エトセトラ
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「まいどー、こんばんわー。うわぁ、なかなかのケガですね」
「ああ。お前か。……この程度は良くあることだ」
「いやー、そんなアッサリと流せるのはゼロさんくらいじゃないですかね」
「そうか?」
私は部屋に入ってすぐ、メンテナンスベッドの上の赤いレプリロイドへ思わずツッコミを入れてしまった。仕方ないよね。
損傷した手足を修復しつつ、神経回路調整の為のケーブルがあっちこっちにぶっ刺さっている風景はなかなかにダイナミックだ。人間だと集中治療室で意識不明レベルかもしれないけれど、ゼロさんはレプリロイドなのでケロリとしている。
「そうか?じゃないんだよなあ……。こっちの心臓にも悪いんで気を付けて下さいよぉ」
「そんなに神経質なタイプじゃないだろうお前」
「ちょ、それどういう意味ィ!? 乙女に失礼では!?」
「俺が知る『乙女』ってやつはもっと慎ましいタイプだからな」
「おいさすがにひでぇですよ!? 訴訟!!」
「ぶふっ、くくっ……ほら見ろ」
「そこで笑うのは辞めてもろてええですか!?」
ゼロさんが愉快げに肩を震わせている。私はそれに猛抗議をしてみるものの、彼が堪えた様子はまったく無い。
もう少し会話のドッジボールの腕を磨かねば、ゼロさんに勝てないのかもしれない。頑張ろう。……え?そこはキャッチボールだろうって? このひと相手ならドッジボールするくらいの勢いでないとダメだと思う。
今は、深夜と言うには早すぎて夕方と言うには遅い時刻。任務で負傷したゼロさんが、このメンテナンスルームに運び込まれたのは一時間くらい前だった。対応したのは他のスタッフで、私は関わっていなかったんだけど、なかなかヤバい状態だったと聞いている。
仕事終わりに心配して見に来てみれば、本人は意外と平気そうにしているではないか。しかも『よくあること』ときたもんだ。やっぱり常識の範囲を超えてるね、S級ハンターは。
ベッドのリクライニング機能を存分に使いながら、こうして寛いでいる様子を見せられると妙に納得してしまう。何この風景。暇そうじゃん。
「エックスさんに怒られたんじゃないですかー?」
「……」
ゼロさんが何も言わないまま、『解せぬ!』みたいな空気を出した。『また怪我するくらいの無茶をしたのか!』みたいなことを言われていそう。
「顔に書いてありますね。肯定ですね?」
「お前……どうして解るんだ」
「意外とね、ゼロさん達は解りやすいんです」
「……」
ちなみにエックスさんは更に解りやすい。視線の動きとか声のトーンに出てくるのだから面白い。アクセルのやつは言わずもがな、だ。
レプリロイド達は、彼らが思っている以上に人間くさい挙動をしていることを自覚してもいいんじゃないかな。……なんて常日頃から考えているんだけど、私のような小娘風情が口を出す話でもないなと思っている。
「そんなことより、ゼロさん。さっきから気になってるんですけど、」
「?」
青い目がちらりとこちらを見て、赤いメットに覆われた頭が微かに動く。その動きにつられて揺れた金髪は、いつもよりもくすんで乱れている。
「髪がぐちゃぐちゃです」
「?……ああ、これは後でで良い」
本当に、本当にどうでも良さそうなテンションでそう返されてしまった。
何てこと。せっかくの貴重なサラサラロング金髪男子が大変にもったいない。ボディの損傷はすぐには直らずとも、せめて髪だけでも先になんとかしたい。大変に見過ごせない部分だ。
私はすぐに、ゼロさんへ『ちょっと待ってて下さいね』と伝えて部屋を出た。そのまま私物置き場、もといロッカールームまでダッシュで駆け込み、自分のカバンを漁る。大きめのヘアブラシを探し当てた。あのひと、髪の量多いけど大丈夫かな…と一抹の不安を覚えつつも取りあえずは部屋に戻る。
「というわけで、どうでしょう?私がやってもいいですか?」
「お前、もの好きだな」
ヘアブラシを片手に再登場した私を見て、ゼロさんは変な生き物を見る目をしてきた。実に遺憾である。後でエックスさんに言い付けてやろう。
そんなことを考えながらにじり寄ると、ちょっと呆れた表情をして背を向けられる。
ゼロさんは繋がれたケーブルが絡んでしまないように、ゆっくりと自分のメットを外した。ことん、と赤いそれが硬い音を立てて脇に置かれる。意外にもあっさりと私に委ねてくれた。
「ん」
「……あ、はい。ありがとうございます」
金色がきらきらと光を反射する。ふと、唐突に我に返った。
…………冷静に考えたらさぁッ!あのゼロさんの髪を!!私が触るんだよ!?『あの』ゼロさんの!!
