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1、プロローグ

キムジョンデの場合


ヒョンが北京の大学に進学すると言った時、両親も僕も、やっぱりって思った。
そこには家族ですら止められない意志が感じられて、誰一人として反対することはできなかった。
ミンソギヒョンは6年間ずっと、北京の空を求めていたんだ。

ヒョンがいなくなってから、この家の空気はおかしくなった。父さんはさらに帰りが遅くなって、母さんは塞ぎ込むようになった。僕は精一杯明るく振る舞ったけど、その空気を変えることはできなかった。
本当は、僕も北京に行ってしまいたかった。
でもその言葉を口にすることは、すなわち両親を見捨てることに思えて。その背中を追うことはできなかった。



大学に入って1つだけ分かったことがある。

高校からの先輩に誘われて入ったサークルで、僕はそのサークルの男の先輩と関係を持った。
ずっと持ち続けていた焦燥。
埋められなかった心の穴。
先輩たちはヒョンではなかったけど、ヒョンの代わりにはなった。


僕は知っている。
この大学で、僕はちょっとした有名人になっていることを。
声を掛けたら誰でもヤらせてくれる、とかそんな類いの酷く幼稚な噂だ。その噂を鵜呑みにして声を掛けてくるバカももちろんいるけど、相手にはしていない。
僕にだって選ぶ権利はあるんだ。
ホモ野郎って罵られたことだって数回できかない。ホモ野郎で何が悪い。ホモ野郎にも人権はあるだ!なんて、そんな暑苦しいことは思わないけど、だからって世間から隠れることもしたくないと思っている。
これが、今の僕だ。

ヒョンを追いかけることも儘ならなかった、僕のすべて。


『8月8日帰ってくるよね?』

ヒョンに送ったメールは、半日の空白をおいて返信が返ってきた。

『どうするかなぁ』
『えー!一緒に行こうよ!』


だってヒョン、もう3年も帰ってないんだよ?
たまには弟にも会いたいなぁとか思ってくれたっていいじゃん!なんて、心の中で悪態をつく。
ヒョンには僕という弟がいることを、たまには思い出してくれてもいいのに。

ヒョンの背中はいつだって遠くて、僕はいつも泣きたくなるんだ。




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