クリスマスパラレル小話
クリスマスパラレル小話
「「……あ」」
物音で目を覚ますと枕元には見知らぬ人がいたのを覚えてる。
「だぁれ?」
「あ、えっと……」
「……お父さ「ちょっと待って!!」
とっさに助けを呼ぼうとした俺はその人の大きな手に口を塞がれた。
「見ての通り!ほら!サンタクロースだよ!」
ね?と低い声で言うその人を見れば確かに赤い生地に白いふわふわがついた上着のようなものを着ていて。
「サンタさん……?」
「うん!そう!」
「……でも、お髭ないよ?」
「あぁ、俺はまだ若いからね!あ、でもほら、プレゼント持ってきたんだ!」
がさごそと白い袋から取り出したのは綺麗にラッピングされた箱だった。
俺は飛び上がりそうなほど嬉しくて。だけどサンタさんの大きな手で「いい?このことは内緒だよ?」って頭を撫でられたから慌てて両手で口を押さえた。
「じゃ、よい子はちゃんと寝ろよ!」
でっかい笑顔とプレゼントを置いてサンタさんは窓から出て行った。俺は一生懸命に手を振って、一生懸命に目を瞑って眠りについた。
「……ったく、遅い」
「あ、すいません!」
「まだ配るとこたくさん残ってるのに、夜が明けちゃうだろ!」
「そんなこと言って、ルハンさんの足なら間に合いますよね?」
「も、もちろん!早く乗って!」
それはもう10年以上も昔、聖なる夜の出来事だった。
「クリスマス、か……」
「ベッキョナ、どうしたの?」
「……へ?」
「今、クリスマスか、って」
大学の帰り、友人のジョンデと喫茶店でお茶してたところ、窓の向こうのイルミネーションが目に入ってぼんやりと眺めていた。
12月に入れば街は一気にクリスマス仕様だ。赤と白を見れば、うっすらと記憶に蘇るあの日の夜。朧気な記憶はあの夜を夢だったんじゃないかと勘違いさせるけど、俺の部屋にはいまだにあの日もらったプレゼントのブリキのおもちゃが眠っている。
いい大人の俺には、サンタクロースなんて子供騙しだって分かってるハズなのに、あの夜の出来事は変えようのない事実で───
「なに、もしかしてクリスマスになんか予定でもあるの?」
ジョンデはニヤリと笑って言った。
「は……?」
「もしかしてデートとか!?」
「ないよ、そんなん」
知ってんだろ、ってぼやくと、「だよねー!」とさらに笑った。
バカにされてるような気もするが、こいつも似たようなもんかって思うからまぁ、特に腹は立たない。
「なぁ……」
「んー?」
俺は初めてサンタクロースとの約束を破ることにした。
「お前、サンタクロースって信じる?」
「は……?」
まぁ、確かに「は?」だよな。仮にも成人した男が言う台詞じゃない。それも真顔で。
俺は慌てて苦笑いを貼り付けた。
「ごめん!なんでもないわ!忘れて!」
そう言ったのにジョンデは……ジョンデも、真顔で固まっていた。
「ねぇ、ベッキョナ……えっと、頭おかしいと思って聞いてもらっていいんだけどさ」
「な、なに?」
「僕さ、僕……、昔小さいときにサンタさん見たことあるんだよね……」
「え……?」
「あ、いや、あの……親がサンタの格好をしてたとか、何かのイベント会場で見たとかそういうのじゃなくて……多分本物のサンタ。だってソリに乗って空を走っていったんだから」
ジョンデが言い終わるや否や、俺はジョンデの腕を掴んでいた。
「……な、なに!?」
「いや、あのな、実は俺も……」
───見たことあるんだ。
サンタ、って続けると、ジョンデは顔中の穴という穴をかっ開いて驚いた。
「ほんとに!?」
「あぁ。話もした」
「うっそ……!」
ジョンデは俺の言葉に絶句していた。
