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第二章

side BH





「あ、昨日シロクマ寄ってフライヤー置かせてもらってきた」
「おぉ!さすが!」


大学の音楽サークルの部室に集まって、ライブに向けて本格的に動き出す。


「ベッキョナの方はチケット捌けそう?」
「うんまぁなんとか。ライブハウスのスケジュールにも入ってるし、SNSにも告知出しといたから」


高校時代の友達や大学の学部の友達なんかにも声は掛けて、ノルマの半分くらいは捌けたから、まぁまぁ出だしは好調といったとこ。

今俺が手元で爪弾いている中古で買ったオレンジ色のストラトキャスターもどきは、すっかり俺の相棒だ。買うときもチャニョルに見てもらって、コードの一つ一つから教えてもらった。暇さえあれば掻き鳴らして、少しずつ上達していくのが嬉しかった。お陰でコードを弾くことくらいは出来るようになったけど、ギターソロみたいなのはやっぱりまだまだ難しい。


「そう言えば、リズム隊はオッケーだって?」
「あぁ、そうそう。大丈夫だって!」
「そっか!よかった!」


俺たちは正式なバンドメンバーを持つバンドじゃないから、ライブの度にリズム隊のメンバーを探す。まぁ、大体はチャニョルのつてとかサークルのメンバーとかなんだけど。ちなみに今回は前回と同じくサークルのメンバーで決まった。あとは練習だ。



その時、あっ!とチャニョルが声を上げた。


「なんだよ」
「むふふ。この前言ってた新曲、実は……完成しちゃいましたー!」


言ってチャニョルは大袈裟に腕を広げた。


「お、マジで?!」
「うん。待って、今デモ聴かせるから」


そう言って鞄を漁るとチャニョルはiPodを出してプレーヤーにセットした。

聴こえてきたのは軽快なギター音。アップテンポで、ライブだときっと盛り上がる。というか、ライブ重視の曲のようだ。チャニョルらしいハッピーな曲。俺も思わず笑顔になった。

そんな俺を見ながらチャニョルは「どう?どう?」と楽しそうに恥ずかしそうに尻尾を振っている。


「うん、すごいいい曲!さすがチャニョラ!」
「でしょ!でしょ!」
「早くライブで歌いたい!」
「サンキュー!」


飛び付いて抱き付かれて。
待て待て、俺は心臓の準備が必要なんだから。さすがハッピーウイルスは伊達じゃないな。


「早くベッキョナに聴かせたくてさ!お前に歌ってほしくて作ったんだ!」


恥ずかしいなぁってバシバシ叩かれて。いつものように、ドウドウってなだめて。
俺はいったいいつになったらこいつの飼い主卒業できるんだろう。って、いやだから、俺は飼い主じゃないっての。

飼い主に、なりたいけど……



3-6-5 毎朝君を起こして一日を始めよう

3-6-5 一分一秒離れないようずっと一緒に

君の手を握って

離さない



お前にこんなこと言わせるのは誰だよ。羨ましいな、なんて考えて心臓が痛くなった。

男同士で恋愛の話なんかしないから知らなかったけど、チャニョルにはいるのかもしれない。手を握って離したくないと思う人が。ずっとこのままではいられないんだという事実が、ほんの少し重くのし掛かった。チャニョルに立派な首輪が着く日は近いのかもしれない。

俺はその時、快く送り出せるんだろうか。


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