2、掬った上澄み ~再会の日~
sideジュンミョン
道を間違えたのは痛かった。
時計を見ればすでに12時を越えていて。
班長が遅刻なんて不味いよなぁ、なんて苦笑をこぼす。
なのに連絡の一本も取れないなんて、今の時代じゃ考えられないな、と時代の流れを思った。
懸命に走ってようやく広場が見えた頃、あとちょっと!なんて急いでいた足が止まる。
あれ?
広場には、それらしき人が一人もいない。
まさか置いてかれた?
いやいや、さすがにそれはないだろう。
だって僕班長だよ?
普通班長置いてく?
いや、遅刻した僕が悪いんだけど。
不安に思いながら時計塔まで歩みを進めると、一枚の貼り紙が目についた。
五線紙?
「星の学校のみなさん、ムーンライトカフェでお待ちしてます……?」
ん?
矢印の方を見ると、確かにカフェの看板が見えた。
なんだ。
ほっとしたのも束の間、俺は急いでカフェへと駆け寄った。
窓からは手を振る御一行。
自然と笑みが浮かんだ。
「ごめんごめん!道に迷って!」
「はぁ!?都会人のくせに!」
あはは、と笑う面々を見て、懐かしさが胸を覆った。
「ヒョン!じゃあ罰として、みんなの名前当ててください!」
「え……?」
「まさか!出来ないんですか!?」
いやいやいや。えーっと、そんなこと言われても、分かるかなぁ。
はずすとヤバイぞ、なんて空気で俺を威圧してくるみんなの顔を、再度ぐるりと見渡した。
「はは!当てられるかなぁ。でもそんなことを言うやつは……ベッキョニだ!あってる?」
「おぉ?正解です」
「隣は……色白でふにゃっと笑う……え、セフニ?」
「はは!正解!」
ベッキョンが答えを言うと、セフンはやっぱり恥ずかしそうにふにゃりと笑った。
「大きくなったなぁ!それから、色黒で眠そうな二重は、ジョンイナ?」
「はい……」
「あとは……白目で小さくて大人しい、ギョンス!」
「……はい」
「ってことは……まさか、チャニョリ?」
「あははー!正解!」
「えっ!?」
声をあげると、何故かみんな笑っていた。
そして次は中国班……は、やっぱり人数が足りてない。そうだよなぁ、なんて寂しくなる。
なにより、同じ班長のクリスが見当たらないから。
「えっと、まずは八の字眉と上がった口角は、キム兄弟の弟ジョンデ!」
「はは、正解です」
「あれ?兄は?」
「あー、まだ来てないです」
すみません、とやっぱり眉を下げるジョンデに、そっか、と笑顔を向けた。
「それから……優しい目と笑窪のイーシン」
「ふふ」
「そして、切れ長の目と黒い肌は……タオーー!!」
「正解ですー!」
なんとか面子は保てたか、と一息つく。
「ヒョン、よく僕ら中国班まで覚えてますね!」
「まぁね!」
と言いつつ、実は昨夜から何度も写真を見てイメージしたから、その賜物。
みんなどんな大人になってるかなぁ、って。
僕は変わらない笑顔にホッと胸を撫で下ろした。
「じぁあ、あとはミンソギとルハンと、それにクリス?」
「はい、」
出席率悪くてすみません、とジョンデが苦笑する。
「仕方ないさ、中国なんだし。二人はよく来たよ。このために?」
「あ!タオは今ソウルの大学生!」
「あっ!韓国語!!」
「えへへ」
「すごいなぁ!じゃあこっちに住んでるの?」
「うん!」
「イシンは?」
「ヒョンはこのために来たみたいです」
ジョンデが代わりに答える。
「そうかー!嬉しいな!」
イシンは何となく伝わってるのか、くすぐったそうにはにかんだ。
「で、ヒョンはどうした?」
ジョンデにまた視線を戻す。
「あー、ヒョンも今中国で。北京の大学に行ってるんです」
「そっか」
「はい、一応連絡はしたんですけどね。来るって返事は来てなくて……」
「まぁ、しょうがないよ」
元気なんだろ?と問うと「はい」とジョンデは笑った。
「まぁまぁ、とりあえずきっとこれで全員ですよね?」
始めましょう?とチャニョルが言うので、そうだな、と頷いた。
窓際に陣取る一行は賑やかに乾杯をした。っていっても昼間だし未成年もいるのでジュースだけど。
それから、それぞれが適当にご飯を頼んで、運ばれるのを待ちながら一人ずつ挨拶をする。
ベッキョンとジョンインとイシン以外は自分を含めみんな学生で、中でもセフンはまだ高校生だった。それから、タオがこっちに留学してたのにはさすがに驚いたけど、それ以外は珍しいこともなくみんなソウルの学校に通っているようだ。
ルハンやクリスとは連絡とったりしてるの?なんて希望のない問いを中国組に尋ねてみたりもしたけれど、答えは当たり前にノーだった。
楽しく話をしながらご飯を食べて、そろそろ1時半をまわろうかと言うころ。声を上げたのはジョンインだった。