「やっぱり……夢じゃなかったんだ……こんな話誰にも出来なくて、夢だっのかなって思ってたんだけど……」
「あるんだろ?証拠が」と聞くとジョンデはコクリと頷いた。恐らくジョンデの元にもあるんだろう。彼らにもらったプレゼントが……
「ねぇ、話したんでしょ?どんな人だった?」
「もう覚えてないよ。ただ若かったのか髭はなかったな」
「へぇ。僕が見たのはね、サンタさんは普通のおじさんで、もちろん髭も生えてたよ。でもね、ソリを引いてたのが……不思議なんだけど、トナカイじゃなくてユニコーンだったの」
「ユニコーン?」
「うん」
トナカイの角ってこうじゃん?とジョンデは頭の上から両手を広げる。
「あぁ」
「そうじゃなくてね、こうゆうのだったの」
と今度は額の辺りから片手で拳を突き出して示した。
「なんだそりゃ」
「僕もよく分からなくて本で色々調べたんだ。そしたらユニコーンだった……綺麗な虹色でさ……」
ベッキョナは違うの?と聞くので思い返してみる。
「ソリは外だったしあんまりちゃんと覚えてないけど、多分トナカイだったよ」
「そっか、じゃあ僕たちが見たのは別なんだね……」
「だな……」
せっかく分かり合えると思ったのに、そうできなくて、妙に気落ちした。膨らんだ期待がみるみると萎む。
俺はオレンジジュースを一口啜ってまた窓の外を眺めた。
街行く人たちの群れはクリスマスが近いせいでどことなく浮き足だっていて、みな楽しそうに肩を並べていた。
俺があの日見たサンタクロースは確か、背が高くて、目がでかくて、耳がピンとしてて、髭は生えていなかったけど優しそうな笑顔だったな、なんて。
そう、あの人のように……
「って…………あ!」
「な、なに?」
「いた!サンタ!」
「えぇぇぇ!?」
「あれ!あいつ!あのデカいの絶対サンタ!!」
気が付くと俺は店を出て必死に追いかけていた。
「あの!!」
なんとか追い付いたところで腕を掴んで言うと、振り向いた男はまさに俺が10年以上も昔に会ったサンタの男そのもので。
あまりにも突然の出来事に、俺も頭が真っ白だ。
「……なにか?」
発した声はあの夜と同じ、低く深い声。
「サ、ンタ……?」
「へ?」
「……お前、サンタクロースだよな?俺んとこ来たよな?……うん、間違いない。お前俺んちに来たサンタだ!!」
思わず叫んでいた。
「べ、ベッキョナ!声でかいよ!」
あとから追っかけて来たのかジョンデが俺の肩を叩く。
「えっと……、人違いじゃないですか?」
言って、その男はあの夜と同じ笑顔で笑った。
「え……」
絶対間違いないハズなのに。
忘れてたけど覚えてる。低い声も、驚いたときの大きな目ん玉も、それから笑ったときの優しい笑顔も。
絶対こいつなのに。
「……ふ。ふふ、はははは!」
がくりと肩を落とすと、ジョンデは不適にデカデカと声をあげて笑いだした。
「あなた、サンタですね!」
「……え?」
「普通サンタクロースですか?なんて聞かれて、人違いですよ、何て言う人いませんよ?」
してやったりの顔でジョンデは笑う。
その瞬間、男の笑みはギギギっと音が鳴りそうな程に引きつった。
やばっ!バレた!
その瞬間、頭を過ったのはサンタ法第12条。
『街の人々に存在がバレた者は、その職を辞すこと』
俺はまだサンタを辞めたくないだ!!子どもたちに夢を与えたいんだぁぁぁぁ!!!
「おい、チャニョル、知り合い?」
少し先で待っていてその存在をすっかり忘れていたルハンさんが戻ってきて耳元で囁く。
そうだ、今日はクリスマス前最後の休みってことで、準備に追われてクタクタだった体をリフレッシュさせるべく街に降りてきたんじゃないか!
