Spreading darkness
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その壮年の男は、ひと目で研究者とわかる白衣を翻し、薄暗い研究所の廊下を進んでいた。苛々とした表情を隠すこともせず、硬い靴底を鳴らしながら歩む。
「ソニック・ザ・ヘッジホッグか……!なぜヤツのような者がここに……クソッ」
カオスエメラルドを研究する者として、あの青いハリネズミは非常に興味をそそられる研究対象であり、シャドウ・ザ・ヘッジホッグと同様に要注意人物だった。だがGUNに属するシャドウならとにかく、なぜただの民間の者であるはずのソニックやあの妙な力を使う銀色のハリネズミがここに押し寄せてきたのか。忌々しいことだ。あともう少しで、あの小娘を隅々まで解析できたというのに。
「ふん、だが……ただで帰すわけにはいかんな」
邪魔した者にはそれ相応の罰を与えねば。
男は口の端を奇妙に歪めた。廊下を足早に曲がり、とある部屋に入る。だだっ広いその大型格納庫の中には、二足の戦闘メカが多く収められていた。……GUNからの横流し品だ。
男が手元の携帯端末を手早く操作すると、並んだうちの数体が起動し、重い足音をたてて歩き去っていく。今し方、データを採取していたあの研究室に向かったようだった。
一方、男の傍らで一体が停止し、スタンバイ状態になる。
「クク、これであのハリネズミどもを、」
「…………おや、こんなところに居たとは」
突然低い声が背後から届いた。
愉快げな笑いを響かせていた男が口を噤んで振り返る。そこに幽霊のように立っていた、ひとりの黒いハリネズミ。
「シャドウ・ザ・ヘッジホッグ……か……?!」
黒の刺に流し込んだ灰色。肌が病的に青白く、緑色の暗い双眸が爛々としている。先程まで捕らえられていたはずのシャドウと同じ形、色彩が違うだけのはずなのに奇妙な違和感……いや、不吉な感覚がつきまとう。
「……そういわれるだろうとは思っていたよ」
そのハリネズミは表情を変えることなく肩をすくめた。
妙に芝居がかった仕草に神経を逆撫でされた男は声を荒げる。
「なにをワケの解らないことを……こちらの妨害をしてくれたんだ……貴様らハリネズミどもには十分にお返しをしてやらねばならん」
再び手元の端末を操作すると、傍らで待機していたメカのハッチが開き、機体から銃口が飛び出す。大口径の機関銃を前にしてもなお、そいつの態度には変化がない。いくら驚異的なスピードを出す獣人でも、一発当たってしまえば致命傷は避けられないというのに、物陰に隠れようともせず怯む様子もない。
先に感じた違和感は膨れ上がるばかりだ。それを振り払うように男が叫ぶ。
「さぁ、潔く……死ね!」
声を合図とするように、メカから銃弾がバラ撒かれる。重い発射音が立て続けに鳴り、辺りに薬莢の雨が降った。流れ弾が床や壁を凄まじい速度で削り取っていく。
機関銃は数百の弾を撃ち尽くしたあと、硝煙をたれ流して止まった。一瞬の沈黙が流れ─────それでもその先でゆらりと動いた黒い影。
「はははは……まったく、酷いことをするなぁ」
くすくすと嗤う。あれだけの銃撃を受けてもなお、傷一つなく、表情一つ変えることなく突っ立っているそいつ。男は背筋を冷たいものが流れ落ちるのを感じた。
「……どういう…ことだ……なぜ……貴様、」
「ああ、撃たれても平気かってことかい?」
ボクは特別だからね。そう言ってひょい、と片手をあげると、指先が泡立って形を崩し、黒い液体になる。腕と肘を流れ落ちて、粘度のある液体がぼたぼたと床にこぼれた。指が…体が、溶け落ちていく様に、男が耳障りな悲鳴をあげた。なんだこいつは。あの体で弾丸を無効化したのか……?!
「良い声だ。…………さて、キミには素敵なものをプレゼントしてあげよう」
「っ……!」
じり、と男が後ずさる。目の前のハリネズミは無表情のまま、それでも緑色の眼の中に映る明らかな愉悦。そいつがいつの間にか再生されていた手を持ち上げると、すっ、と男の足元を指差した。
つられて目線を下げると、黒い床が目に入った。……黒?
