もしあの時彼女が起きなければ。
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
仲直りを終えたあと、***はまだ、****の手の中で頭を撫でてもらっていた。優しい手付きが嬉しくて、やっぱりにこにこしてしまう。
そんな中、真剣な眼差しで****が口を開く。
「ところで君は、……もしかして赤いレプリロイドのことを覚えているのかな?」
声色は少し強かったけれど、怒ったような雰囲気は無い。
どうしてそんな質問の仕方をされるのかが解らないまま、***は思い浮かんだものを素直に口に出す。
「……きみ、あかいひと。ならぶとすてき」
不思議なことだ。あの赤い人と、****が並んでいる姿が、とても簡単にイメージできる。阿吽の呼吸……そんな様子で一緒に戦っている風景が、実際に見てきた映像のように再生される。
かっこいい二人組の後ろ姿が眩しくて、どきどきする。わたしもあんなふうになれたら良いのに。そんなことを、理由も解らずに強く感じていた。
何かを手繰り寄せようとするように、****は片手を顎へ当てて考え込んでいる。
「わたし、あったことある?」
「うん。彼と君、仲良しだったよ」
「そうなの!?いつかな?どこかな?」
「……」
意気込んで声を上げてみると、途端にまた難しそうな顔をされてしまった。何かおかしなことを言っているのだろうか。***は不安になって眉を下げる。
数秒黙り込んでから、****はようやく表情を柔らかいものへ戻した。
「君に面白いものを見せてあげる」
「おもしろい?」
「内緒だよ。……僕の友達の映像」
「! みる!」
****は***を机の上に乗せると、机の引き出しを開けて薄い板を取り出した。手のひらサイズのそれを、***の眼の前に持ち上げる。
表面はつるつるしていた。あちこち塗装が剥げていて、金属の色が見えている。なんだかとても古い物のようだ。
「見覚えはないかい?」
「? なぁに?」
よく解らず、思ったままを口に出す。****は、寂しそうな微笑みを作った。
「昔の携帯端末だよ。……形見、みたいなものかな」
つるつるした面がぱっと明るく光った。古くてもきちんと動かせる状態のようだ。少し黄ばんだ色合いで何かが表示される。
****は慣れた手つきで薄い板を操作していた。ぱたぱたと軽く表面を叩いて、その度に映るものが切り替えられていく。合間に、赤と金色がちらりと見えた。
「あ!さっきのあかいひと!」
「今とはアーマーの形も違うのに、やっぱり解るんだね」
「あーまー……んんん?」
****の手元の画面を覗き込む。
長い金髪と赤い装甲のレプリロイドが、何か飲み物を片手に持ちながらこちらを見ている画像だった。海のように青いアイカメラが、ちょっぴり面倒くさそうに細められている。……昼間見たあの映像データの中の赤いレプリロイドとは、姿形がぜんぜん違っていた。それでも***には、同じひとなのだとすぐに解った。……どうしてだろう?
「昔はね、みんなこういうかっちりしたタイプのアーマーだったんだよ」
「……むかし?」
「そう。もっと地上が綺麗で、今よりもたくさんの人とレプリロイドが生きていた頃」
伏せられた****のアイカメラが、不思議な感情を乗せている。悲しいような、寂しいような、懐かしいような、遣る瀬無いような。
たくさん混ざっていて、それがどういう気持ちを意味しているのかよく解らない。
画面が切り替わる。今度は映像のようで、****と赤いレプリロイドがとても仲良く会話をしているところだった。音声データが壊れているのか、声だけが聞こえてこない。
背景には、いろんなレプリロイドがたくさん映り込んでいた。みんな忙しそうで、でもたまにこちらに手を振ってくる。
今とはだいぶ違う形をした****が、穏やかな表情で苦笑いをしている。赤いレプリロイドが顔を伏せて、微かに肩を震わせながら笑っている。撮影しているひとも笑っているのか、画面が少し揺れている。
画面が二人に近付いていく。****に端末が手渡されたのか、画面から青い姿が消え、代わりに女の子のレプリロイドが映された。恥ずかしそうでいて、でもやっぱり楽しそうだった。
それから数秒間の後、映像は途切れた。
「……」
映像が消えたその携帯端末に釘付けになる。惹き寄せられるみたいに視線が離せなくて、頭の奥がじくじくしてくる。霧がかかったようにぼーっとしてくる。
楽しそうな風景だった。
たのし、そう……?