「いや、知り合いに間違われたみたいです。行きましょう!」
こりゃ助かった、とルハンさんの腕を掴んで歩き出そうと足を踏み出した瞬間、しっかりと握られていた右肘の袖により急ブレーキ。視線で辿れば、最初に声をかけてきた青年だった。
「あの、さ……俺のこと覚えてない?」
青年は俺の視界に顔が入るようにとズイっと踏み込んだ。俺はそのまま後ろに一歩下がる。
そんなこと聞かれたって、正直毎年たくさんの子どもたちの寝顔を見てるんだからいちいち覚えてるわけがない。だけど、
「俺、お前と話したんだけど……お前自分でサンタクロースだよって言ったんじゃん。内緒だよって」
続いた言葉には思い当たることがひとつだけあった。
それは初めて仕事をした年のこと───
まだ部屋に入ることに慣れてなくて、うっかり物音をたててしまって、起きだしちゃった子ども。あんなことは後にも先にも一度だけだ。確かにそんな話をしたような気がするし、目の前の青年のように可愛らしい瞳をしていたような気もする……
「あ……」
「おい、チャニョル……お前まさか……」
ルハンさんが耳打ちをする。
「あ、いやぁ……」
やばい!!!もう俺のサンタ人生は終わりだ!!!これからは倉庫業務とか受発注業務とか地味な仕事に回されるんだ!せっかくサンタ試験の難関を突破してみんなの憧れサンタクロースになったっていうのに!!白い髭が生えるまでサンタをやるはずだったのに!!
はい、俺の人生は終わりました。
そう思うとがっくりと肩が落ちた……
けど、俺、閃きました!さすが!
「チクったら、俺もチクりますよ?」
「は?俺のこと脅すの?」
「そんなまさか」
言って笑顔を貼り付ける。
ルハンさんの秘密なら腐るほと持っている。
毎年毎年、遠回りしてあの人の寝顔見てることとか、寝顔とセルカ撮るために配達中に人間になったり。何年か前には寝顔にキスしようとしてたらさすがにそれは止めたんだっけ。とにかく、俺はルハンさんの秘密ならたくさん持ってるんだ!!
「あのさ、君たち」
観念したのかルハンさんがその人たちに声をかけた。
「バレたら俺たちクビなんだよね。だから、悪いんだけど内緒にしてくんないかなぁ?」
「え!?ルハンさん協力してくれるんですか?」
「脅したくせに……ま、今さら相棒替わるの面倒くさいし」
てことで、よろしく。とルハンさんは目の前の青年たちに笑顔を向けた。この人の笑顔は凶器並みの鋭さを持っている。
「じゃあ、やっぱり……あの日のサンタ?」
目の前の彼が、信じられないといったふうに口許を押さえて目を見開いていた。俺はそれに笑顔でうんうんと頷く。
「やっぱり、いたんだ……」
「内緒だよって言っただろ?」
「だって……」
仔犬のような瞳で甘えたように笑顔を綻ばせる。やっぱり可愛いなぁなんて思って眺めてたら、
「ねぇ、あなたもサンタさん?」
もう一人の青年がルハンさんを指して言った。
「いや、俺はトナカイ」
そう答えた瞬間、「ホントに!?」と声をあげるので、驚いて固まった。
「うん。普段は人間の格好してるけどね」
「……あ、あの!もしかして、お友達にユニコーンはいませんか?!」
ユニコーンと言われて俺たちが思い当たるのは、約一名。いや、約一匹?約一頭?
思わずルハンさんと顔を見あわせる。
「あー、まぁ、いるっちゃいるけど……」
「ホント!?」
「うん、まぁ。もしかして……」
見たの?とルハンさんが聞くと、青年はコクリと頷いた。
おぉ、ジーザス。
俺たちはいつからこんなに仕事か下手くそになったんでしょうか。
「ソリが出発するところを、こっそり見ちゃったんです……」
なんとまぁ。
今後は外に出たあとも気を付けよう。なんて、人のフリ見て何とやら。
「もしかして、その人も人間になるんですか?」
「え?うん、まぁ」
「あの!会わせてください!」
ダメですか?と彼は眉毛を垂らした。
「お、おいジョンデ……」
俺の腕を掴んでいた青年は今度は彼の腕を掴んで止めに入る。
「だってぇ。ベッキョナだけ会えたなんて狡いじゃん。僕も会いたいもん、ユニコーン……」
綺麗だったなぁ。なんて笑顔がこぼれる。
まぁ、確かにレイヒョンはユニコーンの姿でも人間の姿でもとても綺麗で格好いい。
どうしたものかとルハンさんを見れば、彼も苦笑いを浮かべていた。
何故なら…………正にそのユニコーンが彼らの向こうから手を振って近づいてきてるから。今、正に。
あー、バッドタイミング。いや、グッドタイミング??もうよく分からない。
「あれぇ?二人の友達~?」
後ろからのんびりとした声がかかって、青年たちは二人いっぺんに驚いて振り返った。
「あ……!」と声を上げたのは、ベッキョンだっけ?俺を見た方の青年。あ、と声をあげて、やがて笑いだした。
もう一人は目を見開いて固まっている。
どうして彼らがその人がユニコーンだって分かったかって?
