人工少年は幸福の夢を見る。
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ボクという個の顕示は酷く曖昧である。
はじまりはあやふやで、記憶すら不確かなノイズに沈んでいる。ノイズ、あるいはサイバー空間の不明瞭な情報の海にも似ている気がする。よくわからない。
ただ、こうであるようにと敷かれた道に立っていたのが初まりと言えばそうだ。
全てが借り物である。借り受けた環境、身体、情報、全てがボクという者を隠している。姿かたち、名前、根本、個が存在しない。
人を模した物であり、とある個体を模した者である。思考それすらも模倣であるとしたら、ボクという個人は一体どこに居るんだろう。オリジナルは逃げ、ボクが据えられた。代替。間に合わせ。
…………もしくはそんな考えすら、持ってはいけないのだろうか。
そう考えることを止めてしまえば、それこそボクという個は消失してしまうんだろう。目と耳を閉ざして、無駄なことを考えず。
日々の要求の中にボクという個は含まれていない。ボクにとっては疎ましくも呪わしく、それでいて羨望すら感じる固有名詞であり、同じなずなのに決して成り代われないその人物……エックスという名前とその名を持つ者が居ればいいだけなのだ。
だから、驚いた。
もはやボクという個人は存在しないのだろうと、半ば諦めのように考えていたときだった。(答えのでない思考をもてあそぶのに耐えられなくなっていたと言うべきか)
何事もなく彼女が言い放った言葉に驚いた。
「きみは、誰なの?」
……オリジナルのかたわらで眠っていた彼女を起こしたのはボクだった。そばに居て欲しいと思ったのもボクだった。エックスで居れば、彼女がいっしょに居てくれるとボクは思っていた。
だけど彼女は、ボクが模倣者であることを気づいていたうえでボクのそばに居た。
そして、ボクの個を問いかけてきた。必要がないと判断して考えることすら放棄していたものを、模倣者ではなくオリジナルになろうとまで考えてしまっていたボクに。
彼女の問いに答えられないまま黙り込んで、彼女が悲しそうな表情をするのをただ見ていた。
個を求められたことなど無かったから、何と返せば良いのか解らなかった。いつも通りに「エックス」と言えばよかっただけなのに、その名前を口に出すことが出来ずに嚥下してしまった。……仮に「エックス」と名乗っても、彼女は首を振っただろう。
なら、何と言えば?
エックスというオリジナルが居ることでしか個を保てない。
しかしそれでいて個は存在しない。
いったい、ボクは何なんだろう。
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