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2、掬った上澄み ~再会の日~

sideジョンイン




広場につくと15分前。


……誰もいない。


日にち間違えた?時間?



いや、あってるはずだ。
8月8日、12時ちょうどに時計塔の前。


スマホを取り出してカレンダーを確認する。



───11時45分



15分前で誰もいないとか、なくない?
12人もいりゃあ1人くらい早めに来てるだろうと思ったんだけど。


まぁ、とりあえずって時計塔に向かって歩くと、不審な貼り紙が目についた。



「ムーンライトカフェ……」



矢印の方を見ると、確かに看板が見える。

あそこ……?




「なにこれ!」


「うわぁ……!」



ぼんやりとしてたのか背中越しに急に声がして、驚いてがばりと振り返った。


「こんにちは~」と笑顔で挨拶をされて急激に戸惑う。
誰!?何!?つーか、怖いし!


振り向いたそこにいたのは長身の部類に入るはずの俺よりももう少しだけ大きな男で、切れ長な目が弓形に弧を描いていた。



「タオだよ」



君は?なんてぎこちない韓国語で聞かれて、あぁ、中国班のやつか、って。



「……キムジョンイン、です」
「うーんと……あぁ!ジョンイナ!!」



がばりと抱きつかれて放心状態。



「覚えてないの?」



いや、覚えてる。
…………居たわ確かに───唯一の同い年。



「中国からわざわざ?」
「ううん、今ね、ソウルに住んでるの!すごいでしょ?」
「ふーん。あぁ、だから韓国語しゃべれるんだ?」
「そう!勉強してるんだ!」



えへへ、と笑う顔はあの頃と一緒だ。
うるさくて、落ち着きがなくて、泣き虫で、いたずらっ子。確か班長たちが手を焼いていた。言葉も分からないのにジュンミョニヒョンにも甘えてたっけ。
覚えてるもんだな、なんて少し驚く。




「あ……」



タオの背中越し、ふと視線をずらすと、こっちに向かってくる人影を見つけた。


白くて。細くて。折れそうな身体。



「セフナ……?」


「え?なに?」
「いや、あれ……」



同じく振り向いたタオに指を指す。
ほとんど直感だ。



「セフナ!」



声を上げれば、小走りで駆け寄ってきた。



「ジョンイニ、ヒョン……?」
「そう。久しぶり。元気だったか?」
「はい……」



こいつはそう。いつもヒョンたちの陰で恥ずかしそうに笑っていた。大人しくて、ただニコニコと。
あんなに小さかったのに、なんてお互い様か。



「セフナ!?」
「え?」



急に声を上げたタオに、セフンもやっぱりびくりと肩を震わせて。なんだか可笑しくて肩を揺らして笑うと、二人に不思議そうに見られた。



「あの……みんなは?」
「あぁ、これ」
「ムーンライトカフェ……?」
「うん。多分あそこ」
「なるほど……」



行く?とタオが声をあげて、そうするか、と3人で歩いた。



「セフナおっきくなったね!」
「はい……」
「確か1個下だったよな。ってことは今高校生?」
「はい……」
「そっかぁ。タオはね、ソウルの大学生!」
「え?」
「留学してるの!すごいでしょ!」
「うん、」
「たくさん頑張ったんだぁ!」
「へぇ……」



タオとセフンの会話を聞きながら、歩みを進める。
あの人はもう来てるのかな……



店が近づくとガラス越しにガンガン叩く音が聞こえて、ぎょっとして見やると、笑顔でブンブンと手を振る4人組。



「あ……!」



気づけば3人とも急いで店のドアを開けていた。




「ジョンイニとー、え?セフナ!?」
「はい……」
「おっきくなったなぁ!」



ベッキョニヒョンと、ジョンデヒョン。
それと…………誰?



「チャニョリヒョンだろ!忘れたのか!!」
「え!だって……」



デブでメガネで……



「おい!声漏れてるから!」
「あ、すみません」
「あはは!もうお前面倒くせぇから名札貼っとけよ!」
「うっせー!」



騒ぐ俺らを横に、「タオ!」と声を上げたのは多分イシンヒョンで。ジョンデヒョンも含めて、3人は中国語で何か話している。
意外と分かるもんだな、なんてやっぱり不思議に思いながら席に着いた。


横を見れば、「セフナ、ホントおっきくなったなぁ!まぁ座れ」ってベッキョニヒョンがセフンを隣に座らせて頭を撫でていて、セフンも嬉しそうに笑っている。


俺はというと、やっぱりあの人を探していた。



「ヒョン、ジュンミョニヒョンは?」
「あぁ、まだだよ」



班長の癖になぁ、なんて向かいのチャニョリヒョンは笑っている。笑った顔は、あの頃のヒョンと同じだった。あ、尖った耳も。



気持ちが逸る。
窓の向こうを覗いて、あの人が来るのを心待にした。




「あ、誰か来た……」



呟くと、みんな一斉に窓の方を見て。



「あと誰だっけ?」
「えーっと、班長二人とルハニヒョンとミンソギヒョンと、あとギョンス」



ベッキョニヒョンが写真を見ながら名前をあげる。



「ギョンスじゃない?多分」



ジョンデヒョンが呟いた。



「ギョンスヤー!」と騒ぐチャニョリヒョンの低い声に違和感を拭えない。
にしても、うるさい客だ。



時計を見れば、12時ちょうどを指していた。



俺の待ち人はまだ来ない。





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