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1、プロローグ

キムジョンインの場合


いつまで踊るんだろう───


なんてことは常に考えている。
俺にとって踊ることはすべてで、“楽しい”なんてそんな軽いもんじゃない。
体中が痺れる麻薬。狂気。
踊っている時の俺は狂っていると思う。

ダンスを仕事にしようと思ったのは、それ以上に自分を満たすものを探せなかったから。
読書やゲームやサッカーや旅行や。好きなものなら上げられるけど、感情の質量が違うんだ。
人としての重要な部分を、踊ることに浸食されてるような気がする。


もう8月か。なんて思ったのは、夏のイベントが近づいていたから。毎年参加しているダンスイベントに今年も参加ささせてもらえることが決まって、練習も大詰めだ。
夏よりは冬の方が好きだけど、夏にやる屋外イベントも堪らない。


「8日だけ、休みもらってもいいですか?」
「あぁ用事か?」
「はい、すみません」
「いや、お前は根詰めすぎだから少しは休むことも覚えろ」

腰の調子は大丈夫か?と聞かれて、曖昧な返事をした。
昔痛めた古傷が、今でもその存在を主張するように疼く時がある。
でもこんなものは職業病の一種なんだ。
そう、キャッチャーが肩を痛めるように。

そのくらい踊ることが好きな俺だから、いつもは何があっても休むことなんてしない練習だけど、今回ばかりはそれを休んででも会いたい人がいた。
会って確かめたい人。


俺の初恋は小学校3年まで遡る。
『星の学校』で一緒だったジュンミョニヒョン。
俺が会いたいその人だ。

10年経った今でも鮮明に思い出せるほど、その人の印象は強烈だった。

星になんて全然興味がなかったけど、前の年に参加した幼馴染みのテミンからとても楽しかったと聞いていた『星の学校』に、俺も興味を持って応募したのは次の年のこと。
運良く当たったそれで、俺はジュンミョニヒョンと出会った。やたらと整った面立ちのその人は、班長だったせいか年下の俺やセフンをとてもよく面倒見てくれた。
ホームシックで泣き出したセフンに釣られて泣いた夜は、ヒョンを挟んで3人で川の字になって眠ったりもした。
「ジョンイナ」と呼ぶ声変わりの前のヒョンの高く澄んだ声を、今でもはっきり覚えている。


テミンは去年、会えたと言っていた。
俺も会いたい。
会えるといい。
いや、会いたい。


初恋のその人に。


今の自分に足りないものがあるとすれば、それはきっとジュンミョニヒョンで……


『ジョンインのダンスは色気がないな』


先輩に言われた言葉を俺はずっと引き摺っている。もっと恋をしろ、とその人は笑っていた。
これでもかというくらいダンスに打ち込んできた俺に、恋愛なんて暇は当然なくて。
一番新しい記憶がジュンミョニヒョンだったんだ。
一番新しく、一番古い記憶。


だから、ヒョンに会えば何か分かるんじゃないか、なんて邪道な考えも会いたい理由のひとつで。



忘れられない、記憶の欠片。



ただの幼い憧憬だったのか。
それともちゃんと恋だったのか。


確かめずにはいられないんだ。



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