エトセトラ
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「ナオトっ」
「わっ!ろ、ロック君?」
ばっ、と勢い良く背後から飛びかかれて、首に腕を回される。
「電脳世界」の中…さらには色んなナビが多く出入りするエリアの真っ只中。適当に移動しながらいつものように散策していたのだけど。
驚いた自分の声といっしょに振り返って視線を向ける。…とある一件で知り合った青い少年型ナビ、ロックマンの姿がそこにあった。大人びた彼がこんなことをするとは思えないもので。となれば、
「……そっちじゃない」
青いメットの下の緑色の瞳が滲むように赤色に変わって、思いきり睨まれた。少年にしてはなかなか迫力ある低めの声。思わず苦笑いを返した。
「やっぱりきみだったんだね、ダーク君」
これまたなんやかんや紆余曲折を経て知り合った、ダークロックマン…と言うらしい彼だった。
気づいてはいたんだけど外見がそのままロック君だったから、思わずそう呼んでしまった。でもロック君が心底嫌いらしいダーク君にとってはイヤすぎたらしい。すねたような顔でじっとり睨まれる……でもさっきからずっと飛び付いた姿勢のままだからあんまり怖くない。
「なに?やっぱりって。ナオトのくせに、ボクじゃ嫌だったわけ?」
「違いますよー…ってそれよりいいんですか?ここ、表ですし。人目についちゃいますよ?」
まばらに行き交うナビ達を横目に見ながら問いかける。いくらロック君のふりをして居ても、マズいんじゃないだろうか。
「そのためにわざわざこんな姿で来たんじゃないか。馬鹿なの?」
「あ、相変わらず辛辣ですねえ…」
思わず引き吊る苦笑いをしり目に、ダーク君はようやく離れてくれた。
…何と言うか、ギャップに慣れないのだ。
発言は嗜虐的、思考や行動は極端で過激さすら感じるのに、端々に子供っぽさが窺える。そして思考のパターンが全力で負の方向に振り切れている。
彼の生まれの経緯を深く詮索したことはないけれど、よろしくない方々の要らない画策が張り巡らされた結果なのだろうと予想がついていた。ロック君と熱斗君はその手の方々には有名らしいし、なぜか裏インターネットの住人に恐れられているとかなんとか。
ロック君とダーク君は、大雑把に言うとオリジナルとコピーの関係なんだろうと予測している。……めんどくさくなりそうだから、彼らの間柄について深く首を突っ込みたくはない。
「ねえ、どこかに遊びに行こう?」
もやもやと考えていることなどつゆ知らず、ダーク君は少しばかり楽しそうな様子で口を開く。
「いいんですか?ロック君と鉢合わせしたりしないですかね」
「ボクがそんな失態すると思う?……あいつの居場所はリアルタイムでトレースしてる。今日はずっと熱斗君とうちに引きこもってるよ」
ダーク君が指差した先、空間にマップデータが現れた。指し示すポイントは秋原町で、どこか最寄りの街頭監視カメラのものと思われる映像が付加されていた。ハッキングでもして操ってるんだろう。
カメラの中には一軒家の二階部分が映り込んでいて、ベランダのある部屋の中に熱斗君とおぼしきシルエットが見えた。
「ふふ、この程度の監視にも気づかないなんて…あいつらもどうかしてるね」
「あ、あはは……熱斗君が宿題でも溜めてたのかな…」
くすくすと嘲う声にまた苦笑いを返して、とりあえず込み上げてくる偏頭痛みたいな何かを無視しておいた。……お姉さんはきみの将来が不安になったよ…うん、とても。
気づかれないように溜め息を付いてから、じゃあ行きましょうと彼を促す。
「うーん、ネットカフェに行ってみましょうか」
「ん」
「もしかして、コーヒーとかお好きですか?」
「………………嫌いじゃない…かな」
ふいっとそっぽを向いて答えられた。なんだか可愛いなとか思ってしまったけど、黙っておく。
「あのカフェはコーヒーが美味しくて評判ですから、きっとダーク君も気に入ると思いますよ!…こっちです」
このエリアからはそれほど離れていないし、すぐに着ける。先導して歩きながら思考を回す。
いつも思うのだけど、そもそもなんでわたしが彼に好かれているのか解らない。出会ったときはそれなりに殺伐としていたはずなんだけど、いつの間にかこんなことになっていた。なにか彼の琴線に触れることでもしたかと考えてみても思い付かない。
考えていたその時、突然右手を掴まれた。半歩ほど進みかけた片足を停止させて振り返る。
「あの、どうしました?」
「……、……、ナオトが、」
「え?」
「ボク達の仲間になればいいのに」
真横のダーク君がぽつりと口を開いた。メットの影に半ば隠れた表情は何だか鬱々としていて、それでもどこかふて腐れているようにも見える。
「…………それは、遠慮しておきます」
「どうして?そこらに居るナビや人間はボク達がこれから駆逐するんだよ?間違って殺しちゃうかもしれないし、もしナオトがあいつらの、……ロックマン達の味方したら、」
メットの下の赤い眼に暗い殺気が走った。掴まれた手が痛い。その様は、置いていかれたくないこどものよう。嗜虐と横暴で孤独を隠す、ちいさなこども。不器用で、感情を上手くコントロールできないような。
彼を落ち着かせるようにそっと口を開いた。
「第三の選択です」
「……第三?」
「わたしは、きみの仲間にはなれません。でもロック君達の味方にもなれないと思います」
どちらにもつかない中立の立場。ややこしいこの事態にある程度の区切りをつけるとすれば、それしかないだろう。
ただそれは今の状況が続けば、という条件付きではあるけれど。
「約束です」
まだ疑わしげな眼を向けてくる彼に小さく笑みを向けると、赤い眼がほんの少しの安堵感を滲ませたのが解った。
素直じゃない彼はその感情の片鱗を見せることはないけども、目線を泳がせてコクリと頷いてきた。
「……なら今はそれで良い。約束破ったら、殺すから」
「あはは、心配はいりませんよ」
嘘か本当か解りにくい攻撃的な言葉を受け流す。
………今は、ロック君達とダーク君のどちらとも仲良くしていたいというのが本音だ。犯罪組織に加担するつもりは毛頭無いけど、彼を放ってはおけない。
どこかが欠けてしまっている彼をどうにか埋めてあげることはできないのだろうかと思う。誰からも刃先を向けられてしまう彼を、誰にでも簡単に刃先を向ける彼を。
板挟みな思いを抑えながら、わたしはダーク君の片手をそっと握った。