一般人(レプリ)は生き延びたい。
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そしてその数分後、ぼくは道に迷っていた。
道に迷っていた(二回目)
……は?
ぼくはレプリロイドだぞ? 量産型とはいえ、人類の叡智を結集させた精密機械の塊ぞ? 壊れたカーナビかよ!
なんで道に迷うんだよ。迷子って何!と笑いしか出ないのだが、実際に目的地を見失っていた。建物の密集度のせいなのか配置のせいなのか、通信環境が良くない。
位置情報取得不可。そもそもオンライン回線への繋がりが悪過ぎる。その結果が現在の迷子状態だ。
入場ゲートの受け付けでマップデータを貰ってから来るべきだった。なるほど、オンラインで公開されている地図ではなく、わざわざタウンマップの存在をアピールしていたのはこのせいか……と納得した。痛恨のミスである。
初めは目的の場所……ローラシアの公共施設であるデータバンクの建物を目指して問題なく進んでいた。
大通りから逸れて近道になりそうなそこそこ広い脇道へ入り、奥へ奥へと歩き……ん?あれ?と思った頃にはこの有り様だった。
道幅は狭くなっている。周囲は同じような建物が並んでいて、時々看板の出ていない店のようなものがあったりする。アスファルトの地面は煤けているし、古びた車両が路駐されていたり……今、なんか砕けたガラス片みたいなの踏んだわ。怖。
人間の姿は無い。代わりに、たまにちょっと雰囲気の怖いレプリが立っていたり、かと思えば用途不明の小型メカニロイド(犬猫サイズ)がアイカメラをあちこちへ向けている。
何となく治安がやばい。表の観光スポットとは逆の場所に来てしまったようだ。空気が悪い。
どこの街も、きらきらしい表側の場所とこんなふうに怪しげな気配漂う裏側の場所があるもんなんだなあ……。気を付けないといけない。
仕方が無い、ルート変更だ。大通りへ戻るように方向修正をしつつ、細い路地の前を通過していたその瞬間、重いものを叩き付ける音と野太い悲鳴が複数聞こえてきた。ドカッバキッボコッ、ぐわー!みたいなやつだ。
「―――君たち、ちょっとしつこくないかな? 僕も暇じゃないんだけどね」
ん?ついでに物凄く聞き覚えのある声もしたような。
何かを考える間もなく、反射的にそっちの方へ視線を向ける。本当の本当に、条件反射だった。好奇心は猫を殺すとは確かにその通りだ。
「あ」
道の途中に複数のレプリがバタバタ倒れている。みんな揃いも揃って人相が悪くてガタイが良い。テーマパークのようなこの街には似つかわしくない、どう見ても反社の方々だ。
その真ん中に、男性型レプリがひとり立っている。今まさに周りの奴らをブチのめした後です!と言わんばかりの状況のくせに、爽やか涼し気な立ち姿だった。
赤いバイザーと紺色のアーマー、明るい水色さらさらのロングヘア。タレ目がちなアイカメラを持ったレプリとばっちり視線が合ってしまった。
―――は?ダイナモ? え?ダイナモがおるやん。実物?本人?シーユーアゲイン?
混乱した頭の中で前世のぼくが呟いた。
いやいやいやいや。ハハハ、もう驚かなくなってきたぞ!もうだいたい慣れてきた。元々知り合いだったアクセルから始まり、ゼロさんと出会いゲイトさんと出会い……こうなるともう街中で主要キャラに遭遇してもそんなに驚かなくなってきた!!!慣れたもんね!!