答えは至極簡単なのである。
レイヒョンの鞄に付いている大量のユニコーングッズ。それからユニコーン柄のマフラーにユニコーンのワッペンがついた上着、ユニコーンの……以下省略。
とにかくそれが答えだ。
「ユニコーンさん……」
「ん?なぁに?」
「……会いたかったです」
「ふふ。ありがとう」
ちょいちょいちょい!なにこの二人の空気!
ちょっと目を離した隙に、ちゃっかり手を握っているレイヒョン。君もなに顔赤くしちゃってんの!?え!?
「ねぇチャニョラ、僕今年のクリスマスプレゼントは彼でいいよ」
「は……!?」
「良かったな、配達先1件減ったじゃん」
「いやいやいや、最初から配達リストに入ってないですから!」
「じゃあ俺も!プレゼントいらないからサンタくれ!」
「え!?俺っ!?」
「うん!」
「…………クリスマスは忙しくて一緒に過ごせないけど、それでもいいなら……」
「なに本気の回答してんだよ!」
「痛っ!後ろ足キックは勘弁してくださいよ~!」
「人間の時に後ろ足って言うな~!!」
とにかく、今年のクリスマスは賑やかになりそうです。
お願いだから、上司にバレませんように!
おわり
MerryChristmas!!2015
「「……あ」」
物音で目を覚ますと枕元には見知らぬ人がいたのを覚えてる。
「だぁれ?」
「あ、えっと……」
「……お父さ「ちょっと待って!!」
とっさに助けを呼ぼうとした俺はその人の大きな手に口を塞がれた。
「見ての通り!ほら!サンタクロースだよ!」
ね?と低い声で言うその人を見れば確かに赤い生地に白いふわふわがついた上着のようなものを着ていて。
「サンタさん……?」
「うん!そう!」
「……でも、お髭ないよ?」
「あぁ、俺はまだ若いからね!あ、でもほら、プレゼント持ってきたんだ!」
がさごそと白い袋から取り出したのは綺麗にラッピングされた箱だった。
俺は飛び上がりそうなほど嬉しくて。だけどサンタさんの大きな手で「いい?このことは内緒だよ?」って頭を撫でられたから慌てて両手で口を押さえた。
「じゃ、よい子はちゃんと寝ろよ!」
でっかい笑顔とプレゼントを置いてサンタさんは窓から出て行った。俺は一生懸命に手を振って、一生懸命に目を瞑って眠りについた。
「……ったく、遅い」
「あ、すいません!」
「まだ配るとこたくさん残ってるのに、夜が明けちゃうだろ!」
「そんなこと言って、ルハンさんの足なら間に合いますよね?」
「も、もちろん!早く乗って!」
それはもう10年以上も昔、聖なる夜の出来事だった。
「クリスマス、か……」
「ベッキョナ、どうしたの?」
「……へ?」
「今、クリスマスか、って」
大学の帰り、友人のジョンデと喫茶店でお茶してたところ、窓の向こうのイルミネーションが目に入ってぼんやりと眺めていた。
12月に入れば街は一気にクリスマス仕様だ。赤と白を見れば、うっすらと記憶に蘇るあの日の夜。朧気な記憶はあの夜を夢だったんじゃないかと勘違いさせるけど、俺の部屋にはいまだにあの日もらったプレゼントのブリキのおもちゃが眠っている。
いい大人の俺には、サンタクロースなんて子供騙しだって分かってるハズなのに、あの夜の出来事は変えようのない事実で───
「なに、もしかしてクリスマスになんか予定でもあるの?」
ジョンデはニヤリと笑って言った。
「は……?」
「もしかしてデートとか!?」
「ないよ、そんなん」
知ってんだろ、ってぼやくと、「だよねー!」とさらに笑った。
バカにされてるような気もするが、こいつも似たようなもんかって思うからまぁ、特に腹は立たない。
「なぁ……」
「んー?」
俺は初めてサンタクロースとの約束を破ることにした。
「お前、サンタクロースって信じる?」
「は……?」
まぁ、確かに「は?」だよな。仮にも成人した男が言う台詞じゃない。それも真顔で。
俺は慌てて苦笑いを貼り付けた。
「ごめん!なんでもないわ!忘れて!」
