ヘヴンリーブルー
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
彼が全てを投げ出してしまったとき、全部が悪い方向へと進みだした。
彼には思い願う純粋な心があるし、不思議とそれを叶えてしまえる力がある。だからこそ、その心の全てが負の方へ向かいだしたとき、誰にも止めることができなかったのだと思う。……今は。
わたしはどうしようもなく後悔している。長い間いっしょに過ごしてきたのに、彼がずっと溜め込んできた気持ちになぜ気づかなかったんだろう。気づいてあげられれば、こうなることもなかったかもしれないのに。彼を助けてあげることができたかもしれないのに。…………わたしなら、なんて今さら驕ったことが言える立場じゃないことは、承知しているけれど。
彼の識別信号が最後に発せられた場所は、今はもう廃墟の群れと化した街の、ハンターベース跡地内だった。途中まで簡易転送装置で来たから、見慣れていたはずの街並みが無惨な姿になっているありさまをじっくり眺める余裕は無かった。至るところにある戦闘の痕跡と無人の不気味さと静けさが、沈みかけた夕陽の赤色の間に際立っていた。
わたしは静かに、瓦礫ばかりが積み上がる幹線道に沿って進んでいく。最初は徒歩で、しばらくして走って、でも堪えられなくなって、とうとう宙に飛び上がった。反重力制御ユニットを起動して、低空で滑るように飛行する。
視界の内に入り込むのは割れたガラス、大穴が空いたコンクリート、転がる瓦礫。壊れた街。無人になった街は劣化が早い。わたし達が、ずっと暮らしてきた場所の末路。
胸の内が焼けるように傷んで、頭の芯がじわりと熱を持ったのが解った。溢れる。こぼれ落ちそうになる。なんで、なんで、わたしは、彼は。どうしようもない気持ちでいっぱいになる。
わたしは眉を下げた。斜陽は濃く、自分の影が追随するのを何とはなしに見下ろして、それでも妙に冷静な自分の思考に驚いていた。いや、冷静というよりは…混乱とか悲嘆とか、そういう感情を一通りつまみ食いしたあとに回り回って冷静さが戻ってきた感じ。決して正常とは言い難い。
逃げられるなら逃げたい。逃避できるのならしたい。過去に戻れるならやり直したい。ぐちゃぐちゃになってしまう前に戻りたい。
もう嫌だよ。……そんなことばかりを考えてる。
冷静さと絶望とをもて余しながら、わたしはひたすら進んでいく。
全部の始まりは半月ほど前のこと。……彼が『こう』なってしまったとき、わたしはちょうどここには居なかった。まるで謀られたみたい。その時のわたしは彼とは別の任務に就いて、ごく普通に職務に専念していた。いつものようにイレギュラーを処理して回るだけ。
けれどいつもとは違う結果になった。わたしが、らしくもなく酷い怪我を負ってしまったのだ。自分で言うのもなんだけど、生きているのが不思議なくらいに今までで一番危険な状態だったと思う。しばらく昏睡していたらしいわたしがようやく回復したのが数日前。目覚めたのはいつものハンターベースではなく、馴染みの無い遠方のハンター支部で、だ。
怪我をして意識を失っている間に全部が始まって、全部が終わってしまっていた。置いてけぼりどころの騒ぎじゃなかった。
彼に何があったのか、それすらも詳細は曖昧で、避難してきた総監やエイリア達から話を聞かされたときはただただ耳を疑っただけ。最大戦力と称されるイレギュラーハンターが突然暴走を始めたなんて、彼を止めようと戦ったゼロが動けないほどの怪我を負わされたことだって、何か質の悪い冗談のように思えた。(冗談ならまだどれだけ救われたことか)
彼に対する世界の見方は、このたった数週間の間に(もしくはわたしが意識を失っている間に)百八十度変化した。力なき者達を守る英雄だと賞賛され敬われた彼は、あのシグマすら上回る青いイレギュラーと揶揄されるまでに変わってしまっていた。
完全な耐ウイルス性能を持つ彼。ウイルスが原因のイレギュラー化ではないとしたら。
何が原因なのかは解らないけれど、彼の精神の均衡がいつの間にか崩れてしまったのだと思う。
常に危ういバランスを保っていたその心が破綻したとき、彼から一切の戸惑いが消えたのだろう。躊躇、情け、平和を願う心すら。
何のせいで戦いが消えないのか、何が良くて何が悪いのか、何を守り何を排斥するのか。解りきって信じていたはずのそんなことが彼の中では逆転してしまったようだった。
その末、あらゆるものを敵であると認識し始めた。敵それは平静を乱す、諸悪の元。人間またはレプリロイド、有機物無機物を問わず、心の赴くままに壊し始めたのだろう。彼が持つ絶対的な力を以て、文字通りに全部を。
ゼロが止めに入らなければ、いよいよ被害が広まっただろう。ゼロのおかげで、人間や他のレプリロイド達が避難する時間を稼げた。わたしがまた動けるようになるまでの猶予をくれた。そして、代わりにわたしが結末を作る。
2へ。
1/4ページ