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1、プロローグ

パクチャチョルの場合


「行ってきまーす!」


家を出て、バイト先へと急ぐ。
何故なら今は夏休み中で、稼ぎ時真っ只中だから。ビアガーデンのバイトは夏休み中だけだから、去年に続き楽しみのひとつでもある。


「あ、チャニョラー!待って!」

玄関で靴を履いていると、ヌナに呼び止められた。

「なにー?」
「今晩会みんなで行くから、席とっといて」
「いいけど何人?」
「んー、3人」
「了解」

着いたら電話鳴らして、と言うと「ありがと」とヌナは笑った。

俺はヌナの腕の中でワン!と吠える愛犬オイの頭を撫でて、今度こそ「行ってきます」と玄関を後にした。

昼間は初夏の陽気と言ってもいいほど暖かくなってきたけど、さすがに朝晩はまだまだ冷える。それにジョッキは重いし、立ちっぱなし走りっぱなしの仕事は体力的にも結構くるんだ。それでも酒飲みの陽気な人たちを相手にするのは嫌いじゃなかったから、今年もこのバイトを選んだ。笑顔は嫌なこともふっ飛ばす力があるって信じてる。
だから俺はいつだって笑うし、俺が笑っていれば周りもハッピーになって。
結果、やっぱり俺もハッピーってわけだ。
おまけに時給もいいし、さらにハッピー!

電車を待つ駅のホームで、あー8月かぁ。なんて携帯の待機画面を見て呟いた。
長かったなぁ、なんてざっくりと振り返る。


この10年で俺は変わった。

何から話したらいいか分からないほど、ありとあらゆることが変わったんだ。
変われた、と思っている。

もう昔の俺じゃない。

殴られるだけの、子供じゃない。


短いようでいてやっぱり長かった俺の10年は、振り返るには濃厚すぎた。思い出したくないこともたくさんある。
それでも、今が幸せだから。
やっと笑えるようになったから。

俺は、俺の人生を恥じたりなんかしないと決めている。




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