人工少年は幸福の夢を見る。
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「…………エックス、……明日、世界が終わるとしたら、どうする?」
とりとめの無い言葉の端。ボクのかたわらに座り込んだナオトがぽつりと口を開いた。まどろみの間に過ぎた言葉は無言の中に融けて、奇妙な違和感を残すばかりだった。
眠りに落ちる直前の蕩けた声が聴覚野を過ぎていくのを感じる。ボクはただ彼女の深意をはかりかねて、僅かに首をかしげた。
「どういう意味だい?」
「そのまま…だよ。もし何かの理由で、この世界が終わってしまうなら………」
人間を、レプリロイドを…助ける?
ナオトは眠たげな双眸を少しだけ開いてそう言った。滑り落ちてきた彼女の髪を掬い上げながらボクは首肯する。
なにを思ってそれを問うのか。ナオトの本心は解らないけれど、戯れに苦笑した。答えは初めから決まっている。決められている。そういうものだ。
「もちろんだよ。そうでなければ、ボクが居る意味がない」
「…………」
彼女がゆっくりと瞬きをした。柔らかな視線がボクを見る。充足。
伸ばした片手でナオトの髪を何度かすいて、小さな肩を引き寄せる。動力炉が小さく均一な音を立てるのに気づいて、ボクは細く息を吐いた。
「でも終わるその瞬間は、キミといっしょに居たい」
「………エックス……、」
ふわり、とナオトが薄く微笑むのが視界に飛び込む。暖かくて、穏やかで、優しい。その笑顔は元々はオリジナルに向いていたのだろう。今は、違うけれど。でも素直な気持ちで嬉しいと思う。
つられるようにボクも口の端を持ち上げた。
彼女は笑いながら目を閉じて、そっと囁く。
「きみは…………本当に、」
うそつきさんなんだね。
―――――――――。
ナオトの微睡む声が空気を掻き乱した。ナオトの柔らかな声がボクを突き刺した。
どきりと胸のうちに嫌な感覚が走った、気がする。それは予感のようで予測のようで良く解らない、こんな感覚は経験したことがない。
何が嘘?
誰が嘘?
どうして嘘?
なぜ嘘?
静かな中、その言葉の深意を問う勇気もないままボクは次に言おうとした言葉を嚥下する。
感情に圧迫された言語野は言葉を構成するいとまも与えられない。思考と感情のはざまで発生した不安要素は思考のリソースを瞬く間に凌駕し、それに影響された動力炉が高い音を立てる。アイカメラがぶれて宙をさ迷う。
まさか?もしや?可能性が思考を掠めていく。
ナオトは、もしかして、ボクが、オリジナルではないことに、気がついて、いる???
疑問は口に出すこともできないまま思考の海に沈んでいった。それは実際、ボクにとっては考えたくはなく想像することすらしたくはない。掴んでいた平穏が指の間からすり抜け逃げる錯覚。
熱い吐息を深く吐き出して、目を閉じて寝息を立て始めたナオトを見詰めた。
(きみが本当にエックスなのだとしたら。人間もレプリロイドも両方助けて、仮に例え話だとしても「いつものように世界の終わりを全力で阻止する」と言ってのけるでしょう。彼は欲張りだから)
彼女の言葉は音にならず、電波にもなることがなかった。ただ誰にも知られることなく思考の隙間に消えた。
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