オッズアンドエンズ
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ブラインドの隙間から朝の陽射しが差し込んで、自然に眼が覚めた。
薄明るい部屋の中、すぐ真横でひっくり返ってるエックスが視界に入る。
彼がわたしの部屋に来たのは昨晩。本当は任務についての話をしていたんだけど、だんだんと話が脱線してとりとめの無いものに。会話に夢中になって、気がつけば夜中になってしまっていた。次の日は非番だし帰るのも面倒だし、そのまま寝ちゃえと備え付けのシングルベッドに突撃してみたのだ。……エックスが最後まで同じベッドを使うことを渋っていたんだけれど、今さらなにをそんなに遠慮する必要があるんだろうとちょっと不思議だった。
結局ふたりで使うのは窮屈かと思いもしたけど、わたしもエックスも小柄なタイプだから、特に狭さも感じず、ベッドに潜った途端にあっさりと寝て…つまり、スリープモードに入ってしまった。ぐっすりだ。
「……」
目の前で眉間にシワが寄せられるのを見る。
いつもはメットに押さえつけられて隠れている前髪が垂れていて、その下の閉じた瞼がぴくりと動く。普段は頑ななほど真一文字に結ばれている口元は不恰好に緩んで、もうすぐ涎が落ちそうだ。
いつもの生真面目で大人びた言動ばかりに慣れてしまっていたせいか、こんなに気の緩みまくった顔を見ているとやっぱり少年なんだなぁとしみじみ感じてしまう。あの青空みたいなアーマーを、メットからフットパーツまで全て解除してしまっているせいでもあると思うけども。(メンテナンス中らしい。代わりに着ているパーカーがなぜか良く似合っている)
「うあー……」
「…ぷっ」
寝言をぽつり。なんて人間くさいんだろう。彼はホントにレプリロイドなのかと、思わず笑ってしまって慌てて口を抑えた。それからこそこそとベッド脇の携帯端末を取って、カメラモードを起動する。
「……よし」
端末からの、ぴろりん、と気の抜けるシャッター音。それに反応したのか瞼が動いて、こてんと寝返りを打つ。白い顔が間近になる……可愛いなぁと微笑ましくなって、悪いとは思いつつも写真は保存しておいた。エックスのこんな表情は珍しい。その柔らかそうな髪に触れて、少しだけ撫でる。
それから音をたてないようにそっと端末を元に戻して、手を引っ込めかけたとたん、
「……ッッ!?」
手を掴まれた。
飛び上がりそうになって視線を向けると、前髪の下の新緑色のアイカメラがこっちを向いていた。瞳孔の奥に光るレンズと、人形みたいに薄い表情。……エックスさん、…お、起きていらっしゃったんですか…さっきのシャッター音のせいかな…。盗撮がバレてしまったと軽く冷や汗を流したけれど、しばらく黙り込んでいる間に再び瞼が降りていった。……何事もなかったかのように、エックスはまた寝息をたて始める。
「………………」
……今のは何なんだ。もしかして、単に寝惚けていただけなのだろうか。それにしてはタイミングが良すぎた。無意識なのだろうか?しばらく静かに様子を見ていても、特に起きているようには見えないし、寝ているフリをしている様子も無い。解せぬ。
…ふと片手に視線を遣った。
他のレプリロイドとエネルギー源が違うせいで、エックスの人工皮膚はほんのり冷たい。その冷たくて色素の薄い右手がわたしの手を緩く掴んでいる。
「冷っこい、なー…」
中身は、あんなに暖かいのにねぇ。
小さな子供みたいに掴んでくるそれをそうっとほどいて、両手で包み込むように握った。センサーが集中する指先がぴくりと動いて、弛緩する。思わずくすりと笑ってから、片手を離してエックスの頭を撫でた。
「……」
また手を握り直して、もう少しだけ眠ろうと目を閉じる。
繋いだ冷たい手のひらは、ほんのりと暖かくなっていた。
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