エトセトラ
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「ナオトーーっ!!一生のお願いだから、課題写させてくれ!!」
いきなり人の机まで突撃してきたかと思えば第一声がコレである。昼休みが始まったばかりの教室。日直の作業を終え、先に昼食を買いに行った友人達を追いかけようかとしていた矢先のことだ。
緩んだネクタイと一番上のボタンが開いたワイシャツ……という少し着崩した制服の男子生徒がひとり。焦った顔に若干の半泣き成分を混ぜるという器用な表情をしている。
跳ねた茶色っぽい髪、それを誤魔化すように巻いているバンダナ。あれだろ?寝癖が酷いんだろ?などと邪推する。
子供のころから装備し続け、高校に入った今現在、何度も生徒指導の先生に注意され没収されを繰り返しているそのバンダナだけど、本人は一向に懲りる様子が無い。注意されようが没収されようが全く動じない。素晴らしいほどのスルーっぷり。結局懲りたのは注意する先生たちのほうで、今では完全に黙認状態である。良いのかそれでと全力で突っ込みたいところだけど、何だかんだ言ってトレードマークみたいになってしまっているからキャラ付け的な意味では成功なんだろう。誰か止めてやれ。
そしてこの男子、黙っていればけっこーなイケメンの部類にはいるヤツなのだが本人はてんで自覚が無いらしく、中身はお調子者、遅刻魔、サボり魔の三拍子ときた。いや、良いやつではあるんだけどね。
と、まぁこんなんでも一応は幼なじみのご近所様、もとい昔っからの悪友なのだ。
とりあえず、そんな悪友の必死ぶりが面白いので少しからかってみることにする。至極マジメくさった顔を作ってから、わたしはばしんと机を叩く。地味に痛いわ。
「なんでお前はっ!そんなに簡単に一生のお願いを使ってしまうんだ!!諦めんな!もっと熱くなれよ!熱そうな名前してるのになんでそこで諦めるんだッ!!なぁ!?頑張れよ熱斗!!」
「いや今は名前関係無いだろ?!お前にとっては得意教科でも俺にとっては無理ゲーなんだって!」
「お前ならできる!!」
「できないから困ってるんだよ!くっ……!なら仕方ない、今日の昼飯おごる!それでどうだ!!」
「良いよ」
「ずいぶんあっさりだな!?」
拍子抜けしたような顔で彼・光熱斗の突っ込みが返ってきた。一生のお願いとおごる約束を出されては首を縦に振らざるを得ない。ちなみに個人的重要度は、『おごり>>>一生のお願い』となる。ご了承ください。
とにもかくにも契約は成立。のそのそと机からノートを取り出そうとしているとき、熱斗の背後に音もなくゆらりと人影が立った。おや、これは熱斗死亡フラグ。
「……で、これで『一生のお願い』は何度目なの?熱斗くん?」
「げぇっ」
肩にポンと色白の手が乗っかる。少し大袈裟なリアクションで熱斗が振り返った先に、彼と同じ顔立ちがあった。
襟足が跳ねてる茶系の髪、少し長い真ん中分けの前髪。その下の眼がじっとりと熱斗を睨む。こっちはきっちり制服を着ていて、本人の生真面目っぷりがよくわかる仕様だ。熱斗の兄貴である彼は双子のくせに中身はあんまり似ていない。まぁ知ってる双子ってのがこの二人だけだから、一般的な双子がどうなのかは解らないけど。
とにかく、一見すれば大人しい薄幸病弱美少年なのだが、実際は薄幸でもないし特に大人しくもない。穏やかではあるけどね。子供のころは病弱気味だったみたいだけど、最近はそんな雰囲気は全くない。鼻からロングソード系お兄ちゃんの光彩斗だ。
「さささ、彩斗兄さぁん!?先生に呼ばれて職員室じゃなかったのかよー!?」
