああ、そうだが」
今更な個人情報に念押しをされ、ゼロは内心で疑問符を浮かべる。その程度なら、オフラインでもオンラインでもどこにでも転がっている。市街地の店頭に並ぶ専門雑誌にすら載っている。
「本物かぁ……、いえ失礼。貴方のような歴戦の勇士相手に出しゃばってしまいました。申し訳無いです」
「いや、確かにあの時はまずい状況だった。冷静さを欠いていたのはこちらの方だ。悪かったな」
「いえいえ。無理矢理みたいな感じの扱い方で、こちらこそすみませんでした」
一瞬の気まずさの後、相手は再び口を開く。
「ハンターの方々が捜索に来ているようです。ここから……えー、二時の方向に識別信号が複数あります。まだキロ単位で距離がありますけれど。連絡を取ろうとしましたが、ジャミングの影響もあり、自分の回線ではキツいです」
「来たか。……中遠距離周囲内にあのイレギュラーの反応はどれほどある?」
ゼロはすぐさま思考を切り替えて、今後の立ち回りを思案し始める。
「周囲五百メートル圏内に五体が確認できます。しかし自分が使っている索敵センサーの精度には限界がありますので注意が必要です。貴方がたが使うものとは違って、民間のものですからね。センサーも回線も」
「構わない。ある程度の位置情報が掴めればいいからな。お前は索敵に専念、異常があればすぐに報告しろ。しばらく向こうとの通信を試みる」
「了解しました」
会話が途切れるや否や、ゼロはすぐさま通信回線を開いた。
通信妨害のノイズに一瞬顔をしかめるが、ノイズまみれのその奥に、確かに聞き覚えのある声を拾い上げた。
(―――ちら、エッ――!―――ゼロ、聞こえ―――!)
(こちらゼロ。聞こえているか?エックス?エックス!)
数回の呼び掛けの後、ようやくまともな応答が返ってきた。聞き覚えのある親友の声―――もとい、エックスの声色に安堵が含まれる。雑音の隙間からでも、その様子ははっきりと把握できた。
(―――!ゼロ!良かった、無事―――識別信号が、拾えな――他に誰か―――負傷者は―――?)
(現在ここにレプリロイドが二体。うち重傷者が一体。俺は……まぁ……それなりに、だな)
(え?なん――その言い方―――)
(こちらの位置情報を送信する。……周りに足の速いイレギュラー共がうろついてやがるからな、注意しろよ)
(――了解。―――受け取っ―――ぐに向かう!)
回線が閉じられる。不安定ではあったものの、どうやら上手く伝わったらしい。これで問題無く救援が到着するだろう。
この負傷に関して、エックスへの適切な言い訳を考えておかなければならない。今回ばかりは耳の痛い話を甘んじて受け取って、大人しくメンテナンスルームへ行くことにしよう。さすがにこれではあらゆる面で支障をきたす。
そう考え一息付いたところで、索敵センサーを再度確認する。
「!」
……自らの感知範囲内へ飛び込んでくる、大型のエネルギー反応が一つ。十一時の方向から、それは真っ直ぐ一直線に急接近していた。
数秒遅れ。何を言うまでもなく、斜め向かいのレプリロイドが素早い動きで立ち上がった。こちらを庇うように背を向けて立ち、ライフルを構える。ゼロは無言で片腕をバスターへ変化させる。
「来るぞ」
「はい」
視線の先。次の瞬間、形を保っていた建物の壁に、重量のある大きな物体が激突した。建物が大きく揺れ、天井がぐらつく。細かな破片が降り注ぐ。
派手な破砕音と、獣の咆哮のような耳障りな金属音。盛大に飛び散るコンクリート片と粉塵の奥から、あの四脚のメカニロイドが頭を突き込んでくる。独特の尖ったマズルと光るメインカメラが視界に入った。
スライドを動かす重い音が響き、それから薄闇を切り裂いてエネルギー弾の弾幕が掃射される。
「こいつ、さっきの個体より装甲厚いです!」
ライフル使いの怒鳴り声が合間に挟まる。
敵の装甲は射撃になんとか耐え続けているようだが、それでもメインカメラは破壊され、外殻は砕かれ、徐々に削られていく。焦れたメカニロイドの前足が壁を抉り、再び破片が降り注いだ。