そう言ったのにジョンデは……ジョンデも、真顔で固まっていた。
「ねぇ、ベッキョナ……えっと、頭おかしいと思って聞いてもらっていいんだけどさ」
「な、なに?」
「僕さ、僕……、昔小さいときにサンタさん見たことあるんだよね……」
「え……?」
「あ、いや、あの……親がサンタの格好をしてたとか、何かのイベント会場で見たとかそういうのじゃなくて……多分本物のサンタ。だってソリに乗って空を走っていったんだから」
ジョンデが言い終わるや否や、俺はジョンデの腕を掴んでいた。
「……な、なに!?」
「いや、あのな、実は俺も……」
───見たことあるんだ。
サンタ、って続けると、ジョンデは顔中の穴という穴をかっ開いて驚いた。
「ほんとに!?」
「あぁ。話もした」
「うっそ……!」
ジョンデは俺の言葉に絶句していた。
「やっぱり……夢じゃなかったんだ……こんな話誰にも出来なくて、夢だっのかなって思ってたんだけど……」
「あるんだろ?証拠が」と聞くとジョンデはコクリと頷いた。恐らくジョンデの元にもあるんだろう。彼らにもらったプレゼントが……
「ねぇ、話したんでしょ?どんな人だった?」
「もう覚えてないよ。ただ若かったのか髭はなかったな」
「へぇ。僕が見たのはね、サンタさんは普通のおじさんで、もちろん髭も生えてたよ。でもね、ソリを引いてたのが……不思議なんだけど、トナカイじゃなくてユニコーンだったの」
「ユニコーン?」
「うん」
トナカイの角ってこうじゃん?とジョンデは頭の上から両手を広げる。
「あぁ」
「そうじゃなくてね、こうゆうのだったの」
と今度は額の辺りから片手で拳を突き出して示した。
「なんだそりゃ」
「僕もよく分からなくて本で色々調べたんだ。そしたらユニコーンだった……綺麗な虹色でさ……」
ベッキョナは違うの?と聞くので思い返してみる。
「ソリは外だったしあんまりちゃんと覚えてないけど、多分トナカイだったよ」
「そっか、じゃあ僕たちが見たのは別なんだね……」
「だな……」
せっかく分かり合えると思ったのに、そうできなくて、妙に気落ちした。膨らんだ期待がみるみると萎む。
俺はオレンジジュースを一口啜ってまた窓の外を眺めた。
街行く人たちの群れはクリスマスが近いせいでどことなく浮き足だっていて、みな楽しそうに肩を並べていた。
俺があの日見たサンタクロースは確か、背が高くて、目がでかくて、耳がピンとしてて、髭は生えていなかったけど優しそうな笑顔だったな、なんて。
そう、あの人のように……
「って…………あ!」
「な、なに?」
「いた!サンタ!」
「えぇぇぇ!?」
「あれ!あいつ!あのデカいの絶対サンタ!!」
気が付くと俺は店を出て必死に追いかけていた。
「あの!!」
なんとか追い付いたところで腕を掴んで言うと、振り向いた男はまさに俺が10年以上も昔に会ったサンタの男そのもので。
あまりにも突然の出来事に、俺も頭が真っ白だ。
「……なにか?」
発した声はあの夜と同じ、低く深い声。
「サ、ンタ……?」
「へ?」
「……お前、サンタクロースだよな?俺んとこ来たよな?……うん、間違いない。お前俺んちに来たサンタだ!!」
思わず叫んでいた。
「べ、ベッキョナ!声でかいよ!」
あとから追っかけて来たのかジョンデが俺の肩を叩く。
「えっと……、人違いじゃないですか?」
言って、その男はあの夜と同じ笑顔で笑った。
「え……」
絶対間違いないハズなのに。
忘れてたけど覚えてる。低い声も、驚いたときの大きな目ん玉も、それから笑ったときの優しい笑顔も。
絶対こいつなのに。
「……ふ。ふふ、はははは!」
がくりと肩を落とすと、ジョンデは不適にデカデカと声をあげて笑いだした。
「あなた、サンタですね!」
「……え?」
「普通サンタクロースですか?なんて聞かれて、人違いですよ、何て言う人いませんよ?」
してやったりの顔でジョンデは笑う。
その瞬間、男の笑みはギギギっと音が鳴りそうな程に引きつった。
やばっ!バレた!
