magicians operation
Name change
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サイバー空間の暗がりの一角。
エックスは黙ったまま、その瞳をぱちぱちと瞬かせた。赤が明滅する。
今しがた、慌ただしく去っていった自分のオリジナルが最後に発した言葉を頭の内で再生して、手で顔を覆った。
――――ありがとう。感謝するよ、エックス。
そう、オリジナルが、複製である自分をエックスと呼んだのだ。これが驚かずにいられるだろうか。自分の名前でありながら、本当は別の違う者を指していたそれ。他者は自分を通してオリジナルを見ているだけだった。最初から最期までコピーはコピー。ボディを失って、もうエックスと呼ばれることすら無いだろうと思っていたのに。
(ねえナオト、ボクはエックスになれたのかな…)
「……」
目の前に浮かぶ無数の映像のうち、ナオトが写り込んだそれを拡大する。その表情に、先ほどまでオリジナルと対峙していたときの堂々とした不遜な雰囲気は微塵もない。ただ、少しの寂しさが浮かぶばかりで。
(……そうか。オリジナル、キミは体を失ってからずっとこんな気持ちになっていたのか)
ずっとそばに居てあげたくても、できない。彼女が苦しんでいても何もできない無力感。現実に自力で出ていける力が十分に残っているだけ、自分はまだマシなのかもしれない。
「会いたい、な」
………いつの頃からか、エックスはナオトのことを好きになっていた。
それはオリジナルから引き継がれた感情なのか自発的なそれなのか、彼には解るはずもなかったけれど、それでも彼女には笑っていて欲しいと思った。悲しい顔をして欲しくないと思った。そのためにはどうすれば良いんだろうと考えていた。
それは冷え固まった彼の心の中に唯一柔らかな灯をともす感情だった。彼女を大事に大事にしようとして、でもどうすればいいのかわからずに彼女を傷付ける結果になってしまっていた。
そして、あの科学者に操られるがままにこじれた思考は間違いに気付かず、再び相対し戦ったゼロに破壊された後。いつの間にか自らが、オリジナルと同じようにサイバーエルフに変わってしまっていた。自分のようなニセモノが、どうしていつまでも生きているのか疑問でもあったし、これからどうすればいいのかも解らなかった。答えは誰もくれない。(……でも、このままじゃ駄目だ)
漠然とした気持ちがくすぶる中、思い出したのはスペアとして作られた自らのボディのことだった。あれを使えば、また何事も無く現実に復帰できるだろう。バイルに報復することも、ネオアルカディアの総統として帰還することも、…………レジスタンスとの抗争に終止符を打つことも。
しかしふと思ってしまった。今のあの戦い、あれは数百年前から続くオリジナルとゼロ、ナオトたちの戦い。その中に出ていく権利は……きっと自分には無い。(何も、できないなんて)
あの戦いの助けとして本当に望まれているのはオリジナルだ。彼が行くべきなのだ。妖精戦争に、本当の意味での決着をつけるために。きっと彼女もそれを望んでいるはずだ。(悔しいけれど)
――――だからエックスは、ただひとつだけ残った自らの体を自分のオリジナルに託そうと考えた。本当は自分が使うつもりだった。でもそうしてもナオトはきっと笑ってはくれないだろうから。
英雄のコピーとして生まれ、予め用意された通りの筋道に沿って、言われたように生きていた彼が、他者の為に何かをしようとはっきり思った瞬間だった。
(スペアを、オリジナルに渡そう)
そうしてようやく、サイバー空間の中でオリジナルの居所を見つけたとき、エックスはどうしようもない苛立たしさを感じた。強欲なまでに諦めない心を持っていたはずのオリジナルエックスが、あれほどに深い諦感と無気力感をまとわりつかせていたのだ。ナオト達が立ち向かっている姿を、まるで他人事のように傍観しているなんて信じられなかった。(……ナオトの想い人がこんな有り様でいいはずがない)
それでも、オリジナルのあの様子は本心ではないのだろうと思った。いろんな感情を無理矢理押し込めて、考えないようにしている……エックスにはそう見えたのだ。
だからエックスは、オリジナルの本心を吐かせるため――――本心を知るためにあえて辛辣な言葉を投げ掛けた。それ以外の他の方法を知らなかった。
生きる意志は?
戦う意思は?
消え行くだけの存在で良いのか?
ナオトのことは?
それで良いのか?
本当に?
本当に?
揺れていたオリジナルの思考は、迷った挙げ句についに本心を吐露した。……予想したとおりだった。死にたくないなら死にたくないとさっさと認めればいいのにと呆れもした。
「これで良いんだ。きっとこれが最善だ」
呟いた声は聞かせる相手が居ないまま、静かな暗闇に溶けて消える。
力を磨り減らしたオリジナルが身体を扱えるか解らないし、戦いが終わった後どうするつもりなのかも知らない。ただ今度こそ、彼女が……だいすきなナオトが悲しむことのないように。それだけを願っていた。
たぶんもう会うこともないと思うから。
―――願わくば、どうか。キミが幸せであるように。