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イベントもの

ちょこさんからのお題
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最初のセリフが「○○なんて大嫌い」
最後のセリフが「やっぱり○○が好き」
というFFを書くこと!
あと、チャニョル攻め!
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ニョルチェン@高校生




あーーもーー!!!
チャニョリなんて大っ嫌い!!




3日前に言われた言葉が、今だもって俺の頭の中をぐるぐると駆け回っている。鼓膜の奥から消えないのだ。

犯人はそう、友人であるキムジョンデ。



「あー、もう面倒くさい。そろそろ機嫌直せよ」
「無理……」
「ハッピーウイルスからハッピー取ったらウイルスしか残んないんだからさぁ」

今のお前なんかただの病原菌だよ?と親友のビョンベッキョンはサラリと失礼なことを言う。

「だってさぁ……」
「そんな気になるなら本人に直接聞けばいいじゃん」
「いやいや、いくらなんでもそれは無理だろ!」


だって、勝手に立ち聞きしたとか思われたくないし。




学校帰り、教室に忘れ物したわ!って取りに戻ったときのこと。覗いた教室からは件のジョンデの雄叫びがして。おいおい、そういうことはもう少し小さな声で言ってくれよ。ってそうじゃなくて……
どんな顔して、どんな話の流れでそんな話になったのか分からないけど、ジョンデはギョンスと二人で放課後の教室で俺が嫌いだと言っていたのだ。
それが、ちょうど3日前の話。

次の日の朝、俺はどんな顔でジョンデと接したらいいのかとあたふたしてたのにもかかわらず、ジョンデは全くもっていつもと変わらない笑顔で、「おはよー!」と手を振った。
正直戸惑いは隠せないし、嫌いだと言われた相手に優しく出来るほど俺の心は広くない。だから俺はこうして親友のベッキョンにぐだぐだと文句を垂れてるのだけど。


「つーかさぁ、そもそもあのキムジョンデがそんな意味もなく簡単に好きとか嫌いとか言うかよ。お前の聞き間違えじゃないの?」
「いやいやそうかもだけど……俺ちゃんとこの耳で聞いたし」

ヨーダに似た自慢の耳を摘まんで言うと、ベッキョンは首を傾げて、うーんと唸った。

「じゃあ、ギョンスに聞いてみれば?」
「ギョンスかぁ……」

絶対相手にしてくれない気がする。うん。だってあいつはいつでも俺よりもジョンデを優先するような奴だから。
俺が宿題とか分からないところを聞こうとしても無言で真顔で睨んでくるくせに、ジョンデには丁寧に教えてたりして。扱いが、全然違うのを俺は知っているんだ!

「無理だろ」
「うん、俺もそう思う」
「おい!」

きゃはは、とベッキョンが笑う側で、俺は思い切り机に突っ伏した。

くそっ!ジョンデに嫌われるようなこと、何かしたか!?なんなんだよ、急に!

はぁ!と大きく肩を揺らして溜め息が漏れる。

あの時のジョンデの声は、何て言うかこう……心の底からみたいな感じで、俺の心をグサリと刺すには十分だったわけで。
俺はその言葉にただただショックを受けて、昇降口まで引き返すのがやっとで。とにかく俺はジョンデに嫌われているという事実を噛み砕くのに精一杯だった。




俺とジョンデは仲がいいかと聞かれると、まぁいいにはいいけど……親友かと聞かれるとそうでもないような……俺とベッキョンとギョンスとジョンデと。よくつるむ仲ではあるんだけど、言ってしまえば3人の中では一番遠い存在な感じだ。いや、だからって仲が悪いとか嫌いとかでは全然なくて、他のクラスメートなんかよりは格段に親しい部類なんだけど……
つまりどういうことかというと、俺にとってジョンデは、"いつも笑顔で優しくていいヤツ"って以外には特に何もない。
なのにいきなり嫌いとか言われたから。その……思いっきり頭を横から殴られたみたいな衝撃だった。

そんなわけで、あの発言から向こう、俺の頭はずっとジョンデのことがぐるぐると回っている。



「ちょっと、チャニョルくん!」
「え!?」

数学の時間に前からまわってきたプリントに気付かずにぼんやりとジョンデの背中を眺めていると、前の席の女子に怒られた。

「あ、ごめん!」

慌てて受け取って後ろへとまわす。
戻り際にまたふとジョンデの方を見やると、ちょうどジョンデもちらりと振り返っていて、俺を見てくすくすと笑った。


「(ばーか)」



声に出さずに口だけで言うジョンデにシッシッと追い返すように手を降って返すと、ジョンデは笑顔をこぼしながら前に向き直っていった。
俺の視線の先には、またジョンデの小さな背中。


なんでこんなに恥ずかしくなってんだ、俺……!