「あ……」
「ん?」
「あれ、あの人。そうじゃない?」
窓の向こう、時計塔を指して呟く。
僕は振り返って必死にジョンインの指の先を探った。近視の僕は遠くてまだ見えない。
「サングラス……?」
ジョンデが呟く。
「なんかすげぇオーラ感じるんだけど」
チャニョルが呟いた言葉に「なに?芸能人!?」とベッキョンが声をあげて。「あ!じゃあシャオルーだ!」とタオが言った。
「ルハニヒョン?」
「うん、きっとそう!すごい!来たんだー!」
え、なになになに?とチャニョルとベッキョンが騒いでいる。
「今、中国じゃ知らない人いないよ!」
「は!?」
「歌もドラマもバラエティーもなんでもやってる!」
タオの言葉を受けてジョンデがスマホを操作すると、これ、とみんなに向けた。
「なにこれ!すごい!」
「僕も絶対来ないと思ってました」
近づいてきたルハンにみんなで手を振ると、ルハンはサングラスを取って笑った。
いわゆるアイドルというやつらしい。
有名人が来て大盛り上がりだ。
僕自身、この中にそんな人が現れるなんて思ってもいなかったので、大興奮は間違いない。
ジョンデやイシンやタオと中国語でなにか話して、そのあとにルハンは「ひさしぶり」と片言の韓国語で言った。
「今、韓国デビューを控えてて、ちょうど短期滞在中なんですって」
ジョンデの言葉に、なるほど、とみんなで頷いた。やっぱり芸能人のオーラは違うんだなぁって。
「みんな、ちゃんと大人になってて安心したよ」
「なに言ってんですか。ヒョンが一番堅実でしょ。大企業の御曹司なんですから」
「いやまぁ、僕は次男だし……」
「そこは関係ないでしょ!」
「え、そうなの?」
「うん、でっかい会社。ですよね?ヒョン」
「え?あぁ、うーん……」
でっかいって訳じゃないけど、なんて言ってチャニョルの容赦ないツッコミに苦笑しながら返す。
「いや、でもさ。ほら、こんなにみんな幼かったのに」
写真に目をやれば、当たり前に小さな子供たちがTシャツ姿で笑っていて。
見上げた視界には成長した彼ら。
やっぱり何だか感慨深かった。
そしてまた写真に目線を戻して。
僕の視線は一所で止まった。
最後の一人はクリスか。
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道を間違えたのは痛かった。
時計を見ればすでに12時を越えていて。
班長が遅刻なんて不味いよなぁ、なんて苦笑をこぼす。
なのに連絡の一本も取れないなんて、今の時代じゃ考えられないな、と時代の流れを思った。
懸命に走ってようやく広場が見えた頃、あとちょっと!なんて急いでいた足が止まる。
あれ?
広場には、それらしき人が一人もいない。
まさか置いてかれた?
いやいや、さすがにそれはないだろう。
だって僕班長だよ?
普通班長置いてく?
いや、遅刻した僕が悪いんだけど。
不安に思いながら時計塔まで歩みを進めると、一枚の貼り紙が目についた。
五線紙?
「星の学校のみなさん、ムーンライトカフェでお待ちしてます……?」
ん?
矢印の方を見ると、確かにカフェの看板が見えた。
なんだ。
ほっとしたのも束の間、俺は急いでカフェへと駆け寄った。
窓からは手を振る御一行。
自然と笑みが浮かんだ。
「ごめんごめん!道に迷って!」
「はぁ!?都会人のくせに!」
あはは、と笑う面々を見て、懐かしさが胸を覆った。
「ヒョン!じゃあ罰として、みんなの名前当ててください!」
「え……?」
「まさか!出来ないんですか!?」
いやいやいや。えーっと、そんなこと言われても、分かるかなぁ。
はずすとヤバイぞ、なんて空気で俺を威圧してくるみんなの顔を、再度ぐるりと見渡した。
「はは!当てられるかなぁ。でもそんなことを言うやつは……ベッキョニだ!あってる?」
「おぉ?正解です」
「隣は……色白でふにゃっと笑う……え、セフニ?」
「はは!正解!」
ベッキョンが答えを言うと、セフンはやっぱり恥ずかしそうにふにゃりと笑った。
「大きくなったなぁ!それから、色黒で眠そうな二重は、ジョンイナ?」
「はい……」
「あとは……白目で小さくて大人しい、ギョンス!」
「……はい」
「ってことは……まさか、チャニョリ?」
「あははー!正解!」
「えっ!?」
声をあげると、何故かみんな笑っていた。
そして次は中国班……は、やっぱり人数が足りてない。そうだよなぁ、なんて寂しくなる。
なにより、同じ班長のクリスが見当たらないから。
「えっと、まずは八の字眉と上がった口角は、キム兄弟の弟ジョンデ!」
「はは、正解です」
「あれ?兄は?」
