彼女の為のエピグラフ
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現場までほどなく、という地点までたどり着いたとき、銃声と機械の駆動音が重々しく響いてくることに気がついた。明らかに戦闘行為が行われている。
別のハンターが先に到着しているのだろう。その誰かがイレギュラーを処理していたとすれば自分の出る幕は無かったと考えたが、直後に少し様子が違うことに気づいた。ハンターの個体識別信号が見当たらない。この距離ならとっくに気がついていてもおかしくはないというのに。
ハイウェイの路肩にチェバルを停める。警戒心を保ったまま片腕をバスターに変形させ、ハイウェイの欄干下を慎重に見下ろす。
そこにあったものは、いくばくか想定外の光景だった。
煤けたビルが立ち並ぶその間、大して広くもない道の上に半壊したバス型の浮遊車両が横たわる。もし車両の往来があったなら、もっと大変なことになっていたに違いない。
それから、この手の犯罪行為によく使われるありふれた中型戦闘用メカニロイドと、同型と思われる残骸が一体。現場から離れた場所に退避する一般乗客だったと思われる者たち。そして、手前にはメカニロイドに立ち向かう小柄な人影。
それは少女型レプリロイドだった。髪を靡かせ、セイバータイプの武器を片手に敵と対峙する。
ゼロはすぐさま通信回線を開いた。
「ハンターベース、こちらゼロ。エアバスの落下現場に到着した。一般人はほぼ退避済みと思われる。戦闘用メカニロイド一体が交戦中。これより処置を開始する」
『こちらハンターベース、了解しました。貴方が最初でしたか……今そちらに応援を向かわせています。一般人の安全確保を最優先に、決して無茶な真似はしないでください』
決して、とことさら強調してくるオペレーターにはあえてなにも返すことなく回線を閉じる。
そして何の躊躇いもなく欄干から下、少女の近くへと飛び降りた。
一瞬の浮遊感。重い音を響かせて着地すると、その場にある全ての視線がゼロに向けられる。もちろん、少女の目線もだ。
「イレギュラーハンターだ。ここからはこちらが引き受ける。一般人は下がっていろ」
「…イレギュラーハンター、」
ゼロが少女に向かって事務的にそう述べると、どこかぼんやりとした声が返ってきた。
セイバーという武器を携えていても、その姿は一見して戦闘型とは思えない。
そもそも、戦闘用の“少女型”レプリロイドを作るメリットはそれほどない。少女というのはそもそも小柄で華奢な骨格なのだから、男性型やそれ以外の動物型と比較すれば戦闘には不向きだ。このような体格なら看護用か情報処理に秀でた事務用の方が効率的だろう。
となれば、やはりそのセイバーは護身用か。
(自らの体格のことを棚に上げつつ)ゼロがそう考えていると、少女はちらりと視線を寄越してくる。
「…大丈夫です、戦えます」
驚き呆れかけたゼロが何か言葉を返すより早く、メカニロイドが動いた。
無骨なボディに取り付けられた銃口が二人を捉え、一瞬の沈黙の後にエネルギー弾が降り注ぐ。光る弾丸の一斉掃射に、離れた場所で様子を伺う乗客達の中から悲鳴が上がるのが聞こえた。
ほぼ同じタイミングで二人がその場から飛び退くと、抉られた地面が視界に入る。面倒だと考えた直後、少女がどこか硬い表情でゼロを呼んだ。
「わたしが行きます」
「っ、お前、何を…!」
負傷者を増やすのは(報告書を書くときに)実に面倒だ。足手まといはとっとと引っ込めと、そう言おうとする直前、思いの外素早い所作で少女は走りだしていた。
「ちっ」
…なぜだか台詞を遮られてばかりだ。
飛んでくる弾丸を避け、時にはセイバーで薙ぎ払いながら、少女がセイバーから衝撃波を飛ばした。鋭い刃が光の残滓を宙に煌めかせる。敵を見据えるその一対のアイカメラが、どこか夢でも見ているかのように上の空だったのをゼロは見た。
衝撃波は真っ直ぐ、そのメカニロイドのアイカメラに直撃する。
耳障りな破砕音。
メインカメラを破壊されたそれは、切口をショートさせながら機体をふらつかせた。ざっくりと斬り込みが入った「目」は、もう使い物にはならないだろう。
相手の動きを把握する、という点で最も重要なアイカメラは防御面では一番強く作られているはずだ。しかし一撃で破壊できたとなれば、少女の武器は護身用にしては威力が高過ぎる気もする。
バスターへエネルギーを集めながら、ゼロは低い姿勢で駆け出した。センサーで追尾してくるものの、その動きには先ほどまでの機敏さが失せている。
「っ!」
メカニロイドから向けられた大雑把な弾幕の射線を後方転回で回避する。
なぜだか風景がスローで回転しているような錯覚の中、バスターを持ち上げた。狙いの先には敵、そのジェネレータ……が、収まっているであろう胸部だ。
照準は一瞬であり、躊躇いも加減も不要。
「―――」
ゼロの片腕から放たれたエネルギーの塊は、一呼吸の隙も無く胸部の外殻を破壊した。チャージされたショットが被弾したメカニロイドは動きを止める。
すかさず踊り出た少女がセイバーを逆手に持ち代えると、その胸部に深々と刃を突き刺した。装甲の被弾箇所に容赦無く滑り込むセイバーと、配線が焼ききれたような妙な匂い。ばしん、と放電する音が何度か。
やがてメカニロイドは派手な音をたてながら、糸が切れたように崩れ落ちた。
「…………良かった……」
土煙が薄く漂うその隙間から、安堵の息を漏らす少女の声が届く。その安堵はこれ以上被害が広がらずにすんだ故か、はたまた自らが負傷せずにすんだからか。どちらなのかは解らないが。
ゼロが一息つくと、すぐに謀ったようなタイミングで自身のセンサーに引っかかる反応が複数。よく覚えがある反応だ。
これはイレギュラーハンターのもの…おそらくは先ほどオペレーターが言っていた「応援」だろう。被害者の乗客の中に人間が居るせいか、ご丁寧に隊長直々に馳せ参じたようだ。
「…………今頃来やがったか。暢気な応援だな」
(エアバスが落下したということ以外は)大した被害もなく上手くイレギュラーを処分できたし、彼らの出る幕は事後処理作業以外には無いだろう。
ゼロは鼻で笑って、やれやれと肩を竦めたのだった。
3へ。