『なぁ!今日天気いいから、昼飯屋上にしない?』

三時間目の数学が終わって携帯を見ると、ベッキョンからメッセージが入っていた。
グループトークのその部屋にはもちろんジョンデもいて、ピョコンとオッケーのスタンプが浮かび上がると、ベッキョンに向かって「いーよー!」と大きな声で手を振っていた。
これって文字で送る意味あるのかよ、とか思いつつも俺もスタンプを押したあとベッキョンに向かって手を上げてヒラヒラと振って見せた。ギョンスからも無言でオッケーのスタンプが送られてきたけど、ギョンスは声はあげなくて、でもスタンプはいつものちょっと可笑しなキャラクターで。本人とちっとも似合ってなくて毎回笑ってしまうやつだ。


『僕、自販機寄ってから行くけど、何かいる人いる?』

またポップアップが浮かび上がって、ジョンデがいつもの如く気を利かせる。

『お茶よろしくー』
『了解』

当然のようにベッキョンが頼んで、ジョンデのスタンプが返ってくる。
いつもなら俺もついでに頼むところなんだけど、やっぱり何となくそんな気にはなれなくて返信を躊躇っていると、何を思ったのかベッキョンが『チャニョリもたまには手伝ってやれよ』と打ってきた。


は!?


反射的に画面から顔を上げてベッキョンを見ると、悪い顔で笑っているビョンベッキョン……
あぁ、知ってるよ。お前はそういうヤツだよな。


『一人で大丈夫だよ』とジョンデが言う。

『とか言っていっつもジョンデが買いに行ってるじゃん』

いやいや、だったらお前が行けよ!
頼んでるの主にベッキョナだろ!

『ついでだから本当に大丈夫だよ~』とジョンデの念押し。


あぁ、何で俺は……



『いいよ、たまには付き合うよ』



無意識に文章を作り出す俺の指。
急に鳴り出した四時間目の始業のチャイムに驚いて、俺の指はそのまま送信ボタンを押していた。


おー まい がー






「じゃ、先行って場所とっとくわ~」


そう言ってベッキョンはギョンスを連れ立って屋上へと向かってしまった。

「さ、僕たちも行くか」
「ん?あ、あぁ……!」

ジョンデと二人、弁当片手に購買へと続く廊下を歩く。
なんとなーーーく気まずいのは俺だけだろうか……


「ねぇ、チャニョラ」

階段に差し掛かったところで、ジョンデは口を開いた。

「……!ん!?な、なに!?」
「あはは!なんでそんなビビってんの?」

八の字に眉を垂らして大口を開けてジョンデは笑う。

ジョンデと二人きりになるのはいつ以来だろうか。意外と珍しいような気もするし、そうでもないような気もして、よく分からない。だって今までそんな事気にしたこともなかったから。


「ねぇ、もしかしてなんだけどさぁ……言いづらかったら別にいいんだけど……」

さっきまで笑っていたはずのジョンデは、気付くと驚くほどの落差で下を向いてモゾモゾと言いにくそうに口を開いた。


「あ、いや、ただの僕の勘違いかもしれないんだけどさぁ……」

「なに……?」


立ち止まって聞き返すとジョンデも立ち止まって、それから。


「もしかして、僕……避けられてる?」

「え…………!?」

びくん、と一瞬心臓が飛び上がった。

「そ、そんなことないけど!」

なに言ってんだよ!と笑う俺の笑顔は、鏡を見なくても引き摺ってるのが分かるほどだ。頬骨がピクピクと痙攣している。

「そっか、ならよかった!」

対してキムジョンデは、あまりにも眩しい満面の笑みで返してくるもんだから。あれ?こいつってこんな風に笑うヤツだったっけ?って、俺の頭はプチパニックだ。


「購買混んじゃうね~」と楽しそうに階段をひとつ飛びで下りていく背中を眺めながら、お前こそ俺のこと嫌いなんじゃないのかよ、って声にならない声が俺の脳内を駆け巡った。