「な、なんだこれは……足が……?!」
今までただの白く冷たい床材が見えているだけだったはずなのに、黒く変色した床が男の両足をずぶずぶと飲み込んでいた。引き抜こうとしても、強烈な力で圧迫されて動かすことすらできない。まるで底なし沼のように、体はゆっくりゆっくりと引きずり込まれていく。
くくく、と喉で嗤う声が聞こえる。
「キミ達はボクのお気に入り達…特にリリスをさんざん弄んでくれたみたいだからねえ。お返しだよ。……キミには聞こえなかったのかい?彼女の悲鳴が」
嗤いが猫なで声に変わった。
天井に設置されているライトが急激に光を失って、辺りが少しずつ少しずつ暗くなっていく。ざわざわと肌が粟立つ感覚と恐怖、それでも研究者としての思考は失われないまま加速し続ける。
─────なんだこいつは?形はハリネズミだが、もっと違う…中身はまるで別物だ!こいつも先ほどのハリネズミどもも、人でない者は妙な能力を持つ者が多い!化け物め。音速を超える足?究極の生命?溶ける体?とんだ化け物だ!────
「こ……の!化け物め!貴様らのような薄汚い畜生どもにこの人間様の研究がわかがあががあぁああ─────」
わめいていた男の口が、言葉のかわりに雑音を絞り出す。足元の黒が液体のように縦に立ち上がり男の四肢に絡まった直後、一気に中まで引きずり込んだのだ。
衝撃で男の手から滑り出た携帯端末が高い音を立てて床に落ちる。
とぷん、と嚥下した音と、一瞬の静寂。
人間一人を飲み込んだ黒いそれは自ら収縮したあと、霧のように宙に溶けて消えた。男が足を取られてから、わずか5秒足らずの出来事だった。
後に残った、黒いハリネズミの姿がひとつ。
大事なものを傷つけた人間……その存在を、初めから居なかったかのようにこの世界から消滅させた。とりあえずはそれで満足したのか、そいつは鼻で笑う。
「ふん、殺すにも値しないね。時間と空間の狭間を永久に漂うがいい」
心底おもしろくなさそうに吐き捨てて、床に転がった端末を片足で踏みつぶした。
end
「ソニック・ザ・ヘッジホッグか……!なぜヤツのような者がここに……クソッ」
カオスエメラルドを研究する者として、あの青いハリネズミは非常に興味をそそられる研究対象であり、シャドウ・ザ・ヘッジホッグと同様に要注意人物だった。だがGUNに属するシャドウならとにかく、なぜただの民間の者であるはずのソニックやあの妙な力を使う銀色のハリネズミがここに押し寄せてきたのか。忌々しいことだ。あともう少しで、あの小娘を隅々まで解析できたというのに。
「ふん、だが……ただで帰すわけにはいかんな」
邪魔した者にはそれ相応の罰を与えねば。
男は口の端を奇妙に歪めた。廊下を足早に曲がり、とある部屋に入る。だだっ広いその大型格納庫の中には、二足の戦闘メカが多く収められていた。……GUNからの横流し品だ。
男が手元の携帯端末を手早く操作すると、並んだうちの数体が起動し、重い足音をたてて歩き去っていく。今し方、データを採取していたあの研究室に向かったようだった。
一方、男の傍らで一体が停止し、スタンバイ状態になる。
「クク、これであのハリネズミどもを、」
「…………おや、こんなところに居たとは」
突然低い声が背後から届いた。
愉快げな笑いを響かせていた男が口を噤んで振り返る。そこに幽霊のように立っていた、ひとりの黒いハリネズミ。
「シャドウ・ザ・ヘッジホッグ……か……?!」
黒の刺に流し込んだ灰色。肌が病的に青白く、緑色の暗い双眸が爛々としている。先程まで捕らえられていたはずのシャドウと同じ形、色彩が違うだけのはずなのに奇妙な違和感……いや、不吉な感覚がつきまとう。
「……そういわれるだろうとは思っていたよ」
そのハリネズミは表情を変えることなく肩をすくめた。
妙に芝居がかった仕草に神経を逆撫でされた男は声を荒げる。
「なにをワケの解らないことを……こちらの妨害をしてくれたんだ……貴様らハリネズミどもには十分にお返しをしてやらねばならん」