その瞬間、頭を過ったのはサンタ法第12条。
『街の人々に存在がバレた者は、その職を辞すこと』
俺はまだサンタを辞めたくないだ!!子どもたちに夢を与えたいんだぁぁぁぁ!!!
「おい、チャニョル、知り合い?」
少し先で待っていてその存在をすっかり忘れていたルハンさんが戻ってきて耳元で囁く。
そうだ、今日はクリスマス前最後の休みってことで、準備に追われてクタクタだった体をリフレッシュさせるべく街に降りてきたんじゃないか!
「いや、知り合いに間違われたみたいです。行きましょう!」
こりゃ助かった、とルハンさんの腕を掴んで歩き出そうと足を踏み出した瞬間、しっかりと握られていた右肘の袖により急ブレーキ。視線で辿れば、最初に声をかけてきた青年だった。
「あの、さ……俺のこと覚えてない?」
青年は俺の視界に顔が入るようにとズイっと踏み込んだ。俺はそのまま後ろに一歩下がる。
そんなこと聞かれたって、正直毎年たくさんの子どもたちの寝顔を見てるんだからいちいち覚えてるわけがない。だけど、
「俺、お前と話したんだけど……お前自分でサンタクロースだよって言ったんじゃん。内緒だよって」
続いた言葉には思い当たることがひとつだけあった。
それは初めて仕事をした年のこと───
まだ部屋に入ることに慣れてなくて、うっかり物音をたててしまって、起きだしちゃった子ども。あんなことは後にも先にも一度だけだ。確かにそんな話をしたような気がするし、目の前の青年のように可愛らしい瞳をしていたような気もする……
「あ……」
「おい、チャニョル……お前まさか……」
ルハンさんが耳打ちをする。
「あ、いやぁ……」
やばい!!!もう俺のサンタ人生は終わりだ!!!これからは倉庫業務とか受発注業務とか地味な仕事に回されるんだ!せっかくサンタ試験の難関を突破してみんなの憧れサンタクロースになったっていうのに!!白い髭が生えるまでサンタをやるはずだったのに!!
はい、俺の人生は終わりました。
そう思うとがっくりと肩が落ちた……
けど、俺、閃きました!さすが!
「チクったら、俺もチクりますよ?」
「は?俺のこと脅すの?」
「そんなまさか」
言って笑顔を貼り付ける。
ルハンさんの秘密なら腐るほと持っている。
毎年毎年、遠回りしてあの人の寝顔見てることとか、寝顔とセルカ撮るために配達中に人間になったり。何年か前には寝顔にキスしようとしてたらさすがにそれは止めたんだっけ。とにかく、俺はルハンさんの秘密ならたくさん持ってるんだ!!