マジで意味わかんないって。




購買に行くと人だかりの中でパンを物色してる一年の姿が見えた。

「よー、オセフン」
「あ、ヒョン。ヒョンも何か買うの?」
「買うんですか?だろ!」

油断するとすぐタメ口を利く後輩をどついて笑う。

「飲み物買いにきただけ。お前は?パンなの?」
「はい、早弁しちゃって」

話し込みそうになった俺たちを見て、ジョンデは「先に自販機並んでるね」とさっさと一人で行ってしまった。

「いいんですか?」
「よくないよ」

さすがに一人で並ばせるわけにはいかないから俺も「じゃあな」と切り上げて行こうとした瞬間、今度はドンッと誰かが胸元にぶつかってきて、ぐいっと引っ張られてつんのめりそうになった。

「わぁっ!」
「きゃっ!すみません!!」

胸元には知らない女子。
どうやらぶつかった拍子に髪の毛がボタンに引っ掛かったみたいだ。
俺は、ちょっと待ってね、と丁寧にほどいてあげた。その子は恥ずかしそうに真っ赤な顔で頭を下げて一目散に走っていっちゃって。
なんだったんだろうか、と目の前のオセフンに視線をやると、その顔には大きく『やれやれ、』と書いてあった。

「いや、どう見ても不可抗力だろ!」
「そうですけど、そういう問題じゃないと思いますよ」
「は?」
「言いたくないけど、ヒョンモテますからね」

だから何なんだよ。って、そうじゃなくて……ジョンデ……!


俺は「じゃあな!」とセフンに声をかけて、慌てて自販機の方を向いてジョンデを探した。
ジョンデはすでに人数分のお茶を買っていて、腕に抱えてこっちを見ていた。顔が笑っていなくて、心臓がぞわりと蠢く。

「じょ……ジョンデ!ごめんごめん!」
「ううん、大丈夫」

駆け寄ってペットボトルを抱えてる腕から2本預かった。

「早くしないと昼休み終わっちゃうな!ベッキョナに怒られるじゃん!あはは!」

ベラベラと異様に早口になるこの口に、誰か食べ物でも突っ込んでくれ。意味のわからない気まずさが俺たちの間に漂うんだ。
購買のある1階から屋上まで、4階分の階段を俺たちはこれから二人で上らなきゃいけないっていうのに。





「……チャニョリって、ほんとモテるよね~」


ほらほらほらほら!なにこの感じ!

「別に、そんな事ないって」
「そんな事あるよ。しょっちゅう告られてるじゃん」
「そんな事ないって!マジで……!」

予想以上に大きな声が出てしまって、自分でも驚く。目の前のジョンデも驚いたのかパチリと瞬きを落とした。長い睫毛が小さく揺れた。

「ご、ごめん」
「いや……僕こそ、なんかごめん」

気まずい空気が二人の間を流れる。俯いたジョンデの旋毛が一段下からでも見える。
顔を上げれば多分目線は同じくらいだろうか。
そんなことをごちゃごちゃと考えていた俺の脳内に、立ち止まったジョンデの声がいつもより躊躇いがちにかかった。

「あの、チャニョラ……」
「なに……?」

「僕はさ、本来はもっとスッキリとしたタイプなんだ……こんな風に答えの出ないことを考えたりなんて絶対しないんだよね」
「うん?うん」

ジョンデの言葉の意味が分からなくてただ単純に、そうだろうなって心の中で相槌を打つ。

「なのに……」
「なのに?」
「だから……」
「だから?」

「だからその……!チャニョリが好きだってこと!」

ジョンデは自慢のその大きな声で、真正面から叫んだ。思わず風圧で吹き飛びそうなほどだ。
ってゆーか。

「は……!?好き……?なんで!?大っ嫌いじゃなくて?」
「え?なんで?嫌いなわけないじゃん!好きだって言ってんのに!」
「だってこの前放課後教室でギョンスと……」
「えぇ!あれ聞いてたの!?」
「あ、いや……」
「あれはその、つまり……」