「あー、まだ来てないです」
すみません、とやっぱり眉を下げるジョンデに、そっか、と笑顔を向けた。
「それから……優しい目と笑窪のイーシン」
「ふふ」
「そして、切れ長の目と黒い肌は……タオーー!!」
「正解ですー!」
なんとか面子は保てたか、と一息つく。
「ヒョン、よく僕ら中国班まで覚えてますね!」
「まぁね!」
と言いつつ、実は昨夜から何度も写真を見てイメージしたから、その賜物。
みんなどんな大人になってるかなぁ、って。
僕は変わらない笑顔にホッと胸を撫で下ろした。
「じぁあ、あとはミンソギとルハンと、それにクリス?」
「はい、」
出席率悪くてすみません、とジョンデが苦笑する。
「仕方ないさ、中国なんだし。二人はよく来たよ。このために?」
「あ!タオは今ソウルの大学生!」
「あっ!韓国語!!」
「えへへ」
「すごいなぁ!じゃあこっちに住んでるの?」
「うん!」
「イシンは?」
「ヒョンはこのために来たみたいです」
ジョンデが代わりに答える。
「そうかー!嬉しいな!」
イシンは何となく伝わってるのか、くすぐったそうにはにかんだ。
「で、ヒョンはどうした?」
ジョンデにまた視線を戻す。
「あー、ヒョンも今中国で。北京の大学に行ってるんです」
「そっか」
「はい、一応連絡はしたんですけどね。来るって返事は来てなくて……」
「まぁ、しょうがないよ」
元気なんだろ?と問うと「はい」とジョンデは笑った。
「まぁまぁ、とりあえずきっとこれで全員ですよね?」
始めましょう?とチャニョルが言うので、そうだな、と頷いた。
窓際に陣取る一行は賑やかに乾杯をした。っていっても昼間だし未成年もいるのでジュースだけど。
それから、それぞれが適当にご飯を頼んで、運ばれるのを待ちながら一人ずつ挨拶をする。
ベッキョンとジョンインとイシン以外は自分を含めみんな学生で、中でもセフンはまだ高校生だった。それから、タオがこっちに留学してたのにはさすがに驚いたけど、それ以外は珍しいこともなくみんなソウルの学校に通っているようだ。
ルハンやクリスとは連絡とったりしてるの?なんて希望のない問いを中国組に尋ねてみたりもしたけれど、答えは当たり前にノーだった。
楽しく話をしながらご飯を食べて、そろそろ1時半をまわろうかと言うころ。声を上げたのはジョンインだった。
「あ……」
「ん?」
「あれ、あの人。そうじゃない?」
窓の向こう、時計塔を指して呟く。
僕は振り返って必死にジョンインの指の先を探った。近視の僕は遠くてまだ見えない。
「サングラス……?」
ジョンデが呟く。
「なんかすげぇオーラ感じるんだけど」
チャニョルが呟いた言葉に「なに?芸能人!?」とベッキョンが声をあげて。「あ!じゃあシャオルーだ!」とタオが言った。
「ルハニヒョン?」
「うん、きっとそう!すごい!来たんだー!」
え、なになになに?とチャニョルとベッキョンが騒いでいる。
「今、中国じゃ知らない人いないよ!」
「は!?」
「歌もドラマもバラエティーもなんでもやってる!」
タオの言葉を受けてジョンデがスマホを操作すると、これ、とみんなに向けた。
「なにこれ!すごい!」
「僕も絶対来ないと思ってました」
近づいてきたルハンにみんなで手を振ると、ルハンはサングラスを取って笑った。
いわゆるアイドルというやつらしい。
有名人が来て大盛り上がりだ。
僕自身、この中にそんな人が現れるなんて思ってもいなかったので、大興奮は間違いない。
ジョンデやイシンやタオと中国語でなにか話して、そのあとにルハンは「ひさしぶり」と片言の韓国語で言った。
「今、韓国デビューを控えてて、ちょうど短期滞在中なんですって」
ジョンデの言葉に、なるほど、とみんなで頷いた。やっぱり芸能人のオーラは違うんだなぁって。
「みんな、ちゃんと大人になってて安心したよ」
「なに言ってんですか。ヒョンが一番堅実でしょ。大企業の御曹司なんですから」
「いやまぁ、僕は次男だし……」
「そこは関係ないでしょ!」
「え、そうなの?」
「うん、でっかい会社。ですよね?ヒョン」
「え?あぁ、うーん……」
でっかいって訳じゃないけど、なんて言ってチャニョルの容赦ないツッコミに苦笑しながら返す。
「いや、でもさ。ほら、こんなにみんな幼かったのに」
写真に目をやれば、当たり前に小さな子供たちがTシャツ姿で笑っていて。
見上げた視界には成長した彼ら。
やっぱり何だか感慨深かった。
そしてまた写真に目線を戻して。
僕の視線は一所で止まった。
最後の一人はクリスか。
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