単調な攻撃手段だ。元々はレーザー砲の一つでも装備していたのかもしれないが、使う様子が無いところを見ると、破壊されているのかもしれない。
となれば、威圧感はあれどもそれは大きな的と大差ない。狙うには好都合だ。
現状を長引かせるのは悪手になるだろう。一定以上の威力を持つ大きな攻撃を叩き込まなければならない。あの狂った電脳を破壊する決定的な一撃が必要だ。ならばこそ。
「伏せろ!」
「っ!」
眼前のレプリロイドが瞬時に膝を折った。その頭上へ狙いを定める。この距離ならば外す道理もない。
いい加減、この犬の相手をするにもうんざりしていたところだったのだ。
「あいにく今の俺は機嫌が悪い。遊んでほしいなら他を当たれ」
掲げられたゼロのバスターが、強い輝きを撃ち放った。空間を引っ掻くように、無数の赤い電光が駆け抜ける。凝縮されたエネルギーの塊は、壁と天井の一部を巻き込みながら文字通り一撃でメカニロイドの頭部を消し飛ばし、貫通して消えていった。
指示系統を喪った四脚の機体が、瓦礫を巻き込み地響きを立てながら倒れ込んでいく。再び粉塵が舞い、視界を遮る。
ゼロはバスターを腕へ戻した。
「……わーお」
間の抜けたライフル使いの声が聞こえてくる。どうやら無事らしい。
口を開く前に鬱陶しいエラーの群れが再度視界へ入り込んできて、ゼロは顔を顰めた。ダメージを負ったボディには、今の攻撃は少々重かったかもしれない。しかしすぐ近くまで救援が来ているのだから、このまま大人しく待っていれば良い。どうせ今のバスターの発射音は、エックス達にも届いているだろう。何か起こったのだと勘付くはずだ。
小さく溜息を吐き、前方へ視線を向ける。
「……何をやってる」
「気にしないでください。良い動きしてましたから、きっとよい素材が使われているのではないかと思いまして」
得物を放り出したライフル使いが、工具を片手にメカニロイドの残骸を物色していた。使われているパーツを拝借するつもりらしい。
なるほど、こいつはそれを目的としてこの区域をうろついていたということか。高品質な部品や希少価値のある付属物は、中古であっても高値で取引される場合があると耳にした記憶がある。それをあてにしている様子を見ると、不審者ではなく賞金稼ぎやパーツ屋のたぐいだったようだ。
「もうすぐ救援が到着する。お前も同行しろ」
「へ?なんでですか?こっちはこれからが忙しいので、貴方は帰投してください。他の個体からも物資を頂かねば……」
「……ここが立ち入り禁止だということを忘れてないか?俺は忘れていないがな」
「えぇ!?その話まだ引っ張るんですか!?貴方へのフォローでお咎め無し、チャラでは!?」
こちらを振り返って慌てるその顔面に、皮肉めいた笑いを向ける。
「それとこれとは話が別だ。……残念だったな、今から来るやつはそういうところにもっと厳しいぞ」
「そ、それって、もしやあの……エックスというハンターさんだったりします?ゼロさんと同じくあの有名な??元17部隊長の……?」
「そうだ。諦めてお前も絞られろ。その手癖の悪さも含めてな」
「ぎょええ」
圧死寸前の小動物のような声を吐きながら、相手は焦った様子で工具を仕舞い始めた。ちゃっかり小さな部品を剥ぎ取っていたのを、ゼロは見逃していない。
その顔立ちも素性もよく解らないままだが、あとはベースへ連れ戻ってから処遇を決めれば良い。今の段階では厳重注意程度になるだろうが、とりあえずこれ以降はエックスに丸投げしようと考えた。……今のあいつはもう少し、やらかした者へ対する対応を再考させたほうが良いだろう。
「そういえば、名前を聞いていなかったな」
「うぐ」
ライフル使いの動きが不自然に停止した。沈黙の後、再び引きつった口元が垣間見える。
「えー、お好きにどうぞ。何でもいいですよ、テキトーに。村人Aとか、通りすがりの一般人とか」
