obsession
Name change
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隔壁を突破する。
最初に視界に飛び込んできたのは目に痛い配色と幾何学模様と大きなWの文字。瓦礫が散乱する空間。それから赤と青。
不気味なオーラを纏わせたゼロがセイバーを振り下ろそうとしていた。その識別信号は間違いなくゼロのもの。その殺気はいつもイレギュラーに向けているときのものと全く同じなのに、その力の矛先はエックスに向いている。ゼロの中の…何かが根本からズレているように感じた。不条理と悪意と違和感。
降り下ろしたセイバーの、その刃の先は地面に倒れこんだエックス。あのタイミングでは攻撃をかわすことはできないだろう。かわせないなら、その頭部は瞬時に胴と離別する。
青と緑の視線がこちらを向くよりも早くに駆け出した。
「何でこんなことしてるの!!」
ゼロの攻撃を受け流して、わたしのセイバーを宙に走らせて衝撃波を数発飛ばす。うちの一発が運良くゼロにぶち当たって、赤色の機体を容赦無く弾き飛ばした。
虚を突く、とはこういうことを言うのだろう。不意打ちでなければ、あのゼロがこうも簡単にやられてくれるはずはないもの。
「…、あ………ナオト…?」
膝を付くエックスが呆然とした表情でわたしを見上げてきた。アーマーにはあちこちに裂傷があって、表情もつらそう。重症とは言わずとも、かなりの怪我に見えた。
「ど…どうしてここに…ここは危険だよ…!早く戻るんだ…!」
「………それは、邪魔をするなってこと?部外者が踏み込むなってこと?」
「……え…?」
エックスが焦りと怪訝が混ざった表情を向けてくる。そのグリーンのアイカメラをまっすぐ見詰め返して、この場を離れるつもりはないことを暗に伝えた。
そうしている間に、前触れ無く飛来するバスターのチャージ弾。狙いはわたし。
「ッ!ゼロ!」
エックスが叫ぶ。わたしは前に飛び出してセイバーを斜めに切り上げる。ショットが真正面から二つに切り裂かれて、粒子になって霧散していった。
「ああ、そうだ。良く解ってるじゃないか」
ゆらり、と赤が立ち上がるのが見えた。浮わついた低い声が若干の苛立たしさをもって発せられる。
「……ナオト、邪魔をするというなら容赦はしない。お前も殺す」
殺す、か。
思わず鼻で笑い飛ばした。ああ、どうしようもなく苛々している。自分で言うのもなんだけど、最高に機嫌が悪い。
ゼロがセイバーを抜き放って、緑の軌跡を引きながらこちらに向かってきた。
わたしが腰のホルダーからもう一本のセイバーを取り上げて正面を見据えると、濁った青いアイカメラが睨んできた。今の狙いはわたしらしい。
「はァッ!!」
ゼロが武器を上段で構え、そのまま一直線に降り下ろしてくる。どうにかギリギリ、そのブレードがわたしの頭をかち割る前に両手のセイバーを交差させて受け止めた。
物凄く重い一撃だ。
どうあがいても負けるのは解っているから、ゼロと力比べをしたくはない。正面からぶつかるのは得策じゃないし、どうにかして揺さぶりをかけるべく口を開いた。とにかくふたりの戦いを止めることが先だ。
「っ、こんなことをする意味なんてっ…あるの!?」
間近に迫ったアイカメラを精一杯に睨み付けた。冷めていて褪めているはずの青が爛々と光って、歪められた彼の意識の端を垣間見た気がした。
ねえ、わたしの声が届いてる?
