オッズアンドエンズ
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任務が終わった後、何か飲み物でも買おうとベース内の自販機まで足を運んだ時のこと。
支払いを済ませ、ボタンを押して、飲み物のボトルを機械から取り出す。単純な一連の動作が上手くできなくて、体がぐらぐらと揺れる。ボトルを落とさないように抱える。
「わ、わぁ、あ!?」
たたらを踏んだその瞬間、後ろから支えるように腕を掴まれた。おかしな重心移動が修整されて、なんとか転ばずに済む。振り返ると、そこには驚いた表情のエックスが立っていた。
「ナオト。大丈夫かい?」
「あ、エックス。ありがとう、助かったよー」
「……」
何かを察知されて、彼の胡乱なアイカメラがわたしの足元を見る。その視線から逃げるように数歩後ずさる。
運の悪いことに、今わたし達が居る休憩スペースは他に誰も居なかった。空いたベンチと並んだ自販機だけがこちらを見ているような、奇妙な錯覚だけが残る。
「……その足」
「うっ」
じろりと緑色の視線に睨み付けられてしまった。ちょっと冷や汗が落ちた気がする。
しまった。オーバーサイズの私服を着て誤魔化していたつもりだったんだけど、動きでバレてしまったみたい。後ろめたくなって、苦笑いをしつつ視界から青い姿を無理矢理に逸らす。
……今日は散々な任務だった。不意打ちでイレギュラーに吹き飛ばされて右足を怪我して、ついでに打ち所が悪くて平衡感覚も上手く動作していない。踏んだり蹴ったりな展開だ。
そんな状態で、わたしの右足は今、代替のパーツがくっついている。何てことはない、ただまるっとメンテナンスに出しているだけだ。太腿の付け根から下は仮の足……人で言うところの義足みたいな感じだろうか。ボディの制御プログラムが最適化できていないからふらついたりする程度で、移動するだけなら大きな支障はない。アーマーにも不具合が出ていたから全部を修理してもらっている。私服なのはそのためだ。
任務に出ることは出来ないけれど、とりあえずわたしのボディそのものはなんとか無事だった。これくらいの怪我なんていつも通りでよくあることなのに、エックスに見られたらいつも窘められてしまう。
「え、ええと。あ、違うの。これは、えーと、ただの怪我だから特に何か一大事ってわけではなくて。大丈夫だからね、エックスが心配するようなことは、」
「重心が僅かに傾いてる。内部もダメージを受けてるだろ?」
「ダメージってほどではないよ!?ちょっとバランスが変な……あっ」
頭の中でなんとか組み立てた言い訳を遮られ、言われた指摘に弁明するつもりが口を滑らせてしまった。感覚の方は受けた衝撃で少しバグっているだけなのだから、しばらくすれば落ち着くはずとのことだったし。もう大丈夫なんだよと言うと、青いメットの下で眉間にしわが寄っていくのが少しだけ見えた。
「どうして君はそんなに……」
「し、仕方ないよー。これくらいよくあることだよ!」
「……」
緑色の双眸が半分に眇められて、薄い口元が不機嫌そうに結ばれるのが見えた。な、なんか答え方を間違えてしまったかもしれない。これは弁明というか、説明をしなければ。
「あ、あのね、ちょっと見て欲しいの」
すぐそばのベンチに腰掛けて座るように促す。むすっとした顔ではあったけれど、エックスは何も言わずにわたしの隣に腰を下ろしてくれた。
ボトルを傍らに置いたあと、わたしはポケットから携帯端末を取り出していくつか操作していく。画面がエックスにも見えやすいようにホログラムのウィンドウを空中に投影させて、全画面モードに切り替える。
簡易のマップデータを呼び出して、複雑な地形の上に立ち位置を書き込む。
「これは、今日の任務のものかい?」
「そうだよー。ここね、この位置に暴走したメカニロイドが居て。ここから三時の方向へ機銃撃たれて、四時の方向に向かっていったらどうしようもないよね?」
「んー……そう、だな。この移動速度だと難しい、かもしれない」
彼の表情から不機嫌さが少し引っ込んで、任務中のように鋭利な眼差しで思考を回し始めている。今日の任務の状況は複雑なもので、仕方のないことだったんだとちょっとは解ってもらえそう。この怪我は、わたしにとっての最適解だったんだ。
「一人なら回避に専念できるけど、要救助者が居たんだし。だったらもうわたしが体張るしかないと思ったの」
「う、うーん……」
「もしこのポジションにエックスが居て、要救助者が例えばゼロやわたしやアクセルだったらどうしてた?」
「そ、それはもちろんガードするよ。他の誰かが傷付くよりは自分が負傷したほうがまだ良いから……」
「でしょう?だからわたしも同じことをしたんだよ。結果がこうなっちゃったわけだけど」
へらっと苦笑いを作っておく。もしかしたらエックスにとっては少し痛いところを突付いてしまったかもしれない。
もし今回のわたしと同じ立場に居たとして、彼のスペックなら怪我なんてすることもなく上手く状況を打破できるはずだ。これがゼロやアクセルであってもそうだと思う。
彼らとわたしとでは、元々持ち合わせている能力の差があるのだから当然の結果……なのだけど、そんなことまでは言わなくても良いかなと考える。
