3、沈殿するもの
sideジョンイン
10年ぶりに見たその人は、やっぱり恋い焦がれたその人だった。
真っ白で汚れのない──、何て言ったらテミンあたりは鼻で笑うんだろうな。
だけどあの人は探していたんだ。
キョロキョロと辺りを見回したり。
そわそわと窓の向こうを見たり。
不思議に思いながら見ていたけど、中国組に聞きに行ったのを見て、ようやく理解した。
クリスヒョンの居場所を聞いていたんだ、って。
こんなの、とても幼稚な嫉妬に思えた。
───ヒョンが気になる?
隣でぼそりと呟いたのはギョンスヒョンだった。びくりと驚いて心臓が飛び跳ねた。
『いや、そういうわけじゃ……』
『さっきからずっと見てるよ』
見たことないような顔でくすりと笑ってヒョンは言った。
スタジオに入ればもう残ってる人は僅かで。適当に空いてる部屋を借りてストレッチを始める。
そういえばベッキョニヒョンと会ったのは驚きだった。気づかなかっただけで、今までも何度かすれ違っていたのかもしれない。あの人も庭のように繁華街を歩いていたから。
じゃあジュンミョニヒョンとも?
いや、あの人はきっと繁華街なんて歩かない。
このままジュンミョニヒョンのことを思い出せば、酷くむなしくなるばかりだったから放り出すように頭を降った。
「あ、」
ドアが開く音がして鏡越しに見れば、そこに映ったのはかつての親友。
「テミナ……」
「まだいたの?相変わらず遅くまで頑張るねぇ」
よっ!なんて手を上げて入ってきたのは、久しぶりに見る幼馴染みのテミンだった。
スタジオに来るのは久しぶりだ。
プロとしての本格的な活動はしてないけれど、スクールからの縁で一応籍は置いている。
「珍しいじゃん」
「うん、久しぶりに踊りたくなってさ」
「へぇ。なんかあった?」
「別に。ジョンイナこそ帰るところ?」
「いや今来たところ」
「今?」
「まぁ……ホントは休みにしてたんだけど一日踊らないと気持ち悪くて結局……」
「はは!相変わらずだね」
「一緒に踊る?」
「いいねぇ」
テミンはニヤリと笑って準備を始めた。
久しぶりの感覚に照れ臭くてむず痒くなる。
高校卒業と同時にダンスも卒業したテミン。
何があったかなんて聞いてない。
その頃テミンは荒れていたし、俺も進路で悩んでいた。子供の頃から一緒に習っていたダンスを「僕は趣味でいいよ」と寂しそうに笑って、テミンはダンスを仕事にはしなかった。
俺は結局、ダンスを取って進学しなかった。
それからなんとかかじりついて、今の地位まで来ることができたんだ。っていってもまだまだ駆け出しのダンサーで、やっと小さな仕事を貰えるようになった程度だけど。
賞ならいくつか取った。
自分の時間はすべてをダンスに費やしてきたし、練習の虫と呼ばれるくらい打ち込んできた。何人かの目を掛けてくれる人とも出会ったし、ファンだといってくれる人も少しはついてきた。
テミンは今、確か子供向けの星に関するフリーペーパーを作る会社でアルバイトをしているはずだ。
そんなに天体が好きだったなんて知らなかったから、その話を聞いたとき少し寂しかったのを覚えている。当然にダンスを選ぶもんだと思っていたから。
「この曲でいい?」
かけたのは昔よく練習した曲。
飽きるまで踊って、何度も合わせたやつ。
いいねぇ、と言ってニヤリと笑みをこぼす懐かしい顔。鏡越しに見た親友の横顔は少しだけ知らない人に見えた。
帰り道は昔みたいにファーストフード店に寄って、ハンバーガーをかじった。
「やっぱり久しぶりだと付いていくの大変だなぁ」
「そ?普通に踊れてたけど」
「いや、」
やっぱり思うように踊れないわ、と言うテミンに「また来ればいいじゃん」と言うと、少しだけ寂しそうに笑った。
「ダンスは趣味でいいよ」
「なんで?」
「だって今の生活も結構楽しいし」
「星のフリーペーパーだっけ?」
「うん」
テミンは満足そうに笑う。
「ふーん。それってさぁ、星の学校がきっかけだったの?」
「うんまぁ。ホントは大学で勉強したかったんだけど、あの時はお金なくて入れなかったからさ」
なんだ。やっぱり元々本命ではなかったのか。あんなに、死ぬほど一緒に踊ったのに。テミンのやりたいことは別にあって、それに向かって着実に歩き始めている。俺にとってのそれはきっとやっぱりダンスだったんだろうけど、少しだけ追い越されてるような気がして酷く複雑な気分になった。それほどまでにテミンの目は輝いて見えたんだ。
「でも今充実してるし結果オーライかな。ジョンインは?」
「俺?」
「充実してる?」
「まぁ、ダンスの方は」
「てことは他は……?」
独特のにやけ顔で聞いてくるテミンは、去年に比べて肩の力が抜けたように見える。やっぱり今が充実してる証拠なんだろうか。
「あれ?そういえば星の学校のやつ、ジョンインも10年後の再会したの?」
「まぁ……」
「マジで!?いつ!?どうだった!?」
「いつって今日、だったけど……」
「今日!?」
にやりと悪い顔をするテミンを見て、ため息をひとつ。
久しぶりのやり取りとはいえ、テミンは相変わらず人をおちょくることに関して天下一品だ。
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10年ぶりに見たその人は、やっぱり恋い焦がれたその人だった。
真っ白で汚れのない──、何て言ったらテミンあたりは鼻で笑うんだろうな。
だけどあの人は探していたんだ。
キョロキョロと辺りを見回したり。
そわそわと窓の向こうを見たり。
不思議に思いながら見ていたけど、中国組に聞きに行ったのを見て、ようやく理解した。
クリスヒョンの居場所を聞いていたんだ、って。
こんなの、とても幼稚な嫉妬に思えた。
───ヒョンが気になる?
