obsession
Name change
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ネオンサインのように派手で強烈な色彩が視界を埋めている。
サイバー空間と現実世界がごちゃ混ぜになったみたいな奇妙な場所。……本来ならスペースコロニーが落下した場所であるはずなのに、その面影はまるで無い。今はただ侵入者を撃退するためのトラップやらイレギュラーやら、ウイルスやらが溢れる空間になってしまった。
そして、その奥から感じられる悪意とあの人の…シグマの気配。とても、とても嫌な感じだ。
(急がないと、)
空間を駆けていく。
目の前に迫ってきた小型のメカニロイドに片手のセイバーを向ける。動作はぎこちなく、流れてくる信号は支離滅裂。ひとめ見てウイルスにおかされていることが解った。光る刃先を滑らせて、金属製の外殻を断ち切る。ここに来てから何度となく繰り返される動作。通信はここまで届かないし、わたし以外意識を保って動いているものが居ない……色んな者達が狂ってしまった場所。
時間の感覚が麻痺する。
(エックス…ゼロも…無事でいて…!)
エックスが先にこの場所に突入してからずいぶんと経った。
先行するから後から来るようにってエックスに言われていたんだけれど、それはたぶんあのゼロと戦わなければならないと考えていたからなのだと思う。あの、不気味な空気と粘りつくような殺気を纏わせていたゼロと、一人で戦うために。
……あの別人みたいなゼロをちゃんと連れ帰ることができるのか、イレギュラー化で処分しなければいけないのか。あまり考えたくはない。
でも、今この場でふたりが戦うことに何の意味があるんだろう?
ハンターの隊員数は激減してしまった。でもイレギュラーはまだまだ残っている。それなのに、エックスとゼロがふたりで争うだなんて。そんなことをするより、今のこの最悪の状況をどうにか収束させることの方が先なんじゃないのか。ふたりともが、それぞれ個々の意志に反したまま宿命だの何だのそういう見えないものに踊らされているように見えた。
もしくは、製作者達の手のひらの上で弄ばれているみたい。……あの優しそうなライト博士がそんなことを考えるような人だとは思いたくないけど。
(ふたりが戦っているなら、ふたりとも目を醒まさせないと)
今はシグマを撃退することを最優先にしなければいけない。ウイルスの被害を収めないといけない。そのためにわたしたちが居る。
そう考えながら、そんな理由は建前なのだと理解していた。
……エックスとゼロ、どちらかが死ぬなんて……そんなのは嫌だ。本当は子供みたいにそう思っているだけ。
だから、わたしは絶対にふたりを止めたい。これはわたしの我儘なんだ。
エックスとゼロの個体識別信号を探っていく。何度か繰り返して探っているうち、ごく弱い反応が現れた。色んな電波や信号、ノイズが混ざりあって妨害する中を掻き分けて、ようやくふたつの反応を掴む。
(……!)
ふたりは思ったよりも近い場所、ここからさほど離れていない。……どうして、いきなりセンサーにかかったんだろう。まるで、誰かが今まで隠していたものをわざと見せつけてきたみたいじゃないか。
「誰かが…妨害している?」
ハッとして見渡すと、今まで進路を邪魔するように現れていたイレギュラー達が忽然と姿を消していることに気がついた。回路図にも似た模様が走る細長い通路みたいな空間。両わきにはサイケデリックな色合いを光らせる壁が長く続いていて、向こう側には隔壁が見えた。そして視線と気配。
立ち止まる。
「どなたですか。居るのは解っています」
声を張り上げて問いかけた。誰も居ない中にわたしの声だけが響いていく。
この場所に入ってから、視線を感じていた。睨むような…でも観察するような視線。何度かベースに冷やかしに来ていただいたあの暇そうなダイナモさんかと思ったんだけど。何やら違うみたい。でも、こんな茶番を仕掛ける犯人は一人しか居ないことは解ってる。
「シグマ隊長、あなたですね?」
無音。誰も何も言わない。でも気配は消えない。
セイバーを強く握り締めて、警戒しながら一歩踏み出したとき、何の前触れもなく微かな音が聞こえてきた。耳鳴りにも似ているそれは徐々に音量を上げていく。
「……?」
よろめいて踏み止まる。周りを見回すと、さっきまで模様を這わせて光っていただけの壁が何か違うものを映していることに気付いた。……映像だ。まるで壁をスクリーン代わりに映像を投影しているかのように、誰かのシルエットを映し出す。ぼんやりと不確かなそれを視界に捉えた直後、
「―――っ!!!」
突然、今度は頭を殴られたみたいな衝撃が走った。
衝撃、それは正しくない。
ただ、いや……何だろ、これは、頭痛にも似てる衝撃、でも違う、何か、物凄い勢いで流れ込んでくる情報、これは映像…………………………
走馬灯のようだ。
脳裏を流れていく何かの映像。モノクロだったり色が付いていたりを繰り返す。時折ノイズが混ざる。意識が混ざる。これは、誰かの記憶映像だろうか?、??
