最後の恋シリーズ
160127 世界でいちばん幸せな場所 チャンベク
揃って合コンに行くとき、それはあまりにも滑稽に見える。
「うわっ!すっごい香水臭いんだけど!」
「やっぱり?座ってるときもすごい臭かったんだよな」
「早くシャワー浴びろー!」
「あ、一緒に入る?」
「やなこった!」
疑われるぐらいなら一緒に行った方がマシじゃん、と言ったのはチャニョルで。その時は意味わかんねぇって思ったけど、今となればそれは正しかったように思う。
「臭っ!」
チャニョルが脱いだ上着をハンガーに掛け、キツい香水の匂いに顔をしかめながら、ファブリーズを大量に振りかけた。
「散れ!馴れ馴れしく触りやがって!!」
匂いの元を見ているので余計な嫉妬はしないけど、やっぱり嫌なものは嫌だ。
「ふぅ、さっぱりしたー」
頭を拭きながら出てきたチャニョルに近づいてクンクンと鼻を鳴らす。
うん、シャンプーの匂いしかしない。
「合格?」
「合格!」
にかり、と大きな笑顔を向けられる。
「さ、俺もシャワーしてくるかなぁ」
「あ!ちょっと待って!」
「なに?」
振り向いた瞬間に唇を合わせられる。
軽く触れたそれに思わず眉間にシワを寄せると、チャニョルは「かわいい」と言ってやっぱりにかりと大きな笑顔で笑った。
部署は違えど同期入社。
チャニョルは交遊関係も広くて仕切りたがり屋だったので、入社当初から飲み会やら合コンやら、とにかくよく頼まれていた。すげぇな、こんな奴もいるんだな、って傍観してたのに話してみたら何かとウマがあったのか同期の中でも一番に親しくなっていて。そして一番の親友は、気がつくと恋人になっていた。
マメで世話好きで器用貧乏。
自分のことから他人のことまで常に忙しくて、一体いつ俺のこと考えてるんだ?って不思議に思うけど記念日は絶対に忘れない、そんな奴だ。俺の恋人は。
で、合コンのセッティングを頼まれることもしばしば。俺はチャニョルが誘いを断るのが苦手なことを知っているので、仕方ないじゃんって苦笑したら、上記のようなやりとりにより、毎回揃って合コンに行くことになった。
もちろん、そこでは見たくもないものを見せられるのだけれど、チャニョルは驚くほどさらりと交わすので妙なことは考えなくてもいいのはありがたい。俺の恋人は、俺にとても誠実だ。
「チャニョラー、ドライヤー」
「はいはい~」
チャニョルの長い足の間に座ってドライヤーをかけてもらうのはいつもの日課。そこで一日の出来事を話したりもする。
「結構飲んだ?」
「いや~、そんなでもない。チャニョラは?」
「うん俺も。飲んだフリしてたかな」
「はは!俺もー。でもあいつらうまくいきそうで良かったな!」
「うん、なんとか」
あの会社の子とお近づきになりたいから合コンを開いてほしいと頼んできた後輩が、今日、意中の子と上手いこと行きそうだ。すごく必死に口説いていたので、上手くいきそうで本当に何よりだと思う。それできっと週明けに出社したら、あの後輩はチャニョルに「先輩!ありがとうございました!」って言うんだろうな。それでチャニョルは俺に自慢げに満面の笑みで報告するのだろう。俺は、そんなチャニョルを見るのが好きだったりするから、なんかもう本当にバカだと思う。
チャニョルだってもちろんめちゃくちゃモテるから近寄ってくる女も毎回いるのに。それを俺は何食わぬ顔で見てるけど、まぁ、ムカつくもんはムカつくわけで。でも女たちの香水は、シャンプーや石鹸やファブリーズなんかでモノの見事に掻き消されて、あとは俺に甘い甘いチャニョルが残るだけだから、結局、まぁいいかって思うんだ。
「チャニョラー、俺腹へったぁ」
「なに食べる?何あったかなぁ。ラーメンとかでいい?」
「うん、いーよー」
「よし!待ってろ!」
「よっ!さすが俺の自慢の彼氏!」
えっへん!って菜箸持って胸を張るチャニョルが俺は堪らなく愛おしい。
「そういえばさぁ、ジョンインくんだっけ?あのギョンスんとこの新人」
ベッドにごろりと寝転んで、チャニョルの腕を引っ張りながら頭の位置がしっくり来る体勢を探る。
「あぁ、うんそう」
「あいつとギョンス、なんか怪しいかもよ?」
「え!?なにそれ!どういうこと!?」
俺の髪の毛を弄っていたチャニョルが盛大に声をあげたので、体がビクリと反応した。
「声でかいし!」
「あ、ごめんごめん」
「こないださぁ、非常階段のとこで見たんだ。随分楽しそうに笑ってた」
「マジで!?ギョンスが!?」
「そう、ギョンスが。怪しいよなぁー。チャニョリどう思う?」
「うーん、とりあえず問い詰める?」
「だよな?」
「よし!週明け拉致だ!」
あはは、って二人で笑って。
今日も俺はチャニョルの長い腕に抱き締められて眠る。