エックスの不機嫌そうな様子はすっかり鳴りを潜めていて、何とも言い難い気不味さを作っている。
「責めてしまってすまない。大変だったみたいだね、お疲れさま」
「良いんだよ!気にしないで」
ほっと胸を撫で下ろす。やっぱりエックスであっても難しいと思える状況だったみたい。
正直、お説教モードにならずに済んでよかったとちょっと思ってしまった。自分の身を省みないような戦いの仕方をすると、たまにこうして叱られてしまうから。(特にゼロが)
少しの間、わたし達の間に無言が流れていく。ちらりと横目で盗み見ると、またエックスはほんの少し険しい顔をしている。まださっきの任務の状況について考え込んでいるように見えた。
ようやくひと息ついた気分になって、さっき買ったボトルを手に取った。中身は普通のミックスジュースだ。
キャップを回して開けて……一人だけで飲むのもあれだし、ボトルをずずいとエックスの方へ差し出す。
「はい、お先にどうぞ!」
「え?……あ、ああ。うん……、ありがとう」
受け取った彼はなにやら一瞬動きが固まった。なんだろうとわたしが何かを言う前に、すぐにこくこくと飲んでからボトルを返してきた。わたしも一気に中身をあおる。
美味しい。ジュースの甘さが疲れた気分を払拭してくれる。すぐにボトルの半分程を飲み干す。
「ぷはぁ」
「…………間接……」
真横でぽつんと呟かれた声を拾う。
「ん?関節?」
「な、何でもない」
聞き返しても答えてくれなかった。
関節?と言うと、腕や指は怪我をしていないのだけど、わたしの動きがおかしく見えたのだろうか。任務後の検査では特に不具合はなかったから、損傷を見落としたということはない……と思う。でも一応、少し気を付けておこう。
自分の手や腕をちらちらと見ていると、言いづらそうな顔をしてエックスがわたしを呼んだ。
「ナオト」
「なあに?」
「……おれは、」
言葉が途切れる。彼の口元が、何度か開いたり閉じたりを繰り返した。
今日の、というか顔を合わせてからのエックスは、なんだかとても歯切れが悪い。何か伝えたいことがあるようだけど、上手く言えないようなもどかしい様子でずっと考え込んでいる。
エックスの視線は逸らされている。というより、わたしと目を合わせきれない気恥ずかしさみたいなものが見えている……気がする。
「その、ほ、本当に心配なんだよ。不安になるから、あまり怪我をしないで欲しい。おれは、き、君のこと……た、大切に思っている……から」
きっぱり言い切れない、単語を慎重に選んでいるような変な感じ。それでも声音は柔らかくて、本心からのものだと伝わってきた。
心配されている、気にされているというのはこそばゆく、有り難いことだと思う。暖かい気持ちになって、自然と笑顔が浮かんでくる。
「えへへ、ありがとう」
今回みたいに何かを守りながら戦うのはとても大変だけど、こういう経験は貴重だと思うし、今後の立ち回りの参考になるかもしれない。体が直ったら、今日の戦闘についてもう少しシミュレーションしてみよう。スペックの差で悩むより、何か良い手段が見つかるかもしれない。
「エックスの言いたいことは解ってるよ。もっと強くなって怪我をしないようになって、心配かけないように頑張るね!」
「……」
無言。え?あれ?どして?
緑色のアイカメラがやっとわたしの方を向く。それから、何故か両手で顔を覆い隠してしまった。地を這うような低い声が手の隙間から漏れてくる。
「……君は…………解ってない……」
「な、なにを?」
「な、何でもない……」
よく解らない。何なんだろう。おかしなことを言っていたつもりはないのだけども。
「……」
「……えーっと?エックス?」
また無言になってしまった。ど、どうしよう?この空気を払拭しないと。何かお茶を濁さなければと思いつつ、残りのジュースを差し出してみる。
「あっ、……飲む?」
「飲む」
半ば奪われるようにボトルを取られる。今度は何の躊躇いもなくあっという間に中身を飲み干されてしまった。こういうのをやけ酒って言うのかな。アルコールじゃないけど。
そんな事を思っている間に、空のボトルを握り締めたエックスにキッと睨まれた。どうして顔が赤いんだろう?
「ナオト、おれも頑張るから!と、とにかくこれ以上不安にさせないでくれ!」
「え? は、ハイ。了解です……ごめんなさい」
圧に負けて頷く。拗ねたような雰囲気ばかりが強くなって、初めに睨み付けられた時よりも怖くはなかった。わたしは首を傾げる。
やっぱり今日のエックスはとても歯切れが悪くて不機嫌のようだ。わたしの怪我のせいで変な方向に悩ませてしまっているのかもしれない。それは本当に申し訳ないと思っている。
もっともっと強くなろう。今すぐには無理でも、ちょっとずつでも変わっていければいいと思う。心配されてばかりいるようでは駄目だし、ナオトなら大丈夫だと言ってもらえるようにならなきゃ。
また特訓しないとなぁ、と無理矢理気持ちを切り替えて、頭の中で明日以降のスケジュールを確認するのだった。
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