Tautology
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散乱した鉄屑。物言わぬ死骸が転がる。それから雨。
真昼の曇天の間の、大粒の水滴。
透明な雫が頬をしたたり落ちて涙のようだった。実際に、制御出来なくなった感情の一片が溢れ落ちている…はず。でもそれは雨に隠されて良く解らない。
「……」
鈍くて重くて、暗い色をしたどうしようもない思いが思考を覆っている。頭は真っ白になっていて、何も言えない。どうすればいいのか、どうしたらいいのか。今まで何度も「こんなこと」はあったし、経験してきた。似たようなことはたくさんあった。
任務はいつも通りで、いつものようにイレギュラーを処分しただけなのに。だけど、だけどどうして。どうしようもない方向にばかり考えが及ぶ。立派な現実逃避だ。解っている。どうにかしたいどうにもならない。何でだ。何でなんだ。ふざけるな。おれは黙ったまま、くちびるを咬んだ。受け入れたくない現実と、思考を拒否する頭。
弱い息を吐き出して、いつも通りにおれは冷たい自分の手を伸ばす。いつものように暖めてくれる手はもう無かった。冷えきった細い手先に触れる。あの暖かくて優しい温度はどこか幻のように消え去ってしまった。あんなに触れ合っていたはずなのに、メモリーに霞がかかったように思い出せない。思い出したくないと思ってしまっているのかもしれない。つらいのは厭だから……これは感情自閉だ。
「どうして、」
彼女に限って「こんなこと」があるはずがないのに。
確率のあいだを掻い潜ってここまで生きてきたはずなのに。おれも彼女も。
「ナオト」
酷くざらついたおれの声に反応して振り返る姿はない。細い身体は少しずつ、しかし確実に温もりが失せていて、とろりとした眼はおれを通り過ぎたどこか遠くを見詰める。力なく投げ出された手足は赤に染まって、それは急速に雨水に混ざっている。どれだけ彼女の赤にまみれても、もう気にもならなかった。おれは黙ったまま彼女の肩に顔を埋めて、強く強く抱きしめる。
雨はまだ止みそうにない。
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