ここは何事もなくクールに去るのが正解!!ぼくは何も見てなかった!!ヨシ!!今回こそは巻き込まれたくない!!路地裏のいざこざに巻き込まれて~なんてそんなマンガみたいなことはゴメンだ!と、内心で焦ってくる。
「や、お疲れー」
「え?……ど、どうも……」
なんか解らんがフレンドリーな笑顔で手を振られ、ぼくはひたすら大困惑してしまった。殺伐とした景色の中に一瞬の間抜けさが漂っていく。
あれ?ぼくとこのひとは知り合いじゃなかったよな?今が初見の出会いだよな?(ゲーム以外で)と混乱してしまった。
少し考えて、しかし何とか気を取り直す。
それから何事もなかったかのように、ペコリと会釈をした。すぐにこのタイミングを見逃すことなく、ぼくはこれにて失礼しますと態度に出しながらさっさと足を進めた。見てないふりをして路地を通り過ぎ、そのまま歩いていく。振り返ってはいけない。
そうだ、ぼくは何も見ていない。893みたいな連中をボコす傭兵レプリなんてものは見ていない。
でも、生きてたんだなあとか無事だったんだなあとか、そういうしみじみとした感情が湧き上がってくる。ゲームでは、エックスやゼロ達に散々言われていたよね……しつこいとか帰ってくれとか。あの切羽詰まった状況でマイペースにされたら、確かに迷惑かもしれないよな。
「いや、待てよ……?」
それにしたって、ユーラシアの件に思い切り関係していたレプリがこうしてこの街に居るってのは、物凄く縁起が悪いというか意味深というか。
だってここもスペースコロニーだ。また変なこと企んでいたとしたら……放って置くのは不味くないか。
とりあえずネットに繋がるようになったら、イレギュラーハンターに通報してみようかな、と思ってしまった。もしかすると指名手配犯として名前が載っているかもしれないし、後で調べてみよう。
賞金掛かってたりしないかな?なんてそんなことを考えながら、ぼくは大通りの方を目指して進んでいき―――、
「あー、ごめんね。ちょっと良いかな? 嬢ちゃん」
ナンパかよ。って、いや違う待て待て。さっきの聞き覚えのありまくるボイスがまた真後ろから聞こえてきて、思わず全身が強張る。
ヤバい。気配とか全然しなかったような気がする。それともぼくが考え事に集中しすぎていただけだろうか。
内心で冷や汗流しまくりながら、どうにかこうにか平静を装って振り返って―――、
キェァァァア!? でっっっっっか!!??(※身長が)
案の定、そこにはさっき会釈をした男性型レプリもといゲームの登場キャラのひとりである、あのダイナモさん(たぶん)がにこやかに立っていた。あちらから名乗られていないので、もしかするとワンチャン、ボディが同型なだけの別人という可能性も捨てきれない。藁にもすがる思いだ。
「え、えーっとななななんですか? 自分は何も見てませんよ」
「あはは、君面白いねー。あの状況でそう言ってくるような子は初めて見たよ」
「はあ……はあ?」
面白くねーですよ。おもしれー女ってやつか?やめてくれ。って、さっき暇じゃないとか言ってなかった!? 通りすがりのぼくに構ってくるなんてやっぱり暇じゃん!!と心の中でツッコミを入れた。
……しかしあれだね、間近で見ても案の定イケメンだね。ちょっとチャラ男っぽい雰囲気がとてもモテそうだ。ゼロさんやゲイトさんとはまた違った造形の良さを感じさせてくる。
そして縦にデカい。デカすぎんか?なのに気配消すとか怖過ぎる。エックス達っていつもこんな身長差ありまくりの敵と戦ってるの?……やっぱりとんでもないですねイレギュラーハンターは……(震え)
などと思いつつ、どうにかこうにか自分の感情制御プログラムをいじってポーカーフェイスを作った。落ち着け、落ち着いて会話をするんだ。フェイスガード持ってくるべきだったと少し後悔してしまう。
「すみません。これから用事がありますから、失礼しますね」
「そう言わずにさー。……君、アトラって名前の子でしょ。ゲイトって科学者からのお使いで、データバンクに行く予定でここに来たんだよね?案内人がどうとか言われてただろ」
おっふ……。変な声が出そうになって、ギリギリ持ち堪えた。危ない。
「あの……不躾ですが、貴方は?」
「あぁ、僕はダイナモ。その案内人役だよ。ヨロシク」
ハイ、貴方の名前は存じております。とは言わなかった。悲しくも、同型の別人説が一瞬で崩れ去っていく。
そして同時に、本物であるのなら言葉に気を付けないといけないなと思った。
前世の知識、もといゲームのストーリーとして、『ユーラシアとナイトメアの事件の両方、しかもハンターとイレギュラー各陣営の動きを知っている』だなんて、そんなのはあり得ないこと。
