3、沈殿するもの
sideベッキョン
ジョンデが急に帰ってしまって、ルハニヒョンがそれを追いかけて────続くようにイシンヒョンも後を追った。ところがルハニヒョンは戻ってきたけどイシンヒョンは戻らなかった。けれどルハニヒョンはそのあとすぐにマネージャーから呼び戻されて。
結局、俺たちはよく分からないうちに解散になった。
ジョンデのやつ、どうしたんだろう。
さっきまで笑っていたはずのジョンデが気になって話も漫ろだったけど、残ったメンバーで何となく場所を移そうかとなって、帰ろうとするセフンとギョンスも捕まえて俺たちは次の店に移った。
適当な話をして、またみんなで集まりたいな、なんて話もして。12人は無理かもしれないけど、ソウルにいる奴等だけでも、とかジュンミョニヒョンが言って。さっきの喧騒なんてどこ吹く風で、そうだね!と盛り上がった。
俺は、イベント事は最後まで楽しみたい方だけれど、やっぱりどうにもジョンデのことが気がかりだった。
面倒事には関わりたくないと思う反面、どうしても放っておけなかったんだ。
「なぁチャニョラ、」
「なに?」
「ジョンデのことだけどさぁ」
「うん」
「なんか気になんだよなぁ」
「あ、わかる……」
帰る方向が一緒だというので二人で並んで歩いた道すがら、不意にこぼした言葉にチャニョルも同じように頷いた。
「このままでいいのかなぁ」とチャニョルが呟く。
よくなんかないけど、俺たちにはどうにも出来ないじゃん。そもそも友達かって聞かれたら微妙なほどの繋がりなんだから。
でもさぁ、なんて言い淀むチャニョルの背中を叩いて、俺は歩みを進めた。
何もないアパートに帰るのは酷く虚しくなる。
年上の彼女と別れてからは、面倒くさくて誰とも付き合ってないので、泊まるところもなくてアパートを借りた。
借りたはいいけど、何もない。
その何もないアパートで、昼間のことを思い返した。
きっと目指してるであろう場所にいるルハニヒョン。
嫉妬なんかする資格もないほど、自分には何もないように思えた。漠然と描いていた夢。随分と先を歩いている人。国が違うせいか、遠すぎて何も浮かばない。
そう思っていたのに、開いた動画で歌っているヒョンを見た瞬間、やっぱり酷く羨ましく思えた。
スポットライトを浴びて歓声を前に笑う姿。
望んだって簡単には手に入らない場所だってことは良くわかっている。
チャニョルだってギョンスだってジョンデだって、みんな真面目な学生をやっていて、ジョンインは照れくさそうに夢の途中だと話していた。
俺には、誇れるものが何もなかった。
そんなこと、はじめから分かっていたことで。地元のやつらといたって結局そうだ。
自由でいたかった俺が選んだ道は、たまにとても虚しくなる。
何もない部屋にあるのは、少しの服とホームセンターで買ってきたセットの組布団くらいなもんで。
ごろりと布団に寝そべったけど鬱々としていたくなくて、結局財布とスマホを掴んで繁華街へ繰り出した。
繁華街は眠らない賑やかさが好きだ。
常に誰かがいて楽しそうに笑っている。
そんな姿を見て少しだけ心が晴れた。
「あれ?キムジョンイン?」
遠くの方から歩いてきた長身に目を惹かれて視線をやれば、ついさっきまで一緒にいたジョンインだ。
「ヒョン?」
「なにやってんの?こんなとこで」
「ヒョンこそ」
「俺は、ほら、ぶらぶらと……お前は?」
「あぁー、スタジオに行こうかと」
「ダンス?」
「はい。今日は休みにしてたんですけど、やっぱり体動かさないと気持ち悪くて」
「はは!やっぱそういうのあるんだな」
「みたいですね」
どうせ暇だからと、無理矢理ジョンインに付いてスタジオ近くまで行くことにした。
知らないものは面白い。
新しいことは、常に刺激だ。
「さっき、誰と帰ったんだっけ?」
「タオとセフンですけど?」
「あぁ、そっか。チビッ子三人組か!」
「今はヒョンたちの方が小さいですけどね」
「うっせぇ!」
あはは、と笑えばやっぱり年下の青年だ。
どんなに大人びて見えても、あの頃のジョンインが重なる。
「まっすぐ帰ったの?」
「さぁ?二人とは途中で別れたんで」
「ふーん」
「ねぇ、ヒョン」
「んー?」
「ヒョンって今何やってるんでしたっけ?」
「何って?」
「仕事とか学校とか」
「あぁ。フリーター?」
「なにそれ」
「テキトーにバイトしたり貢いでもらったり」
「うわ。最低」
「知ってるからそれ以上言うな」
着いた、と言って見上げたビルはやたらと大きな建物だった。こんなとこでダンスやってんのかよって。実はすごいやつなんじゃねぇの?って。また自分との差を感じて虚しくなる。
何もない自分。
何にもなれない自分。
虚しさが胸を覆う。