その間に、赤と金色が見えた。強い色彩。あれはゼロだ。丸い肩が見える。だらりと無造作に伸ばされた両手が真っ赤に染まって、ぱたぱたと雫を落とす。狂乱と享楽に染まった青いアイカメラがこちらを見ている。床に千切れたレプリロイドの腕と、内部骨格が剥き出しにされた残骸が転がる。管。生体パーツ。アーマーの切れ端。赤が拡がる。
あれは、本当に、ゼロ?
映像が切り替わる。視界がブラックアウト。その中に青が見えた。
見覚えのある青色の少年、あれはエックスだ。
青い少年が、黒っぽいアーマーと赤いアイカメラの少年と戦っているのが見えた。ふたりとも小柄でバスターを撃ち合っていて…………あれ?
(……エックス、じゃない?)
遠目から撮されたみたいなその映像。エックスにしては小さい気がした。良く見ればアーマーも少し違う。深緑のアイカメラを険しくして、バスターを撃つ。
エックスに人間のような幼少時代があったのならあんな感じだろう。それくらい良く似ているのが不思議だった。
訳が解らずに戸惑っていると、今度は誰かの言葉が聞こえてきた。台詞というよりは、ぶつ切りな単語を拾う。
赤いイレギュラー、暴走、修復、性能、イレギュラーハンター、シグマ、第一七部隊、監視、正常、カプセル、封印、Mk-17、兄、青、少年、敵、製作者、意図、破壊、
思わせ振りで、明確な答の無い情報の羅列。……与えられたこれだけで答を予想できないほど馬鹿ではない。
「…………………………なんなの、これは、」
文字通り頭に叩き込まれたのはずいぶん古い情報だった。
映像と文面それらは全て、エックスとゼロについてのもの。通信回線とウイルスを利用して、わざわざわたしに見せつけてきたようだ。
理由は何?あのふたりが戦うのを止めるなとでも言いたいの?
勢いに圧されるままへたり込みかけた両足を叱咤して立ち上がる。いつの間にか周りはあの気味の悪い色合いの壁に戻っていた。
「コレが本当だったら……」
エックスとゼロに何が起きたのか。彼らは何なのか、誰なのか。
わたしは理解した。
「こんなのおかしい」
通路の向こう側。何かが爆発する音や金属がぶつかる音が微かに届いてくる。隔壁の奥からだ。もうわたしからふたりの戦いを隠す必要が無くなったのだろう。……識別信号をまるまる隠し通したうえに、音すらも防ぐだなんて。本当に茶番がお好きなようだ。
わたしはいつの間にか滲んでいた冷や汗を適当にぬぐって、無理矢理口の端を歪めた。ベースによる支援は無し、味方も無し、この身ひとつ。背水の陣で孤軍奮闘。
覚悟を決める。死ぬかもしれないけど、まぁ良いや。
シグマが何を企もうが、製作者の意図が何であろうが、今を生きる彼らには選択する権利があるんだ。
2へ。
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