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4、かき混ぜた塊

sideミンソク




弟から1枚の写真が届いた。


四角い電子画面の中。見慣れた、けれど見慣れない懐かしい笑顔であいつが写っていて、心臓がどくりと跳ねた。


そんな、どうして?
わざわざソウルまで?
うそだろ?



合成なんかじゃないそれを見て、初めて帰省しなかったことを後悔した。


**


北京の夏は、吐きそうなほど暑い。
熱気がまとわりつくように皮膚を撫でて、何度も溜め息が出る。ひっきりなしに汗をかくせいで、夏は毎年少しだけ痩せるほどだ。


ルハンから連絡が来たのは、それから2日後のことだった。
バイト先の喫茶店に向かう途中。
画面が震えて知らない番号を通知した。
普段なら出ないのに、予感めいたものがあったのかもしれない。




「もしもし……?」
「ミンソク?僕、ルーハンだけど」



ジョンデから番号聞いたんだ、と言うルーハンの言葉を、俺はあいつの看板の前で聞いていた。
看板のルーハンは既にお馴染みの綺麗な顔で笑っている。



「久しぶり。覚えてる?」
「……あぁ、もちろん」
「よかった……今北京にいるんだって?」
「うん、お前の看板の前にいるよ」
「はは、そっか……」



この前来なかったから、久しぶりに会いたいなぁと思って。



俺はその言葉をどんな風に受け取ったらいいのか考えあぐねていた。社交辞令だってわかっていたけど、あいつが俺のことを覚えていてくれただけで、何だかとても不思議だったんだ。だって目の前には大きなルーハンの看板があって。芸能人然として笑っているから。


俺は、北京に焦がれただけの、平凡な学生だ。


「今さ、ソウルにいるんだ。仕事で。もうすぐ韓国デビューするからその準備」
「へぇ、」


すごいな。と呟いた声は、なんだか妙に体の外側を滑った感覚がした。


「あ、でももうすぐ仕事で一旦そっちに戻るから、その時にでも……」
「あぁ、連絡して」
「うん」


目の前のルーハンに向かって呟く。
やっぱり自分はちっぽけな存在に思えた。


「ごめん、バイトなんだ」
「そっか」


また電話してもいい?と聞くので、うん、と答えた。


切れた通話画面。
真っ暗になったそこに映ったのは、北京へ逃げた卑怯な自分。

見上げた空は俺の心を映し出したかのような濁った青空だった。




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