特にこのダイナモ……さん、に関しては黒幕で動いていたわけだし、それは本人達と外側から俯瞰しているプレイヤーしか知らないのだ。
飄々としているように見せ掛けて、策士というか食わせ者というか猫かぶりというか……そんなタイプの印象だ。確か素だと『俺』って言ってたはずだし、あまり油断してはならない相手だ。
軽薄そうなノリで返ってくる気安いセリフを、不審者を前にした表情で見詰め返す。
「すみません、間違いなく貴方が案内人なんですか? 聞いていないんですけども」
「簡単には信じないんだ?警戒心が強いってのは良いことだよ。……なんなら今、あのゲイトに連絡してもらってもいいぜ?」
「あの、ここ通信環境悪いんです。オンラインに繋がらないので連絡しようがないですよ」
「ああ、ここらの地区は治安が悪くてねえ。ゴロツキ連中が公安から逃げる為にあちこちでジャミングを垂れ流しているのさ。その影響だね」
「なるほどー。そういうことでしたかー」
うーん、なんかのらりくらりとかわされているような気がする。もう帰りたくなってきた。もしかしてゲイトさん、ぼくにこのひとのことを伝え忘れてたりしていないだろうか。というかこの二人ってやっぱ知り合いだったのか。
早くオンラインに復帰してゲイトさんに確認取って、受け取るもん受け取って帰りたくなってきた。実際のブツはどこにあるんだ?データバンクまで行かないとだめ?今持ってないの? そんな考えが脳裏をよぎる。
「んじゃ、とっととここから離れようか。とりあえずは繋がる場所まで行けばいいんだろ?」
爽やかな笑顔と良い声でエスコートされる。なんかあっちのペースに乗せられているような気もしてきたな。
何度目か解らない、この声優ガチャSSRがよ……という気持ちにさせられる。
「ええと、それで貴方は――――――、
ぼくが言いかけた直後、ドン、と地面が大きく揺れ動いた。上空からの光が一部遮られ、同時に周りが一瞬暗くなる。
「は??」
自分の声帯が震えた。ざあっと警戒心が持ち上がる。
暗くなったように感じたのは、何かがぼく達のすぐそばに現れたからだ。何かのシルエットが大きな影を作っている。
タレ目を面倒くさそうに眇めて、胡乱な表情をしたダイナモさんがくるっと首を傾けた。……知ってるぞ、あれはいわゆるシャフ度と呼ばれるポーズだ。
「あーあ。余計なもん来ちゃったよ」
「な、なんですかこいつ! イレギュラー?」
ここは市街地だ。安全だからと、索敵センサーなんて起動してすらいなかった。
デカいサソリみたいな形のメカニロイドが、ぼくたちの真横に出現している。どうやらさっきの揺れと音は、コイツがどこかからジャンプして来てこの場に着地したもの、だったらしい。
胴体部分だけでも大型車両くらいのサイズはあるだろうか。機体のカラーは灰色や黒、青といった都市迷彩柄だ。
鋭い尾に、どう見ても銃口にしか思えないものが備わっている。鋏は無くて脚は六本。よくよく見てみれば、前面は破損していた。
どっかで使われていた戦闘型メカニロイドがリペアされ再利用されている、そんな感じだ。
位置を補正しているのか、多脚を動かしつつ機敏な動きで方向を転換している。伸びた尾の先がぎらりと光った。
「おっと」
「うぇえっ!?」
間髪入れずにバババッと連続した射撃音が響く。ダイナモさんがぼくの首根っこを引っ掴んで、その場から大きく飛び退いた。
すぐにエネルギー弾が辺りのアスファルトを抉り取る。
ま、街中で警告も無しに撃ってきたぞ!?即殺!?と慌てる間もなく、手近な建物の隙間へ引っ張り込まれて身を隠す。
狭い空間から、二人してメカニロイドの様子を伺う。……今気がついたのだが、周辺にちらほら居たはずの怪しいレプリや小型メカニロイド達の姿が綺麗さっぱり消えている。巻き込まれる前にとっとと逃げたらしい。頼むから誰か通報してくれ。
「たぶん、さっき僕が相手をしていた連中の仲間だろうなー。全く、面倒くさいものを持ち出してきちまって」
「って、アンタのせいですか!!」
「ははっ!いいねぇその反応!」
傭兵と反社のバトルか。このスペースコロニーは治安良いんじゃなかったのか。今日は戦闘行為とは無縁の一日にする予定だったのに、もうこの有り様である。
一方のダイナモさんは相変わらずの飄々とした態度を崩すことなく、むしろ更に上機嫌な様子。口の端がにんまりと歪んでいる。怖いわ。
「それじゃ巻き込まれついでに、僕に付き合ってもらおうかな」
「いえあの、本当に勘弁してくだ―――ぐえっ」
抵抗する間もなく、まるで荷物のように小脇に抱えられてしまった。え?ちょっと待ってほしい。いくらなんでもこの扱いはアリなのか? 以前、軽率にもゼロさんをお姫様抱っこしてしまった報いが巡り巡って今来ているとでもいうのか?