再び手元の端末を操作すると、傍らで待機していたメカのハッチが開き、機体から銃口が飛び出す。大口径の機関銃を前にしてもなお、そいつの態度には変化がない。いくら驚異的なスピードを出す獣人でも、一発当たってしまえば致命傷は避けられないというのに、物陰に隠れようともせず怯む様子もない。
先に感じた違和感は膨れ上がるばかりだ。それを振り払うように男が叫ぶ。
「さぁ、潔く……死ね!」
声を合図とするように、メカから銃弾がバラ撒かれる。重い発射音が立て続けに鳴り、辺りに薬莢の雨が降った。流れ弾が床や壁を凄まじい速度で削り取っていく。
機関銃は数百の弾を撃ち尽くしたあと、硝煙をたれ流して止まった。一瞬の沈黙が流れ─────それでもその先でゆらりと動いた黒い影。
「はははは……まったく、酷いことをするなぁ」
くすくすと嗤う。あれだけの銃撃を受けてもなお、傷一つなく、表情一つ変えることなく突っ立っているそいつ。男は背筋を冷たいものが流れ落ちるのを感じた。
「……どういう…ことだ……なぜ……貴様、」
「ああ、撃たれても平気かってことかい?」
ボクは特別だからね。そう言ってひょい、と片手をあげると、指先が泡立って形を崩し、黒い液体になる。腕と肘を流れ落ちて、粘度のある液体がぼたぼたと床にこぼれた。指が…体が、溶け落ちていく様に、男が耳障りな悲鳴をあげた。なんだこいつは。あの体で弾丸を無効化したのか……?!
「良い声だ。…………さて、キミには素敵なものをプレゼントしてあげよう」
「っ……!」
じり、と男が後ずさる。目の前のハリネズミは無表情のまま、それでも緑色の眼の中に映る明らかな愉悦。そいつがいつの間にか再生されていた手を持ち上げると、すっ、と男の足元を指差した。
つられて目線を下げると、黒い床が目に入った。……黒?
「な、なんだこれは……足が……?!」
今までただの白く冷たい床材が見えているだけだったはずなのに、黒く変色した床が男の両足をずぶずぶと飲み込んでいた。引き抜こうとしても、強烈な力で圧迫されて動かすことすらできない。まるで底なし沼のように、体はゆっくりゆっくりと引きずり込まれていく。
くくく、と喉で嗤う声が聞こえる。
「キミ達はボクのお気に入り達…特にリリスをさんざん弄んでくれたみたいだからねえ。お返しだよ。……キミには聞こえなかったのかい?彼女の悲鳴が」
嗤いが猫なで声に変わった。
天井に設置されているライトが急激に光を失って、辺りが少しずつ少しずつ暗くなっていく。ざわざわと肌が粟立つ感覚と恐怖、それでも研究者としての思考は失われないまま加速し続ける。
─────なんだこいつは?形はハリネズミだが、もっと違う…中身はまるで別物だ!こいつも先ほどのハリネズミどもも、人でない者は妙な能力を持つ者が多い!化け物め。音速を超える足?究極の生命?溶ける体?とんだ化け物だ!────
「こ……の!化け物め!貴様らのような薄汚い畜生どもにこの人間様の研究がわかがあががあぁああ─────」
わめいていた男の口が、言葉のかわりに雑音を絞り出す。足元の黒が液体のように縦に立ち上がり男の四肢に絡まった直後、一気に中まで引きずり込んだのだ。
衝撃で男の手から滑り出た携帯端末が高い音を立てて床に落ちる。
とぷん、と嚥下した音と、一瞬の静寂。
人間一人を飲み込んだ黒いそれは自ら収縮したあと、霧のように宙に溶けて消えた。男が足を取られてから、わずか5秒足らずの出来事だった。
後に残った、黒いハリネズミの姿がひとつ。
大事なものを傷つけた人間……その存在を、初めから居なかったかのようにこの世界から消滅させた。とりあえずはそれで満足したのか、そいつは鼻で笑う。
「ふん、殺すにも値しないね。時間と空間の狭間を永久に漂うがいい」
心底おもしろくなさそうに吐き捨てて、床に転がった端末を片足で踏みつぶした。
end