彼女の為のエピグラフ
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「新入隊員……?あの女が、ですか」
「……………ゼロ、私から17部隊全隊員に向けての通達はすでに出してあったはずだ。そこに新人の詳細を明記したが……読まなかったのか?」
「…………」
読まなかった。そう言えば何か知らせの文書が回ってきていた気がする。どうせ取るに足らないつまらないお小言が書いてあるだけだろうと高を括っていたが、どうやら違っていたらしい。
ゼロは渋面を作って相手から目を逸らした。見上げる程の巨漢である男性型レプリロイド……もとい第17精鋭部隊隊長のシグマは、ゼロの反応が予想通りだったらしく、眉間に皺を寄せながら低いため息をこぼした。
「今後はこのようなことが無いようにしろ。良いな」
「…………了解」
半ば投げやりに応答したゼロに少し呆れた様子ではあったものの、とりあえずは納得したらしく、ひとつ頷いた後にシグマは他の隊員へと指示を出しに歩き去っていった。
先ほどまで騒然とした空気が流れていたこのエアバス落下現場だったが、イレギュラーやエアバスの残骸の撤去、乗客乗員の安全確認が全て完了し、忙しなく作業にあたっていたハンターたちもようやく落ち着きを取り戻してきたところであった。もうすでに帰投準備を始めている者も少なくない。
騒がしく行き交うレプリロイド達を眺めなから考える。
大した負傷者もなく比較的速やかにイレギュラーを処分できたのは、あの少女の加勢があってこそだろう。確かに事務用にしては高機動だったし、携帯していた武器もなかなかの物だった。
「……まさか、本日付で配属される新入隊員だったとはな」
ハンターベースに戦闘用の女性型は多くはない。ハンターランクはともかく、過酷な任務もこなさなければならないこの仕事だ。途中で脱落することにならないとも限らない。さて、いつまでこの環境に耐えられるか。……などと構えているのは他の隊員も同じことだろう。
「………あの、ゼロさん」
ぼやいて考えた矢先に、高い声が届いた。
振り向いたそこには、件の少女型レプリロイドが立っていた。
つい先ほど救護班から手当てを受けるようにとシグマに言われていたはずだが、どうやらそれも終えらしい。(あれだけ立ち回れたのならば怪我など無かっただろうが)
背筋を伸ばして、じっとゼロを覗き込んでくる。
「先ほどは、ありがとうございました。改めまして、本日付で17部隊に配属となりました、ナオトと申します」
「ああ、聞いている。………今日が配属日だということは、ベースに向かう途中だったんだろう?早々に厄日だったな」
「………はい、その、」
一瞬、彼女は何かに迷うように口をつぐんだのが解った。何かを言うべきか否か、悩んでいるような。
なんだ?
浮かんだ疑問そのままに少女の顔を観察する。逸らされた双眸と硬い表情、真一文字に結ばれた唇。そこから読み取れるものは無い。しかし、そういう機敏には疎い方であるはずのゼロですら勘づく程度に、青ざめた顔色をしている……ような気がした。
「どうした?顔色が悪い。エラーか?」
「え……、あ、問題ありません…」
少女は少し焦るような声を出す。
「不具合なら後でメンテナンスルームに行っておけよ。いざと言うときに動けないのなら話にならないからな」
「……はい、了解しました」
とうとうナオトは何も言わず、静かに頷いた。
何も言わないならさして重要なことでもなかったのだろう。浮かんだ疑問を思考の隅に追いやってから、会話を切り上げようと口を開く。
「お前はこれからどうするんだ?」
「……はい。他の隊員の方々に、そのままベースへ連れて行っていただくことになっています」
「そうか。なら別々だな」
「……ええ、ではまた。ベースで」
「ああ」
軽い会釈を受けてから、ゼロは少女を残して歩きだした。チェバルを停めてあるハイウェイまで戻る道を少し面倒に思いつつも、思考を回す。
あの少女をとやかく気にかける自分に少し驚いていた。
どちらかといえば他人に無関心なたちであるゼロにしては珍しい。自分の周りにはあまり居ないタイプだからだろうか。…………それとも、何かを言いかけたときのあの表情が、妙に気にかかったからだとでも?
「……」
自身の内側での情動に首をかしげながら、ゼロは小さく溜め息をついた。