そんなぼくの混乱を置き去りに、なんとダイナモさんはメカニロイドの真正面に堂々と躍り出た。ぼくたちの反応を感知して、サソリが尾を伸ばしてくる。銃口がこちらへ向く。しかし弾幕が張られるよりも一拍早く、ごおっと風が聴覚を遮った。
「おいコラァ!?ちょ何してるんすか危なウワァァァァァァッ!?」
「おっ。君、そーいうのが素かー。いいね、面白いねー。打てば響くっていうの?そういう子は好きだよ……っと!」
ダイナモさんはぼくをそのまま抱えながら、サソリの横を凄いスピードで走り抜けていく。雑に不安定な運び方がかなり恐怖を煽る。正直言ってしぬ。
「待―――っ!?」
舌を噛みそうになった。
このひとは背が高いので脚が長い。脚が長いから速い。煤けた建物、謎の売店、放置車両……そういったものがどんどん過ぎ去っていった。
まさにあっという間にメカニロイドさえも遠ざかり、小さくなっていく。逃げるが勝ちというやつか。
もしかして、こちらは無関係だったのかもしれない。見逃してくれた?と安堵したのもつかの間、なんとあのメカニロイドがこちらを向き、猛烈な勢いで追い掛けてきたではないか!
自分の喉の奥から、勝手に引き攣った声が吐き出される。
「きっ、きき来てますよあのサソリ!!ダイナモさんが標的では!?」
「もしかすると嬢ちゃんもターゲットにされちゃったかな? さっき路地裏で僕と目が合った時に、あの連中に顔見られたんじゃない?」
「それやっぱアンタのせいじゃないかぁ!!!」
「ま、否定はしないさ!」
愉快げに笑う声が聞こえてくる。何なんだこのひと!あんまりにも急過ぎるほどの急展開に、感情制御もポーカーフェイスも、何一つ上手くできない。
この間、ぼくを抱えつつずっと走りっ放しなのだが、ダイナモさんはまだまだ余裕がありそうな雰囲気である。
適度に楽しんでる表情を見るに、今の状況はこのひと一人で簡単に片付けられるんじゃないか。現状は紛れもなく誘拐なのではないかと、また抗議をしたくなってしまった。
しかしこれ以上は舌を噛みそうなので大人しくしておく。この速度ではうっかり振り落とされかねない。
「……しかし、騒ぎが大きくなると面倒だな。……なるべく誰も居ない場所に行くとしますかね」
ふっと低い声が頭上から届いた瞬間、ガッチリ掴まれたまま全身が浮き上がった。ダイナモさんのフットパーツが、地面のアスファルトを蹴り飛ばす重い音が響く。
「っ!?」
何事かと思いきや、覆い尽くすくらいの青空とビルの屋根の景色が視界へ入り込んできて―――どうやらダイナモさんは、さっきの道路から大きく跳躍をしたようだった。
壁面を伝って蹴り上がり、建物の屋根の上へ見事に着地。大変に素晴らしい膂力である。ショックアブソーバが緩やかに衝撃を受け流す感触が伝わってきた。それからすぐに再び駆け出す。今度は屋根伝いに逃げるつもりらしい。
凄く上等なパーツを使ってますね、おにーさん。さすが、エックスやゼロと渡り合えるほどの戦闘型……と、だいぶ投げやりに感心した。
……ゲームの主要キャラ達って本当に、やることなすこと大胆すぎるのではないだろうか。(ゼロさんは特に)
今のところツッコミどころのあるキャラにしか出会っていないので、頼むから主人公たるエックスさんだけはゲームと同じく標準的で常識のあるレプリであってほしいな、とわりと本気で思ってしまった。
そんなことを現実逃避のように願いながら、諦め半分で状況に流されていく。
……もう帰りたいなー。
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