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1、プロローグ

チャンイーシンの場合


夢を追うことは悪くない。


努力はいつか報われると思ってるし、報われないならそれは努力が足りないということだと思っている。

子供の頃から音楽や楽器が好きで、ミュージシャンになる夢は自然と芽生えていった。
高校生の時に送った自作曲のデモテープがレコード会社の人の目に止まり、小さなレーベルだったけれどデビューさせてもらえた。

社長はいつも悪くない、と言う。
お前の曲は悪くない、って。
だけど少しだけ華が足りないんだ、って。
華ってなんですか?と聞くと、彼みたいな華やかさだよ。と指されたのは雑誌に写ったルーハンだった。


「彼みたいな華やかさとか勢いがね、もう少しお前にもあればいいんだけどなぁ」


そう言って社長は苦笑いする。


「俺はさ、レイの曲好きだよ。優しくてお前らしいと思う。ただ、売れる曲ってのは必ずしもそうとは限らないし、多少なりとも売れなければビジネスとしては失敗になってしまう。失敗が続けば……わかるよな?」
「はい……」


失敗が続けば、すなわちクビだ。
契約を切られて放り出される。
そういう意味では不器用である自覚はあった。
雑誌のルーハンを見やれば、昔と変わらない綺麗な笑顔で。この人はあの頃から、綺麗な人だったなぁと思い出した。
周りを惹き付ける魅力的な笑顔と飾らない仕草。
確かに"華"があったなぁ、なんてのんびりと思った。

聞いてんのか?と聞かれて、「え?あ、はい……」なんて慌てて返事をした。



10年前の夏、僕はルーハンと出会った。
韓国で毎年行われていたという『星の学校』が国際交流の一環としてその年から中国人にも募集がかかり、たまたま応募したら当たったのだ。
ルーハンは1つ年上で、けれど僕とは気があって、よく二人で話をした。ルーハンは北京で僕は長沙なので仁川の空港で集合になり、そこから更に行ったソウルで全体の集合だったから、仁川までのバスの中、僕らは自己紹介から始まり、そのあともずっとお喋りに花を咲かせていた。
カナダから中国へ来たばかりだというクリスは無口だったし、一番年下のタオは落ち着きのないただの子供だったから特に、というのもあると思う。

とにかく僕らは気があった。

クラスの友達なんかよりもずっと。


今、ルーハンと再会しても、あの頃みたいに話せるんだろうか、とふと疑問に思う。
僕は多少なりともその地位を羨むかもしれない。
すでに安定しているその地位を。

彼は僕がレイという名前で活動していることすら知らないんだろうなぁ、なんて同じ業界の末端にいることを思い知った。

大学進学をせずにこの業界に入った。
後悔はしていない。

ただ時々……時々思うんだ。

僕の道はこれで合ってるんだろうかって。


ルーハンが来るとは思えなかった。
忙しい彼が、約束を覚えているとも思えなかったし、覚えていたところでわざわざ時間をつくって韓国まで行くのだろうかって。
僕が行く理由があるとすれば、ただそれを確かめるため。

ルーハンが来るのかどうか、確かめるためだけだ。

その為だけに、僕は韓国行きのチケットを取った。



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