『あーーもーー!!!チャニョリなんて大っ嫌い!!』
『……ふーん』
『ちょっと!冷たすぎ!もうちょっと親身になってよ!』
『だって、どうせ本心じゃないだろ』
『そ、それはそうだけど……もー!ギョンスのバカ!』
『はいはい』
『はぁーーー!なんであんなにモテるんだよ!さっきも女の先輩から告られてたし!意味わかる?僕だって女に生まれてたら少しは……』
『別にそういう話じゃないと思うけど』



「……ってギョンスに怒られたという話で、別に本心で大っ嫌いって訳じゃ……」


その突き出した頬骨を赤く染めて、ジョンデは手持無沙汰にお茶のペットボトルを弄る。
俺はさっきの爆風で完全に停止していた脳みそをちょっとずつ動かした。
えーっと、つまり……

「俺が女にモテるからムカつくってこと……?」
「あ、いや、えっと……違わなくないけどなんてゆーか、その言い方なんかムカつく」
「え?あ、ごめん!でもモテるからムカつくってことだろ?まぁ、そういう意味では事実かもしれないけどな!」
「いや、そういう話じゃなくて!」

「なんだーーー!!!よかった!!!もー、俺ジョンデに嫌われること何かしたのかと思ってずっと気になってたじゃん!なんだよー!好きの裏返しとか可愛いすぎかよ!あー、よかった!そっか、そっか!俺のこと好きなのか!そっか!うんうん、ってえ……?」


目の前のジョンデはさらに真っ赤な顔でこちらを見ていて、あれ……えーっと……

「…………すすすすすすすすき!?」

「何回も言うなよ」
「ごめん……」
「もういい!!」
「あ、ちょっと待って!」

駆け上がるジョンデを追いかけるように俺も階段を登った。

捕まえるなら今しかない。と、それだけはどんなに鈍いと言われてきた俺にも分かるような気がする。


「おーい!キムジョンデ!!返事聞かなくていいのー?」


数段低いところから逃げる背中に向かって声を上げた。


「え!?へ、返事!?」
「おぉ、さっきの熱烈な告白の返事!」
「熱烈って……!!」

思わず立ち止まったジョンデとの距離を埋める様に、俺は一段一段と階段を登った。
そうして一段下の、同じような目線になる高さのところで止まる。
ジョンデの斜め下。振り向いたジョンデと重なる視線。
ジョンデってこんな顔してたんだな、って。何度もみんなでからかった垂れ下がった眉や、跳ねあがった目尻。意外と長いまつ毛や、ハネた前髪や、こめかみのホクロ。引き結んで上がった口角は、片方が小さく震えていた。

「あのさ、」

ぱちりと瞬きをしたジョンデに向かって口を開く。


「友だちからお願いします、ってのはアリ?」
「……と、友だち?」
「いや、今ももちろん友だちだと思ってるんだけどさ、俺ら意外と知らないこと多いんじゃないかなぁって」

だってあの瞬間、あのジョンデが俺を好きだと言った瞬間、もっと何か違う関係性を作れるんじゃないかって気付いちゃったから。

「それって、発展する可能性ある?」
「う~ん、多分?」

考えて答えると、ジョンデは少し黙り込んで、「じゃあいいよ」と笑った。


「よかった!ってなんかコレ、俺が告ったみたいになってんじゃん!」
「あはは!気付いた?」

「当たり前だろ!」って時計を見たら昼休みはもう半分ほど終わっていて。

「やば!!ベッキョナに怒られる!!」

そう言ってジョンデの肩に腕をまわして二人して階段を駆け上がった。
ジョンデは擽ったそうに笑っていて、俺の心臓は早さを増す。

うん、これが正解な気がする。



屋上のドアを開ける寸前、「やっぱりチャニョリが好き」と呟いたジョンデの声で一気に赤くなった俺は、この後ドアの向こうで盛大に二人から攻撃を受けることになるのは、また別のお話。



おわり
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