オッズアンドエンズ
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現在時刻:07:30
……。
…………。
起きた。
システムがスリープモードからスタンダードに移行して、おれは本格的に目を覚ます。メインシステムとボディのチェックを進めながら、エラー箇所が無いかを確認した。状態は良好。システムのエラーもないし、ボディの不具合もない。
そのあとに、アイカメラで辺りをぐるりと走査した。朝の陽射しが差し込む明るい部屋、ハンターベース内の寮の一室。静かに流れる空調の音、それから誰かの吐息。正面に視線を向ける。
「…っ!??」
思った以上に近いところにナオトの顔があった。飛び上がりそうになって、動力炉がどくどくと煩く動き出す。
そうだ、昨夜はナオトの部屋で会話に夢中になって、そのままベッドを借りて寝てしまったのだ。(……別に変な意味合いは無い)レプリロイドがベッドで寝る必要はないが、ヒューマンフォームのレプリロイドにはよくあること……などと、気をまぎらわせるべく現実逃避的に関係の無い思考を走らせる。
少し離れようと右手を動かしかけて、かっちりと掴まれていることに気がついた。いつものアーマーが無い、自分でも頼りないと思ってしまう程度のおれの腕……その掌にナオトの細い指先が絡み合っている。
い、いつの間にこういうことになっていたんだろう。また少し緊張してしまってから、ナオトの閉じられた目元を見つめた。前髪の間のまぶたが少し動く。
(あたたかい)
柔らかくて暖かい温度が触覚を通して伝わってくる。手のひらの暖かさはそのまま彼女の人となりを表しているようで、思わず頬が緩む。
空いている左手でナオトの髪に触れた。滑らかな感触。何度かすいてみる。…………………………止めよう、なんかおれが変態みたいじゃないか。慌てて手を引っ込めて、ただ見ているだけにする。
「……」
部屋の外から行き交うレプリロイドの気配がし始めた。このベースも本格的に起動し始める。あと一時間もすれば夜勤に就いていたハンター達と通常勤務のハンター達の引き継ぎが行われるから、もっと活気づいていくだろう。今日は幸運なことにおれもナオトも非番だから、こんなに暢気にしていられるのだが。
考えている間にナオトがもぞもぞ身動きを取って、そちらに意識が向く。
「ぅー…?えっくすー?」
「お早う、ナオト」
「……おは…」
ふにゃり、と形容するのが妥当だと思う。そんな雰囲気を纏って、ナオトの眼が半分だけ開いた。綺麗な瞳が眠そうに翳っている。
「もう起きるかい?」
「…………きょうは……おやすみ」
質問に答える素振りもなくぽつりと投げられた声。休みだからもっと寝ると言いたかったのだろうと予想がついて、思わず苦笑をしてしまう。寝ぼけまなこのナオトは可愛い。
「じゃあおれは一度部屋に戻って……って、ナオト?」
半分だった眼が完全に閉じてしまってから、ナオトは部屋の明るさから逃げるようにごそごそと顔を伏せてしまった。そして、繋がれたままの手を両手で抱き込むように引っ張る。おれの手が引っ張られる。余計に距離が縮まって、動力炉がまた煩くなる。
「……ちょっ、!」
「………」
無言。目と鼻の先で、猫のように丸まった薄い肩がゆっくりと上下している。ナオトの顔にかかったその髪をそっと掻き分けると、しっかりと閉じられたまぶたが見えた。そして飛び込んでくる、優しげで穏やかなその表情。
「……、」
動くに動けない状態と、存外近い距離、伝わる体温とうるさい動力炉。…なんだかどうでも良くなってきて、おれは小さく溜め息をついた。たぶん今の溜め息で幸せが逃げていたとしても、ひとつやふたつくらいなら平気そうだ。それくらいの幸福感。システムともプログラムとも違う、どこか解らない…所謂こころのような場所がみたされる感覚。(こんなことを他のレプリロイドに言ったら笑われてしまいそうだ)
少し迷ってから、左手をナオトの体に回した。そっと抱き締めれば感じる甘い香り、それから暖かさ。ナオトの表情が緩む。
「…せっかく起きたのにな」
諦めてごくごく小声で囁いた。彼女の言う通り、今日はどうせ休みなのだからもう少し眠っていよう。そう思って、暖かなしあわせに浸る。眼を閉じて、システムをスタンダードモードからスリープへ。
「おやすみ、ナオト」
……。
…………。
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