「どうした?」
「いいえ、ナンデモナイデス」
言い出しっぺなのに今更躊躇してしまった。ダメよ私。クールになりなさい。雑念を排するのよ。
取り敢えず、無心になることを考えた。失礼しますね、と声をかけて髪に触れ、一つに纏めていた青いヘアカフスを外す。
金色がふわっと広がる。戦闘後の洗浄はあらかた済んでいたようで、汚れや塵は着いていない。たぶん、洗ってそのまま乾かして放置してたんだろうと簡単に想像できる。
はぁ~~~~、綺麗な髪しやがって製作者に感謝しなさいよ……などと思いながらもブラシを通し始める。毛先の方から少しずつ
「いつもはどうしてるんですか?」
「適当にやってる」
「テキトーに!?」
「…………エックスが」
「エックスさんが!?」
何てこと……!自分でなんとかなさいよと言い掛けて、でも面倒くさがってやらなさそうだな、と考え直した。だってさっき、めちゃくちゃどうでも良さそうだったし。見兼ねたエックスさんが世話を焼いているに違いない……なんか、そういう感じはする。
でもほら、元々サラサラなんですよ。女子顔負けの長さとボリュームを持っているだけで、梳かすことそのものはそんなに苦じゃない。絡まってたりぶちぶち切れる感覚もなく、どんどん綺麗に纏まっていく。非常に羨ましいことだ。いやまぁねえ、遺伝子よるランダム要素満載の人類ではなく人工的にデザインされたレプリロイドなのだから、見目麗しくて当たり前ではあるのだけども。
「イイ感じになってきましたよ」
「ん……ああ」
ブラシを動かす手を止めること無くちらりと覗き見てみれば、ゼロさんは目を閉じている。何となく気が緩んでいるように見えて、少しびっくりしてしまった。
そもそもこうして背中を向けられて、髪を触らせてもらえている時点でそれなりに気を許してくれているのだろう。そこは嬉しいところではある。なんだか、猫が気持ち良さげにブラッシングされているような感じにも思えてしまった。
「心地いいですか?」
「……」
何気なく口にしたその言葉に対して、ゼロさんはなぜか無言だった。
薄く目蓋が開き、視線は下を向いている。そういう反応をされるとは思っていなくて、またびっくりしてしまう。
前髪の下での伏し目がちな眼差し。考え込んでいる。何をどう考えているかなんて私に解るはずもないけれど。
任務の直前直後によくしている、何でもブチ壊してしまいそうな、あの鋭く爛々とした目ではなかった。ゼロさんはどちらかというと熟考より先に行動するタイプだと把握していたんだけど、こういうしおらしい表情もするんだなぁ。……一瞬、これは撮ったら売れるやつでは?とヨコシマな考えが横切ってしまった。いかんいかん。
「ああ。……不快、ではないな」
「へへ、良かったです」
「……次も、」
「はい?」
低い声が途中で切れる。それから少し言葉に詰まったような変な数秒間が過ぎていき、ゼロさんはまた口を開く。
「お前がやれば良い」
「えっ、良いんですか?触っても!?」
「好きにしろ」
この場合の『好きにしろ』は肯定であり要求だ。短い付き合いの中でも、なんとなく把握できるようになってきている。あの有名なゼロさんとこういうやり取りが出来てしまうだなんて、ここで働き始めた頃には想像もつかなかったものだ。
うふふ、今となっては『いつかもらってやる』『何いってんすかゼロさん!?』なぁーんて冗談のドッジボールをするくらいの気楽な関係になっている。なかなか楽しいじゃれ合いだ。
何はともあれ、ゼロさん(の髪)へのおさわりの許可を得てしまったことは光栄。これがマブいダチへの一歩かもしれない。
それからしばし黙々とブラッシングを続け、ゼロさんの髪は見違える程の輝きを取り戻していった。もっと時間掛かるかと思ったんだけど、意外と早く終わった。梳かしただけなのに!?と驚きばかりが過ぎる。
一つに纏め直して、元通りに髪を留める。これで任務完了だ。
「はい、おしまいです。いやぁやり甲斐ありますねえ。お言葉に甘えて、またやらせて下さい」
「ああ」
頷いて、ゼロさんは軽く頭を振った。艶々した金糸の束が釣られて波打って、照明の光を弾く。
うむ、これは我ながら良い仕事をしたと思う。調子に乗った気分のまま私は軽口を叩く。
「次は三つ編みとかやってみましょうかね?」
「俺の髪で遊ぶな」
「いやー、一本の三つ編みに纏めちゃえば何かと邪魔にならずに済むかもと思いまして」
「……なるほど。そうか、縄状に長く編まれた状態なら敵を絞殺するのに使えるかもしれないな。Zセイバーが壊れた時の非常手段として試してみるか」
「えっウソだろ……本気ィ……?」
「冗談だ」
「わりと目がマジだったなぁ……」
「っふ」
ゼロさんが喉を鳴らし、愉快げに肩を揺らす。
私はそれを視界に入れつつ、そんな物騒で血気盛んなこと考えてるから今みたいなケガする事態が起こるんじゃないですかねーと思って……でもとりあえず黙っておいた。
勝手に呆れるやら何やらしていると、ふと、ゼロさんがまた宙を見詰めながらボソリと口を開いた。
「妙な気分だ」
「え?」
私が問い返すと、いや、とすぐに短い否定の言葉が返ってくる。
「これは、言語化できるようなものではないな。……今のこの感情を表す言葉が見つからない」
「ほぇ? そういう気分になる時もあるんですね……?」
「煩わしいが、悪くはない」
「お、おう?」
「……、大した話じゃないさ。気にしなくていい」
「???」
なんだそれ?と思ったのだが、ゼロさん本人も良く解らん様子で首を傾げていた。普段はメットの内側に隠れている前髪が微かに揺れる。
再び、あの伏し目がちな眼差しをして何かを考えているようだった。あやふやな話ばかりだったけれど、不快ではなく悪くもない、そしてたぶん嫌がられている訳でもない。逆に言えば好印象好意的、ということになるのかな。
……なぁんてね。ちょいと自惚れたことを考えながら私は内心で嬉しくなる。ニヤける口元をなんとか片手で隠して、こっそりと笑ってしまった。
「……なんだ?」
「何でも無いでーす!」
(終わり)
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