「いつかと同じような問答だな。『理由が必要か?』」
「っ……!」
言葉を飲み込む。
………………。
ああ、そうだね。これは本当に、いつかの再来みたいだ。
でもあの時とは違う。わたし自身も、この状況も、……それにゼロも。
あの時よりももっと、いろんな悪意がある気がする。シグマだけじゃなくて、もっと預かりしらぬ何かが動いているように思えた。それからすればわたしは無関係の部外者で、エックスとゼロを止めたがっているのだから邪魔者以外の何者でもないんだと思う。でもあえて抗ってみるよ。
「俺達は初めから戦う予定だった。それだけだ」
「誤魔化さないでよ。宿命だの運命だのそれっぽい言葉でも並べ立てるつもり?」
「……」
すう、と青い眼が剣呑な色を纏う。ごく小さな声で、わたしは囁いた。
「……それとも、製作者の意図だとでも?」
ゼロの動きが一瞬止まった。
そのまま彼のセイバーを力任せに横へ振り払った。されるがままのゼロは得物に込める力を上手く受け流して、わたしから距離を取って身構える。
「ナオト、お前、」
「きみたちは何のために生きているの?製作者から言われたことをただ聞いて動くだけの機械なの…!」
無言の中、ふたりが息を呑んだのが解った。
ただわたしは思ったことを言うだけだ。それだけでこんな無益な戦いを止められるとは思っていない。
それでも「そういう因縁だったから」だなんて、そんなもの。
人間みたいな人格だってあるし思考だってできるのに、そんなのただの思考停止だ。
「死んでるかもしれない、この場に出てくる気配すらしない製作者の意志なんて聞いて意味があるの!今生きてるきみたちで考えなさいよ!!」
エックスとゼロ。二人を手のひらに乗せて、玩んで悦しんでいるのはいったい誰?
「きみたちが戦って、潰し合いしていちばん特をするのは誰なの!今!考えて!」
入ってはいけない領域へ土足で乗り込んで、言いたいだけ言って場を引っ掻き回す。こんなことでしかふたりを止める方法が思い付けなかった。ふたりみたいに高い能力を持ってるわけじゃない……それでもやめさせなきゃならないと思う。殺し合いなんてしてほしくないから。
ゼロに向けて駆け出した。
フットパーツのブースターを出力全開。反重力ユニットを起動して、加重方向を前方へ設定。数瞬の間に滑り込んで、ゼロの胸部に向かって思いきり片足の蹴りを叩き込んだ。ゼロは何か反応する前に金色を散らしながら吹き飛んで、向かいの壁に突っ込んだ。崩れる音。
ごめん、ごめんね。
「……」
唇を噛んでから、振り返る。視界のなかに青色を捉えた。エックスは機体の自己修復がある程度済んだようで、よろめきながらも立ち上がる。
「エックス、大丈夫?」
「ああ、ありがとう…もう大丈夫だ」
迷うような表情。緑色のアイカメラがゆっくり瞬きをした。
「おれは……何も見えていなかったみたいだ」
ゆるゆると頭を振って、エックスはそう言った。しっかりした眼で見つめてくる。良いんだ、そんなことは。謝ることじゃない。
わたしが何か返そうと口を開いたとき、向かい側でゼロが動いた。アーマーの裂傷と、口元に滲む循環液の赤。メットの下から覗く整った顔立ち。青のアイカメラにはいまだに狂気じみた破壊の色が消えていない。睨み付けられて、ぞわ、と背筋を這う嫌な感覚。
エックスがバスターを構えるのが視界に入った。
(今の、あのゼロを倒して…本当のゼロを取り戻そう。……おれたちで)
通信回線から届く声と一緒に、わたしに視線を寄越してきた。色々な感情が雑多に入り交じっていて、それでも意固地みたいな決意が見える。言外に手伝ってほしい、と告げていた。
強く頷いて見せてから、冗談めかして答えを返す。
(コテンパンに伸して、メンテナンスルーム送りにしてあげよう。……わたしたちの、為に)
この最悪な状況に早く蹴りをつけて……わたしたちが、また三人揃って日常を迎える為に。
――――結局、そんな理由でしかわたしは動けないのだ。内心で自嘲してから、セイバーを握り締める。
不条理と悪意と違和感にまみれた戦いは、まだ終わりそうになかった。
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