熱斗が慌てすぎておもしれぇ。しばらく様子をみることにする。兄弟コントの始まりです。
「もう用事は終わったよ!まったく、昨日課題の話ししたのにまさかホントに忘れるなんて。しかもナオトに写させてもらおうだなんて甘いよ!」
びしっと指先を突きつけられて、まるで銃口でも向けられたみたいに熱斗が後ずさる。ははは、その先は壁だよ少年。
「ぐぬぬぬ…じゃあ、兄さん見せてよ!」
「……熱斗、僕の話聞いてた?」
「聞いてた聞いてた!用事は終わったんだろ?」
「いや一番肝心なのはその後の話だよ!?」
「ぶっは、」
思わず吹いた。
やたらパーフェクトにシンクロしているこのやり取り。息合いすぎで見てて面白い。漫才か。
わたしが唐突に吹き出したのに反応して光兄が視線を寄越してきた。普通なら柔和なはずの双眸が今はきゅっと吊り上がっている…のだけど何だかあんまり怖くない。たぶん童顔気味だからだと思う。…誉め言葉です。
「ナオトも!簡単に課題見せちゃ駄目だよ?ここはしっかり先生に怒られて反省してもらわないといけないからね、熱斗は!」
「……いやいや~、本当にきみは熱斗のお母さんみたいだねえ」
「えっ」
思わずぽろっと口に出してしまった。いやいや、実際に思っていたことなのだけど、あの剣幕がなかなかオカン染みていたもので。
言われた当の彩斗君はきょとんとして、ぱちくりと目をしばたたかせた。いかにも考えたこと無かったですって顔をしてる。
「あ、やっぱりナオトもそう思うよなー?だよなー!」
横でにやにや笑いながら熱斗が言った。貴様、話が良い感じにそれつつあるから勢いを取り戻したな?丸分かりである。一方の彩斗君は眉間にしわを寄せて、解せないとでも言いたげな顔をしている。
「何だかんだ面倒見が良いよね、彩斗君は。良いなぁそういうお兄ちゃん!」
「そ、そうかな…普通じゃないの?」
「普通なのか?」
「いや、解んないけど……」
兄や姉という立場の人間は面倒見が良いタイプが多いとは思いますが。などとフォローしておくと、まぁいいじゃない、と彩斗君が言った。
「仲良きことは良いこと、ということで。あんまり考えたこと無かったなぁ。なんか自然に、」
「まぁ俺たちは俺たちってことで、」
「良いんじゃないかな」
なんだこの双子。やっぱり面白いな。なんて思いながら内心で苦笑していると、早速といった様子で熱斗が片手を出してきた。次のセリフが簡単に予想できるわ。
「……というわけで、ナオトー!頼む!」
「懲りないなー、きみも。はいどうぞ」
「ははーっ!」
その手にぼすんとノートをのせる。熱斗がまるで神から賜った何かのように大げさな動作で受け取ってみれば、そこは黙っているはずのないお兄ちゃんである。
「あぁっ!なんか良い感じの話になってたのに今ので台無しだよ!」
「いーじゃんか!減るもんでもないしさ!」
余裕ぶった熱斗の一言に、わたしはすかさずツッコミを入れておく。
「そうそう減るのは熱斗の財布の中身だけだしね!」
「ハッ、そうだった…!小遣いが……ッ!」
「自業自得だよ」
にこりと笑いながらの彩斗君の追撃に軽く項垂れる熱斗の肩をつつく。ふふ、ならばさっそく契約を果たして貰おうじゃないか!
まだ微妙に未練があるらしく、悔しげなバンダナ頭ににやりと笑いかけた。真横で肩をすくめる光兄を横目にわたしは口を開く。
「じゃあコンビニ行こっか!」
……わたしの日常はいつもこんな感じ。
騒がしい双子やら副社長のクラスメイトやら変な留学生やら……色んな連中に絡まれるけれど、なんだかんだ言って今日も平和なのです。