古いもの収納庫
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
現在地:自室
現在時刻:7時00分
…………。
黙る、ひたすら黙る。
わたしの目の前に並べられた素敵な朝食をできるだけ見ないようにする。
バターと小麦の香ばしい匂いを放つ焼きたてトースト。素朴な色合いのリンゴジャムはたぶん手作り。ワンプレートの上にはカリカリのベーコンと綺麗に焼けたオムレツ、みずみずしいサラダ。小さい器に取り分けられているヨーグルトの中には一口サイズにカットされたイチゴが顔を出す。……ホテルの朝食のような、実に見事な朝食だ……見ないようにとか言いながらしっかりガン見してしまっている。駄目だこりゃ。ごくりと喉が鳴った。
「……、…、」
「ナオト?…えっと…た、食べないのかい?」
いや、そういう問題じゃないと言いかけてやる気が失せて顔を上げる。上げた先、エックスが頭の上にハテナマークを浮かべている。まぁそれは良いんですよ。そんなところよりもツッコミ所はまだあるんです。……エックスはと言えば、いつものあの青いアーマーを装備していない人装状態。そしてなぜか!なぜか!!な・ぜ・か!!!まるでティーンエイジャーみたいな……ハイスクールな制服を着ていらっしゃるのです!紺のブレザーがやたらとよくお似合いですね。本物の高校生みたいだねとか、いつもの本人に言ったら「おれは子供じゃないよ!」とか子供みたいに拗ねてくれるだろうに、この有り様である。
……自分でもなに言ってるのかよく解らなくなってきた。大絶賛混乱なう。
「じゃあ……いただきます」
「ど、どうぞ。召し上がれ」
仏頂面で返して、ベーコンの焼き加減が素晴らしくて悩む。
くっそ、なんだこの罰ゲームは。エックスは怒ってるの?だから嫌がらせとしてわざわざ制服着て朝からわたしの自室に突撃してきて、いつの間にか朝食まで作ってくれてるの?なんでそんな旦那を起こしに来た奥さんみたいになってるの?……いや、なんで奥さんが制服着るんだとかそういう話は今はいいとして。
いつものようにマグカップ片手に新聞読んでるけど、わたしは知っているぞ。カッコつけてカップ傾けてても中身はオレンジジュースだということをな。果汁100%でしょう。好きだもんね、無理すんな。
何かエックスを怒らせることをしたっけと昨日のことを思い返す。特にこれといって思い当たることがない。非番だったから、アーマーを全てメンテナンスに出したあとに自室…つまりこの部屋で普通に溜まってた報告書を片付けていただけだ。何度かエックスやらゼロやらアクセルやらが顔を出しに来たけれど、ホントにそれだけ。浮かない気分でサラダをもしゃもしゃしていると、高校生エックスが時計を見て新聞を置いた。
「あぁ、こんな時間か…。そろそろゼロを起こしてこないと。ちょっと行ってくるよ」
「ああ、うん…?…行ってらっしゃーい」
「食べ終わったらすぐ準備しておいてね」
「う?ら、らじゃー……」
…………ばたん。とろふわオムレツとパンをむしゃむしゃ。なんか良くわからないうちに高校生エックスはわたしの部屋から出ていってしまった。…………内蔵の体内時計があるはずなのに、なんでエックスはわざわざ時計を見るなんて動作をしたんだろうか。あとなんでわざわざゼロを起こしに行くんだろう??いつもみたいに通信回線で叩き起こせばいいのに。
首をかしげながら、何の気なしにベッドルームの方を見ると、思わぬ物が視界に飛び込んできた。
「……いやいやいやいやいや、これはないわー」
壁にかけられた女子用制服である。お分かりいただけるだろうか、わたしのこの戸惑いを。…あれは確実に昨日まで無かったものだ。なのに何なんだろう。あの『ナオトさんの制服です』と言わんばかりのあの貫禄。解せぬ。わたしはイレギュラーハンター……つまり社会人。公務員だぞ。
そもそもなぜ学生ごっこを強いられなければならないのかがまるで解らない。エックスはゼロを起こしてくるって言ってたけど、ゼロも巻き込まれてるんだろうか。あ、イチゴヨーグルト美味しいです。
……なんだかんだ食べ終わってから、食器をキッチンへ持って行く……うん、キッチンに特に変な様子は無い。ハンターベースのヒューマンフォーム・レプリロイド用に作り付けられてるやつだ。見慣れたわたしのキッチン。……そして、辺りを見回す。
「…………部屋が増えている」
……どういうことなのとドアを凝視する。昨日までは明らかに存在しなかったドアがリビングの横にあった。ハンター達の普通の寮と言えば、だいたい二部屋になっていて、片方にリビングとキッチンとユニットバス、もう片方にベッドという作りになっている。(ちなみにこれは、わたしやエックス達のようにヒューマンフォームであり経口摂取が可能なタイプのレプリロイドが使用する場合だ)
なのになぜか、もう一部屋。
「……」
スライド式ドアが主流のこの時代にノブが付いている。セキュリティ大丈夫なのかと問いたくなって、ちょっと戸惑いながらノブを捻る。がちゃりと開いて、恐る恐る覗き込む。……いや、ここはわたしの部屋のはずなのになんでこんな後ろ暗い気持ちにならなきゃいけないんだ。開き直って中を見渡す。
「……えっ」
ばたん。思わずドアを閉めてしまった。はぁ????
「なんでや!」
思わず飛び出した一人ツッコミ。なぜか!そのドアの先に!エックスの部屋が!あった!のです!
たびたび入り浸っているエックスの部屋が!ここに!
「全く訳が解らないよ…」
もう一度ドアを開く。やはりその先には見覚えのある家具配置の部屋だ。いや、いつの間にエックスの部屋はわたしの部屋と合体されたのでしょうか。これじゃあ同棲ですね、なんだろう今更笑える。
綺麗に整理された室内は本人の真面目っぷりがよく表れていると思います。将来は良い主夫になれると思うよ。ご覧ください、デスクの上もまるで未使用のような整頓ぶりで…………、
「ん?」
作業用端末やらファイルやら冊子やらが配置されたその横に、フォトフレームが置かれているのが見えた。これは見たことがない。近寄って手にとってみる。一定時間で表示されている画像が切り替わるタイプみたい。
「……なん、だと…」
パッと映し出された画像。五人の男女が写っている。右から、綺麗な金髪をポニーテールに結んだ女の子、短い髪の男の子、その子より少し背が高い男の子がもうひとり、それから胸ポケットにサングラスを引っかけた男の人、最後に柔和に微笑む老人。……こ、このおじいさんは知っているぞ。あの…ほら、いつもエックスにアーマーとかくれるあの博士……、、
「わたしはなにも見てないわ」
自分に言い聞かせながらフォトフレームを元の位置に戻した。…………正直、物凄く核心的に酷いネタバレを見たような感じの気分だ。メメタァ。もう知らん。
出来るだけ思い出さないようにしながら部屋を出る。ドアを閉じてから頭を抱えた。解らないにも程がある。何なの??いたずらにしては酷すぎるわ!
仕方がないので自室に戻って落ち着こうと足を動かすことだけを考えた。全く訳が解らないよ…