―――確かに楽しかった。つらい戦いは多かったし、つかの間の平和ばかりだったけれど、それでもそれ相応に楽しい時だった。楽しかった。苦しかった。悲しかった。怖かった。痛かった。懐かしかった。全部が過ぎて行った、近いようで遠い出来事。
今はいつだろう。本物の現実が何なのか判らなくなった。視界が薄れていき、音が離れていき、感触が解けていく。意識が引き延ばされていく。
霧がかった思考が何かを訴えていた。どこか遠いところにいる別の自分が、しっかりしなさいと強く言ってくる。一番大事だった何かを忘れている。たくさんのものを忘れている。置き去りにしている。だから、早く戻ってきてと言っている気がする。どこに?今ここに居るのはわたし?
―――わたしはどこ?
映像が消えて暗くなった画面を見る。鏡のように艷やかなその表面に、女の子の姿が映っている。反射している。ぼんやりした視線がこっちを見つめ返してくる。その顔立ちは、さっきの映像の女の子と同じ形をしていた。
「ナオト!?」
がたん、と端末が落ちた。かちり、と頭の中で何かが戻された。
「んえ?」
顔を上げる。焦ったみたいな不安そうな****が、立ち上がってこちらを見下ろしている。
気が付かない間に、自分の姿がノイズで大きく揺らいでいた。壊れたモニターの乱れのような現象が、ざらざらと***の全身を覆う。姿が明滅して、色の飛んだ砂嵐が体中を這うように駆け回る。コレはなんだろう?自分の足先が何となく透けている気がする。なんだかこのまま消えてしまいそうだ。
―――消える?死んでしまう?本当にそうなの?
不思議と落ち着いていて、消滅することへの恐怖も焦りも何も感じられなかった。
突っ立ったまま、実感の湧かない凪いだ心地で瞬きを繰り返す。その間にノイズは減っていって、いつもの***の姿に戻っていった。
「き、君、は、」
****が、震えた声を出す。何となく顔色が悪くなっていて、緊張しているような表情だ。端末から離れた両手が行き場を失って震えている。よく見れば、さっきまで座っていたイスが向こう側へ倒れている。
ノイズでおかしくなった自分よりも、****のほうがよっぽど慌てていた。どうしてそんな顔をしているのかが全く解らず、こてんと首を傾げる。
「んん?……??」
「……だ、大丈夫かい?どこか異常は?体との接続は……、」
「のいず、なくなった!だいじょぶ、んぎゅ」
優しく、でも力強く。***の小さな体を****の両手が包み込んだ。抱え込むように胸元に引き寄せられる。
「この程度で異常が出るなんて思わなかった。もっと慎重にいかないと……。さっきのあの映像を見せるべきでは無かった、ごめん」
「どうして、あやまるの? ……きみのが、くるしそう。つらい? どこか、いたい? そんな、かお、しないで」
「君のほうが大事だから、僕の事は良いんだよ」
そんなことないと言おうとした。でも口に出す直前に、君に居てくれないと困る、と****が言っていたのを思い出した。困ってしまうのは大変で、良くないことだ。
なんだか気持ちがすごくもやもやする。頭の中に色んなことがいっぱい引っ掛かっていて、けれど、それを上手に言葉に表せない。掴んでいるはずなのに、指の間からぽろぽろ落ちてしまうようだ。
「僕は…………どうしたら良いんだろうね」
ぽつんと呟かれた声にだって、何を返したら良いのか解らなかった。解らないから解らないとそのままの返事をするのは、間違っている気がした。
たぶん****は、本当は***に伝えたいことがあるのかもしれない。でもそれを隠しているような、上手く言えないような、迷っているような、そんな雰囲気を持っている。
―――おともだちは、わかるのかな?
あの映像のレプリロイド達なら、もっと****のことを解ってあげられるんだろうか。
あてもないことを思い浮かべながら、きゅっと掴んでくる****の手に触れる。