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ジョンデが急に帰ってしまって、ルハニヒョンがそれを追いかけて────続くようにイシンヒョンも後を追った。ところがルハニヒョンは戻ってきたけどイシンヒョンは戻らなかった。けれどルハニヒョンはそのあとすぐにマネージャーから呼び戻されて。
結局、俺たちはよく分からないうちに解散になった。
ジョンデのやつ、どうしたんだろう。
さっきまで笑っていたはずのジョンデが気になって話も漫ろだったけど、残ったメンバーで何となく場所を移そうかとなって、帰ろうとするセフンとギョンスも捕まえて俺たちは次の店に移った。
適当な話をして、またみんなで集まりたいな、なんて話もして。12人は無理かもしれないけど、ソウルにいる奴等だけでも、とかジュンミョニヒョンが言って。さっきの喧騒なんてどこ吹く風で、そうだね!と盛り上がった。
俺は、イベント事は最後まで楽しみたい方だけれど、やっぱりどうにもジョンデのことが気がかりだった。
面倒事には関わりたくないと思う反面、どうしても放っておけなかったんだ。
「なぁチャニョラ、」
「なに?」
「ジョンデのことだけどさぁ」
「うん」
「なんか気になんだよなぁ」
「あ、わかる……」
帰る方向が一緒だというので二人で並んで歩いた道すがら、不意にこぼした言葉にチャニョルも同じように頷いた。
「このままでいいのかなぁ」とチャニョルが呟く。
よくなんかないけど、俺たちにはどうにも出来ないじゃん。そもそも友達かって聞かれたら微妙なほどの繋がりなんだから。
でもさぁ、なんて言い淀むチャニョルの背中を叩いて、俺は歩みを進めた。
何もないアパートに帰るのは酷く虚しくなる。
年上の彼女と別れてからは、面倒くさくて誰とも付き合ってないので、泊まるところもなくてアパートを借りた。
借りたはいいけど、何もない。
その何もないアパートで、昼間のことを思い返した。
きっと目指してるであろう場所にいるルハニヒョン。
嫉妬なんかする資格もないほど、自分には何もないように思えた。漠然と描いていた夢。随分と先を歩いている人。国が違うせいか、遠すぎて何も浮かばない。
そう思っていたのに、開いた動画で歌っているヒョンを見た瞬間、やっぱり酷く羨ましく思えた。
スポットライトを浴びて歓声を前に笑う姿。
望んだって簡単には手に入らない場所だってことは良くわかっている。
チャニョルだってギョンスだってジョンデだって、みんな真面目な学生をやっていて、ジョンインは照れくさそうに夢の途中だと話していた。
俺には、誇れるものが何もなかった。
そんなこと、はじめから分かっていたことで。地元のやつらといたって結局そうだ。
自由でいたかった俺が選んだ道は、たまにとても虚しくなる。
何もない部屋にあるのは、少しの服とホームセンターで買ってきたセットの組布団くらいなもんで。
ごろりと布団に寝そべったけど鬱々としていたくなくて、結局財布とスマホを掴んで繁華街へ繰り出した。
繁華街は眠らない賑やかさが好きだ。
常に誰かがいて楽しそうに笑っている。
そんな姿を見て少しだけ心が晴れた。
「あれ?キムジョンイン?」
遠くの方から歩いてきた長身に目を惹かれて視線をやれば、ついさっきまで一緒にいたジョンインだ。
「ヒョン?」
「なにやってんの?こんなとこで」
「ヒョンこそ」
「俺は、ほら、ぶらぶらと……お前は?」
「あぁー、スタジオに行こうかと」
「ダンス?」
「はい。今日は休みにしてたんですけど、やっぱり体動かさないと気持ち悪くて」
「はは!やっぱそういうのあるんだな」
「みたいですね」
どうせ暇だからと、無理矢理ジョンインに付いてスタジオ近くまで行くことにした。
知らないものは面白い。
新しいことは、常に刺激だ。
「さっき、誰と帰ったんだっけ?」
「タオとセフンですけど?」
「あぁ、そっか。チビッ子三人組か!」
「今はヒョンたちの方が小さいですけどね」
「うっせぇ!」
あはは、と笑えばやっぱり年下の青年だ。
どんなに大人びて見えても、あの頃のジョンインが重なる。
「まっすぐ帰ったの?」
「さぁ?二人とは途中で別れたんで」
「ふーん」
「ねぇ、ヒョン」
「んー?」
「ヒョンって今何やってるんでしたっけ?」
「何って?」
「仕事とか学校とか」
「あぁ。フリーター?」
「なにそれ」
「テキトーにバイトしたり貢いでもらったり」
「うわ。最低」
「知ってるからそれ以上言うな」
着いた、と言って見上げたビルはやたらと大きな建物だった。こんなとこでダンスやってんのかよって。実はすごいやつなんじゃねぇの?って。また自分との差を感じて虚しくなる。
何もない自分。
何にもなれない自分。
虚しさが胸を覆う。
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