最後の恋シリーズ
心が震えるような恋、
あなたはしたことありますか?
僕にとってのそれは、彼に出会ったときだった。
幼かった僕たちは、恋の仕方を知らなかったんだ。
求めるままに熱をぶつけ合って。傷ついて、傷つけて。それでも彼を愛していた。
真っ直ぐに僕を見つめる瞳が、今もまだ忘れられない。
「ギョンスは恋人とか作らないの?」
「あぁー、うん、僕はいいです。そういうのは」
「もったいないなぁ。モテるのに」
モテるのはジュンミョニヒョンの方だ。男にも女にも、彼はモテる。誠実な人柄は、真っ直ぐに愛されて育った証拠。僕はこの人を嫌いな人に出会ったことがない。
そんな彼の恋人が取引先の人間だということを社内で知っているのは、おそらく僕以外にはいないだろう。
「ヒョンこそ、ファンさんとは順調?」
聞けば照れた笑いを浮かべて「うん、まぁ」と溢す。
好きだった人はいる。
いや、今もまだ好きなのかもしれない。ほんの小さなきっかけで離れてしまった彼のことを。あんなに誰かを好きになったのは初めてだった。そして、これから先きっと味わうことのないだろう熱量を思い出す。
ジョンインと付き合っていたのは高校生の頃だった。
好きで好きで、気が狂いそうなほど好きで。彼のいない人生なんて考えられなかったし、一分一秒離れていたくなかった。だけど、大学生四年分と社会人になって二年分、僕は彼から離れたままだ。人間なんて簡単なものだ。
けれどその間、僕が誰とも付き合えないでいるのは、きっとジョンインのせいなんだろうな、なんて思うと、もう面影も危うい彼のことが少しだけ憎らしくなった。今もなお、僕の心を掴んで離さない彼のことを。
「ギョンスは、誰か好きな人でもいるの?」
「え……、」
「忘れられない人、とか」
頑なに恋を拒む僕にヒョンは呆れたような心配するような顔を向けて言った。
「さぁ。いたような気もするけど、忘れました」
「そっか……」とヒョンは苦笑する。
誰かを愛して、傷つけて傷ついて。そういうのが、単に僕には向いてないだけだと思う。心を乱されて、自分が自分でなくなってしまうような感覚。
『ヒョン!ちゃんと俺のことを見ろよ!』
あの日、声を荒げて言ったジョンインの言葉。最後の方はもう喧嘩しかしていなかったような気がする。酷く苛立ったような顔で射るような真っ直ぐな視線に、僕はもう耐えられなかった。あんなに優しく笑う彼を変えてしまったのは、僕だ。
僕たちの歯車は、いつの間にか噛み合わなくなっていた。始まりはきっと小さな石ころでも挟まったんだろう些細なこと。そこからどんどんずれていって、気付けば取り返しのつかないところまで来ていた。
『僕たちもう、無理だね……』
それは僕から言った一年という短い期間を終わらせる最後の言葉だった。
『……っざけんなよ』
『僕たちは出会わない方がよかったんだ。そしたらこんなに傷つけあうこともなかったんだから』
けれど僕は知っている。
彼に出会わなければ、愛することも知らなかったことを。
さよなら、僕のジョンイナ……
君と過ごした一年は、今も僕にとっての宝物。
彼の熱を、彼の呼吸を、そのしなやかな身体を、暖かい心を、僕は愛していた。
今も、愛している。
何年経っても思うんだ。
苦しいほど愛した彼を、忘れることなんてきっと一生ないだろうって。想い出はいつだって鮮やかで綺麗だから、それだけで僕は生きていける。彼と繋いだ右手が、時折寂しいのはもうずっと気付かないフリをしている。
もう誰にも出会わなくていい。
『ヒョン!』って笑顔で抱き付いてくる彼の思い出だけで充分だ。
これが、僕にとっての最後の恋。
終わり