「あのさ、君たち」
観念したのかルハンさんがその人たちに声をかけた。
「バレたら俺たちクビなんだよね。だから、悪いんだけど内緒にしてくんないかなぁ?」
「え!?ルハンさん協力してくれるんですか?」
「脅したくせに……ま、今さら相棒替わるの面倒くさいし」
てことで、よろしく。とルハンさんは目の前の青年たちに笑顔を向けた。この人の笑顔は凶器並みの鋭さを持っている。
「じゃあ、やっぱり……あの日のサンタ?」
目の前の彼が、信じられないといったふうに口許を押さえて目を見開いていた。俺はそれに笑顔でうんうんと頷く。
「やっぱり、いたんだ……」
「内緒だよって言っただろ?」
「だって……」
仔犬のような瞳で甘えたように笑顔を綻ばせる。やっぱり可愛いなぁなんて思って眺めてたら、
「ねぇ、あなたもサンタさん?」
もう一人の青年がルハンさんを指して言った。
「いや、俺はトナカイ」
そう答えた瞬間、「ホントに!?」と声をあげるので、驚いて固まった。
「うん。普段は人間の格好してるけどね」
「……あ、あの!もしかして、お友達にユニコーンはいませんか?!」
ユニコーンと言われて俺たちが思い当たるのは、約一名。いや、約一匹?約一頭?
思わずルハンさんと顔を見あわせる。
「あー、まぁ、いるっちゃいるけど……」
「ホント!?」
「うん、まぁ。もしかして……」
見たの?とルハンさんが聞くと、青年はコクリと頷いた。
おぉ、ジーザス。
俺たちはいつからこんなに仕事か下手くそになったんでしょうか。
「ソリが出発するところを、こっそり見ちゃったんです……」
なんとまぁ。
今後は外に出たあとも気を付けよう。なんて、人のフリ見て何とやら。
「もしかして、その人も人間になるんですか?」
「え?うん、まぁ」
「あの!会わせてください!」
ダメですか?と彼は眉毛を垂らした。
「お、おいジョンデ……」
俺の腕を掴んでいた青年は今度は彼の腕を掴んで止めに入る。
「だってぇ。ベッキョナだけ会えたなんて狡いじゃん。僕も会いたいもん、ユニコーン……」
綺麗だったなぁ。なんて笑顔がこぼれる。
まぁ、確かにレイヒョンはユニコーンの姿でも人間の姿でもとても綺麗で格好いい。
どうしたものかとルハンさんを見れば、彼も苦笑いを浮かべていた。
何故なら…………正にそのユニコーンが彼らの向こうから手を振って近づいてきてるから。今、正に。
あー、バッドタイミング。いや、グッドタイミング??もうよく分からない。
「あれぇ?二人の友達~?」
後ろからのんびりとした声がかかって、青年たちは二人いっぺんに驚いて振り返った。
「あ……!」と声を上げたのは、ベッキョンだっけ?俺を見た方の青年。あ、と声をあげて、やがて笑いだした。
もう一人は目を見開いて固まっている。
どうして彼らがその人がユニコーンだって分かったかって?
答えは至極簡単なのである。
レイヒョンの鞄に付いている大量のユニコーングッズ。それからユニコーン柄のマフラーにユニコーンのワッペンがついた上着、ユニコーンの……以下省略。
とにかくそれが答えだ。
「ユニコーンさん……」
「ん?なぁに?」
「……会いたかったです」
「ふふ。ありがとう」
ちょいちょいちょい!なにこの二人の空気!
ちょっと目を離した隙に、ちゃっかり手を握っているレイヒョン。君もなに顔赤くしちゃってんの!?え!?
「ねぇチャニョラ、僕今年のクリスマスプレゼントは彼でいいよ」
「は……!?」
「良かったな、配達先1件減ったじゃん」
「いやいやいや、最初から配達リストに入ってないですから!」
「じゃあ俺も!プレゼントいらないからサンタくれ!」
「え!?俺っ!?」
「うん!」
「…………クリスマスは忙しくて一緒に過ごせないけど、それでもいいなら……」
「なに本気の回答してんだよ!」
「痛っ!後ろ足キックは勘弁してくださいよ~!」
「人間の時に後ろ足って言うな~!!」
とにかく、今年のクリスマスは賑やかになりそうです。
お願いだから、上司にバレませんように!
おわり
MerryChristmas!!2015