オッズアンドエンズ
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明るい休憩室の中で、二人の声が響いている。
おれはその部屋に足を踏み入れかけたまま立ち止まった。視界に飛び込んできた風景に、君は何をやっているんだと呆れた気分で言いたくなって、しかし黙ったまま眉間に皺を寄せる。
「エックス、ちょうどいいところに!」
「エックス、ちょうどいいところに!」
聴覚に馴染んだ声がふたつ重なって届く。ニコニコと朗らかに笑うナオトがおれの視界のうちに『並んで』立っていた。それも二人。
姿形はもちろん、表情の作りや声音まで瓜二つ。まるでコピーのよう。……すぐに思い至った。片方の中身はアクセルだろう。
「何をしてるんだ…アクセル」
わざわざ貴重なコピー能力で遊ぶこともないだろうに。
おれがたしなめるように低い声を出すと、二人のナオトは焦ったように捲し立てた。慌て方も顔付きもそっくりで、ああこれはそれなりに練習したんだなと想像する。
「ご、ごめんね」
「怒らないでよーエックス」
「ちょっと変身して遊んでるだけじゃない」
「そうそう、別に困らせようとかしてないし」
「本当本当」
思わず溜め息をついた
わざわざタイミングまできっちり合わせて会話をしているあたり、確信犯以外の何者でもないと思うのだが。
こめかみが痛むような気すらして彼女達の顔を交互に見比べると、右側のナオトがにっこりと朗らかに笑った。うん、可愛い、な。
「さて問題です!」
「どちらがナオトで、」
「どちらが変身したアクセルでしょうかっ!」
「エックスはわかるかなー?」
「……………………、」
そもそもおれが気づかないと、二人は本気で思っているんだろうか。無言で右側で笑うナオトの腕を掴む。
「…こっち」
機嫌の悪さを隠す気もなくなって、むすっとしたまま右のナオトを見つめると、笑顔の中に微かな焦りが見えた気がした。
反対側のナオトの驚嘆した顔…どう見たってその驚き方、表情のつくりはアクセルのものだ。……ほら、やっぱり。
おれはわざとらしい溜め息を一つついて、ナオトの腕を掴んで引っ張った。
「わっ!?エックス?!」
やや引き摺るように部屋を後にすると、後ろから演技らしさの抜けた声が飛んでくる。「ああーっ待ってよぉーっ!」……しかし追いかけてくる様子はない。
誰も居ない通路を足早に進む。腕を捕まれて困り顔だったナオトはおれを見て苦笑いをした。
「ごめんね、ちょっとイタズラしちゃった」
「だと思ったよ、まったく」
悪びれる様子もなくへらりと笑いかけられて、毒気を抜かれた気分になった。自分の中の不機嫌さが少しだけ鎮まった気がする。一応はその不機嫌の原因も理解してはいるつもりだが。
「君がああいうことに付き合うなんて、少し意外だったな」
「そうかな?…実はね、潜入任務のための演技の練習ー!って言われたの。いろいろ工夫してるみたい。手伝いたくなっちゃって」
「…………………へえ」
「でもでも、エックスを騙せないんじゃアクセルもまだまだかもね?」
…………いや、たぶん今回ばかりは騙す対象と方法を完全に誤っただけだと思う。
口には出さずに考えて、代わりに宣言だけはしておこう。
「君とアクセルに何度同じ悪戯をされても看破できる自信はあるよ。おれはね」
「そうなの?……やっぱりエックスは凄いなぁ」
小首を傾げながらにっこり笑い返された。表裏の無い、本心からの表情であることがよくわかる。
けれど、その一方で本当のところは解っていないんだろうなと気がついてしまった。とたんに逐一説明をするのが面倒になる。
今のように素直に受け取って何も気づかないというのなら、君らしいと言えばそうだ。でも、平時での相手の意図を上手く汲み取る様子をずっと見ていると、とても不思議に思う。どうしてここまで何も気づかないのだろう、この気持ちに。
「エックス?」
…………理不尽だ。
自棄になった心持ちで、今度は強引に彼女の腕を引いた。
小さい悲鳴と否応なしに足を縺れさせた彼女をぎゅうっと抱き締めると、びくりと身を振るわせた。優しい暖かさとぬるい吐息が頬を掠めていく。
「ぅえ?!っ…?!」
言葉にならないナオトの声が聞こえてきて、思わずクスクス笑ってしまった。おれのこの行動の理由を疑問に思えばいい。疑問に思って、何かしら考えてみてくれればいい。
「どし…たの…急に、」
「さあ、どうしたんだと思う?」
「う、……わ、解らない…よ…」
ぴったりとくっついたナオトの体温が急激に上昇していくのがよく解った。暖かいを通り過ぎて熱くなっている。無自覚でも、何か思ってくれているのだろうと嬉しく思う。大人げないが、こんな悪戯の仕返しもたまにはいいか…なんて思う。
とりあえず彼女自身が一連の理由を考えだすまで、しばらくはこのままでいてやろうと、内心で笑った。
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