隣でぼそりと呟いたのはギョンスヒョンだった。びくりと驚いて心臓が飛び跳ねた。
『いや、そういうわけじゃ……』
『さっきからずっと見てるよ』
見たことないような顔でくすりと笑ってヒョンは言った。
スタジオに入ればもう残ってる人は僅かで。適当に空いてる部屋を借りてストレッチを始める。
そういえばベッキョニヒョンと会ったのは驚きだった。気づかなかっただけで、今までも何度かすれ違っていたのかもしれない。あの人も庭のように繁華街を歩いていたから。
じゃあジュンミョニヒョンとも?
いや、あの人はきっと繁華街なんて歩かない。
このままジュンミョニヒョンのことを思い出せば、酷くむなしくなるばかりだったから放り出すように頭を降った。
「あ、」
ドアが開く音がして鏡越しに見れば、そこに映ったのはかつての親友。
「テミナ……」
「まだいたの?相変わらず遅くまで頑張るねぇ」
よっ!なんて手を上げて入ってきたのは、久しぶりに見る幼馴染みのテミンだった。
スタジオに来るのは久しぶりだ。
プロとしての本格的な活動はしてないけれど、スクールからの縁で一応籍は置いている。
「珍しいじゃん」
「うん、久しぶりに踊りたくなってさ」
「へぇ。なんかあった?」
「別に。ジョンイナこそ帰るところ?」
「いや今来たところ」
「今?」
「まぁ……ホントは休みにしてたんだけど一日踊らないと気持ち悪くて結局……」
「はは!相変わらずだね」
「一緒に踊る?」
「いいねぇ」
テミンはニヤリと笑って準備を始めた。
久しぶりの感覚に照れ臭くてむず痒くなる。
高校卒業と同時にダンスも卒業したテミン。
何があったかなんて聞いてない。
その頃テミンは荒れていたし、俺も進路で悩んでいた。子供の頃から一緒に習っていたダンスを「僕は趣味でいいよ」と寂しそうに笑って、テミンはダンスを仕事にはしなかった。
俺は結局、ダンスを取って進学しなかった。
それからなんとかかじりついて、今の地位まで来ることができたんだ。っていってもまだまだ駆け出しのダンサーで、やっと小さな仕事を貰えるようになった程度だけど。
賞ならいくつか取った。
自分の時間はすべてをダンスに費やしてきたし、練習の虫と呼ばれるくらい打ち込んできた。何人かの目を掛けてくれる人とも出会ったし、ファンだといってくれる人も少しはついてきた。
テミンは今、確か子供向けの星に関するフリーペーパーを作る会社でアルバイトをしているはずだ。
そんなに天体が好きだったなんて知らなかったから、その話を聞いたとき少し寂しかったのを覚えている。当然にダンスを選ぶもんだと思っていたから。
「この曲でいい?」
かけたのは昔よく練習した曲。
飽きるまで踊って、何度も合わせたやつ。
いいねぇ、と言ってニヤリと笑みをこぼす懐かしい顔。鏡越しに見た親友の横顔は少しだけ知らない人に見えた。
帰り道は昔みたいにファーストフード店に寄って、ハンバーガーをかじった。
「やっぱり久しぶりだと付いていくの大変だなぁ」
「そ?普通に踊れてたけど」
「いや、」
やっぱり思うように踊れないわ、と言うテミンに「また来ればいいじゃん」と言うと、少しだけ寂しそうに笑った。
「ダンスは趣味でいいよ」
「なんで?」
「だって今の生活も結構楽しいし」
「星のフリーペーパーだっけ?」
「うん」
テミンは満足そうに笑う。
「ふーん。それってさぁ、星の学校がきっかけだったの?」
「うんまぁ。ホントは大学で勉強したかったんだけど、あの時はお金なくて入れなかったからさ」
なんだ。やっぱり元々本命ではなかったのか。あんなに、死ぬほど一緒に踊ったのに。テミンのやりたいことは別にあって、それに向かって着実に歩き始めている。俺にとってのそれはきっとやっぱりダンスだったんだろうけど、少しだけ追い越されてるような気がして酷く複雑な気分になった。それほどまでにテミンの目は輝いて見えたんだ。
「でも今充実してるし結果オーライかな。ジョンインは?」
「俺?」
「充実してる?」
「まぁ、ダンスの方は」
「てことは他は……?」
独特のにやけ顔で聞いてくるテミンは、去年に比べて肩の力が抜けたように見える。やっぱり今が充実してる証拠なんだろうか。
「あれ?そういえば星の学校のやつ、ジョンインも10年後の再会したの?」
「まぁ……」
「マジで!?いつ!?どうだった!?」
「いつって今日、だったけど……」
「今日!?」
にやりと悪い顔をするテミンを見て、ため息をひとつ。
久しぶりのやり取りとはいえ、テミンは相変わらず人をおちょくることに関して天下一品だ。
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