それは俺の、世界でいちばん幸せな場所。
おわり
揃って合コンに行くとき、それはあまりにも滑稽に見える。
「うわっ!すっごい香水臭いんだけど!」
「やっぱり?座ってるときもすごい臭かったんだよな」
「早くシャワー浴びろー!」
「あ、一緒に入る?」
「やなこった!」
疑われるぐらいなら一緒に行った方がマシじゃん、と言ったのはチャニョルで。その時は意味わかんねぇって思ったけど、今となればそれは正しかったように思う。
「臭っ!」
チャニョルが脱いだ上着をハンガーに掛け、キツい香水の匂いに顔をしかめながら、ファブリーズを大量に振りかけた。
「散れ!馴れ馴れしく触りやがって!!」
匂いの元を見ているので余計な嫉妬はしないけど、やっぱり嫌なものは嫌だ。
「ふぅ、さっぱりしたー」
頭を拭きながら出てきたチャニョルに近づいてクンクンと鼻を鳴らす。
うん、シャンプーの匂いしかしない。
「合格?」
「合格!」
にかり、と大きな笑顔を向けられる。
「さ、俺もシャワーしてくるかなぁ」
「あ!ちょっと待って!」
「なに?」
振り向いた瞬間に唇を合わせられる。
軽く触れたそれに思わず眉間にシワを寄せると、チャニョルは「かわいい」と言ってやっぱりにかりと大きな笑顔で笑った。
部署は違えど同期入社。
チャニョルは交遊関係も広くて仕切りたがり屋だったので、入社当初から飲み会やら合コンやら、とにかくよく頼まれていた。すげぇな、こんな奴もいるんだな、って傍観してたのに話してみたら何かとウマがあったのか同期の中でも一番に親しくなっていて。そして一番の親友は、気がつくと恋人になっていた。
マメで世話好きで器用貧乏。
自分のことから他人のことまで常に忙しくて、一体いつ俺のこと考えてるんだ?って不思議に思うけど記念日は絶対に忘れない、そんな奴だ。俺の恋人は。
で、合コンのセッティングを頼まれることもしばしば。俺はチャニョルが誘いを断るのが苦手なことを知っているので、仕方ないじゃんって苦笑したら、上記のようなやりとりにより、毎回揃って合コンに行くことになった。
もちろん、そこでは見たくもないものを見せられるのだけれど、チャニョルは驚くほどさらりと交わすので妙なことは考えなくてもいいのはありがたい。俺の恋人は、俺にとても誠実だ。
「チャニョラー、ドライヤー」
「はいはい~」
チャニョルの長い足の間に座ってドライヤーをかけてもらうのはいつもの日課。そこで一日の出来事を話したりもする。
「結構飲んだ?」
「いや~、そんなでもない。チャニョラは?」
「うん俺も。飲んだフリしてたかな」
「はは!俺もー。でもあいつらうまくいきそうで良かったな!」
「うん、なんとか」
あの会社の子とお近づきになりたいから合コンを開いてほしいと頼んできた後輩が、今日、意中の子と上手いこと行きそうだ。すごく必死に口説いていたので、上手くいきそうで本当に何よりだと思う。それできっと週明けに出社したら、あの後輩はチャニョルに「先輩!ありがとうございました!」って言うんだろうな。それでチャニョルは俺に自慢げに満面の笑みで報告するのだろう。俺は、そんなチャニョルを見るのが好きだったりするから、なんかもう本当にバカだと思う。
チャニョルだってもちろんめちゃくちゃモテるから近寄ってくる女も毎回いるのに。それを俺は何食わぬ顔で見てるけど、まぁ、ムカつくもんはムカつくわけで。でも女たちの香水は、シャンプーや石鹸やファブリーズなんかでモノの見事に掻き消されて、あとは俺に甘い甘いチャニョルが残るだけだから、結局、まぁいいかって思うんだ。
「チャニョラー、俺腹へったぁ」
「なに食べる?何あったかなぁ。ラーメンとかでいい?」
「うん、いーよー」
「よし!待ってろ!」
「よっ!さすが俺の自慢の彼氏!」
えっへん!って菜箸持って胸を張るチャニョルが俺は堪らなく愛おしい。
「そういえばさぁ、ジョンインくんだっけ?あのギョンスんとこの新人」
ベッドにごろりと寝転んで、チャニョルの腕を引っ張りながら頭の位置がしっくり来る体勢を探る。
「あぁ、うんそう」
「あいつとギョンス、なんか怪しいかもよ?」
「え!?なにそれ!どういうこと!?」
俺の髪の毛を弄っていたチャニョルが盛大に声をあげたので、体がビクリと反応した。
「声でかいし!」
「あ、ごめんごめん」
「こないださぁ、非常階段のとこで見たんだ。随分楽しそうに笑ってた」
「マジで!?ギョンスが!?」
「そう、ギョンスが。怪しいよなぁー。チャニョリどう思う?」
「うーん、とりあえず問い詰める?」
「だよな?」
「よし!週明け拉致だ!」
あはは、って二人で笑って。
今日も俺はチャニョルの長い腕に抱き締められて眠る。
それは俺の、世界でいちばん幸せな場所。
おわり