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1、プロローグ

ファンズータオの場合



『ホントに一人で大丈夫なの?』
『大丈夫だって!』
『でもほら、言葉とか……』
『ちゃんと少しは勉強したよ?』

心配顔のママに向かって、にっこりと笑顔を向けた。

『卒業までは自由にしてくれる約束でしょ?』
『そうだけど……』

ママの心配性は今に始まったことじゃない。
一人っ子政策の弊害?そんなのこの国じゃ、ありふれた景色だ。

僕は春から韓国に留学した。
部屋も大学もさっさと決めて。
大学を卒業するまでの四年間、僕は遊び倒すことに決めていた。そしてその場所に、僕は韓国を選んだのだ。卒業後はパパの言いなりだから、今だけでもパパやママから離れて一人でやってみたいんだと力説したら、ママは心配そうに反対したけど、パパはそこまで言うならやってみろ、となんとか賛成してくれた。

僕は晴れて、この春から韓国の大学生になった。


最初はもちろん戸惑いの方が大きかった。
見知らぬ街、見知らぬ人、聞き取れない言葉。だけどそれが、徐々に馴染んだ街になり、知ってる人になり、聞き取れる言葉になってきた頃には季節は夏へと変わっていて、近づいてきた初夏の陽気に、心が踊らないでいられるわけもなかった。


「タオー!」
「チエン姐!もー遅いよぉ!」
「ごめんごめん。仕事終わんなくて!」

チエン姐は従姉のお姉さんで、僕が韓国に来ることを後押ししてくれた人のひとりだ。
ソウルでスタイリストをしている。
僕がソウルに来てからも、たまにこうしてご飯を奢ってくれるから大好きなお姉さんだ。

「で、そろそろだっけ?例の約束」
「うん、そう!8月8日!」
「へぇー。10年かぁ。みんなどんな風になってるんだろうねぇ」
「どんなって?」
「そのままの意味よ。10年もあれば人が変わるには十分な時間だわ」
「変わってるわけないじゃん!」
「そうかしら?変わってないのはきっとあなただけよ」

姐姐は、あははと笑う。

みんなに会うのは10年ぶりで。
きっと楽しいことが起きるに違いない、と僕はワクワクしていた。

クリスは?ルーハンは?イーシンは?
ミンソクとジョンデの兄弟は?
みんな元気かなぁ。
僕が韓国にいるって知ったら驚くよね?

それはなんだか、いたずらを仕掛ける子供みたいだと思った。

みんな僕のこと忘れてないといいな。

なんて、夢物語も甚だしい。
現実はこうも残酷のか、と思い知るまであと数日。





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