「……」
「ぼくたちの出会いは一期一会のこれっきりですから、忘れてください」
妙なところで妙な冗談を言うものだ。ゼロは半目になりながら見上げるように睨む。相手はやや怯んだ様子はあったものの、しかしそれでも今度は屈しなかった。素早くライフルを背負い直し、フットパーツの具合を確かめるようにつま先を打ち鳴らす。屈伸運動を繰り返す。
「で、ではでは失礼します!!お大事に!!おやすみなさーい!」
「っ、おい待て!」
逃げられる。そのままライフル使いは窓枠へ片脚を引っ掛け、壁を蹴って一息に屋根へと跳び上がっていく。
何かステルス迷彩でも持っていたのかもしれない。レプリロイド一体分のエネルギー反応が、移動しながら急激に小さくなっていく。やがて今のゼロのセンサーに感知できないレベルへと変化し、とうとう判別不可能になってしまった。身体が万全であればすぐさま取っ捕まえてやったというのに。
「……」
何だったんだ今のは、とあまりの勢いに呆れ返る。嵐のように去っていく、予想以上の逃げ足の速さだった。
その間に、今度はエックスの識別信号がセンサーへ入り込んでくる。ああそうだった、次はあいつの小言を聞く番だった。
ゼロは出来るだけ普段通りの表情を装ってから、この崩れかけの室内へ飛び込んできた青いレプリロイドを出迎えた。
「エックス」
「ゼロ!無事で―――っ!?その怪我は……!?」
「応急処置は済んでいる。問題無い」
何事もないかのような返事を口に出す。ゼロのこの有り様を見て、案の定エックスはショックを受けたようだった。いい加減、この程度の損傷くらい慣れても良いはずなのだが。
「問題無いわけないじゃないか!!バスター撃ってただろ?!こんな状況でも無茶するなんてどうして君はいつも、」
「はいはい解った解った」
「はいは一回で!!……皆、こっちだ!ゼロを発見した!」
エックスが声を張り上げると、同伴していた他のハンター達が慌ただしく部屋に入ってくる。
「うわっ!?ゼロさんやべーっすね!?災難でしたねー!」
「このイレギュラーの残骸もまた派手にやって……ここなかなか安全にならないわよね。あっちこっち手が回んないからホントにもー」
「ほら君達、口を動かしながら手も動かしてくれ。早く移動してしまおう」
「うっすスンマセン」
「はーい。あっちの待機組にも連絡入れますね」
ここはジャミングが発生しているエリアであり、例のイレギュラーがまだまだ闊歩している場所だ。こちらの反応に引き寄せられて集まられても厄介だ。ゼロを運び出してから、離れた地点で転送を使うのだろう。どうやらこれで、本当に今回の任務を完了できる。
周りを索敵しているらしいエックスが、首を傾げて口を開く。
「ゼロ、他に誰か居るって言っていなかったかい?」
「ああ。お前のことを出した途端に逃げていったぞ。フェイスガードを付けて大型ライフルを使っていたレプリロイドだ。知り合いか?」
「ライフルとフェイスガード?……んー、ちょっと思い当たらないな。その相手の具合は?」
「おそらくは無傷だろうさ。動きに違和感は無かった。まだそこらをうろついてるかもしれないが」
「うろつくって……ここは立ち入り禁止なんだけど……」
捕まえるか否かと渋い顔をして考え込むエックスを横目に、軽く肩を竦める。あれを確保するのは骨が折れるかもしれない。ゼロとしては今回は目を瞑ってやろうと思う。今はとにかく、さっさと帰投して休みたかった。
「……やれやれだ」
負傷していたとはいえ、ああいった運ばれ方をされたのは大変不服であったし、文句を言いそびれてしまった。今回のところは仕方が無い。さっさと逃げていったあのライフル使いのレプリロイドには、次に見かけた時にでも一発ぶん殴ってやろうとゼロは決めたのであった。
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