第一章
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「テスト嫌だぁー!」
昼休みの教室で声を上げたのは自称パンダ。目のまわりの隈が大好きなパンダとお揃いなんだって。そんなのが嬉しいなんて、意味がわかんない。
テスト一週間前のテスト週間に入って、教室内は昼休みと言えど少しピリピリしていた。高3にもなればそれは当たり前で、なのにこのパンダは全然そんな素振りもなくて。
実は意外と成績が良いのも癪にさわる。
「今日からまたシロクマ寄ってくー?」
「うん、まぁいいけど」
テスト前には二人でシロクマで勉強するのが日課。分からないところを聞き合ったりするけど、僕が聞く方が圧倒的に多い気がする。タオはというと、大体ちょっかいをかけてきて邪魔をするばかり。それでもタオの方が成績がいいから、やっぱり癪にさわる。
「いらっしゃい。もうテストの時期?」
「うん、そうなのー」
カランと音をたててシロクマに入ると、タオがいつものようにマスターと挨拶を交わして、二人揃ってメロンフロートを頼んで、教科書を広げた。
「今回範囲広いよねー。嫌だなぁ」
「そんなこと言ったってタオはいつも成績いいじゃん」
「えへへぇ」
感心するくらい誉め言葉は素直に受けとるやつだ。
「あ、そういえば、今日告白された」
「は?いつ?」
休み時間に手紙を渡されたことを思い出して言えば、パンダは喰い気味に反応した。タオのことだからどうせ羨ましいだのズルいだの言うと思ったのに、それは思ってもみない反応で。
「なに?どうしたの?」
俯いてしまったパンダに向かって声をかける。
「返事は?したの?」
「いや、まだだけど?」
「……どうするの?付き合うの?」
「いや、知らない人だし」
そこまで言うと、目の前のパンダはパァっと表情を明るくした。
「そうなんだぁ!よかった!」
「え?なに?」
「ううん、なんでもなーい」
さ、勉強しようよ、って言って笑っている。何がそんなに嬉しいんだよ。パンダめ。
ふと見ると、メロンフロートのアイスは溶け始めていた。
僕の成績なんて、中の中だ。
要するに普通。取り立てて得意な教科があるわけじゃないし、ものすごく苦手な教科があるわけでもない。だから普通の大学に入って普通の会社に就職するんだきっと。
だけどパンダは頭がいいし、スポーツも得意だから、選択肢は当然僕より広い。
タオはどうするんだろう……
進学するとは思うけど、別の大学だろうな、なんて思ったらちょっとだけ寂しくなった。
タオは僕の親友。何かと面倒くさいし四次元なところもあるけど、一緒にいてとても楽だし、周りを気遣ったり、誰かのために怒ったり泣いたりできる優しくて繊細なやつだ。だから、離れ離れになるのはちょっとだけ淋しい。内緒だけど。
「セフナー」
「なに?」
テキストから目線を上げてタオが話しかけてきたのが分かったが、僕はそのままの問題集を解きながら答えた。
「僕たち親友だよね?」
「んー、どうだろう」
「えぇー!!」
「あはは!うそうそ!親友だって」
「そうだよね!よかった!」
「なに?急に」
「んー、別にー?」
急になんなんだ?ってタイミングで話を振る。それがタオだ。
「卒業……したくないねぇ」
「そうだねぇ」
「セフナは将来何になるの?」
「えー、まだ決めてないよ。普通にサラリーマンとかじゃないかなぁ。タオは?」
「僕はねぇ、アクション俳優になりたい」
「……は?」
この年で小学生みたいな答えが返ってくるとは思わなくて、思わず顔をあげた。
いひひ~って顔で笑っている。
普段は鋭い切れ長の目なのに、笑うと一気に柔らかくなって。僕は正直こっちの方が好きだ。
「かっこいいと思わない?」
「いや、まぁ、思うけど……」
「実はね、卒業したら養成学校に通おうかと思ってるんだー!」
「へ?大学に進学しないの?」
「うん」
余りにも突拍子もないことを言うから一瞬戸惑ったけど、まぁ、いつものことかって。
「いいんじゃなーい?」
「あ!セフナも一緒に受ける?」
「僕はいいよ。タオみたいに運動神経よくないし」
「えー!一緒に受けようよ!」
「いいって」
「だってそしたら卒業したらバラバラになっちゃうじゃん」
「……そうだね」
そうやってひとつの季節が終わっていくのかもしれない。
「……やだ」
「は?」
「だから、やだ!」
「いや、そんなこと言われたって。それに、」
卒業したら会えなくなるってわけじゃないじゃん?って言うと、タオはまたパァっと目を輝かせて。
「そっか!そうだね!」
単純。
「タオはきっと向いてるよ。武術も得意だし、イケメンだから」
「ホント?!」
「うん」
タオはきっと、たちまちに人気者になる。お世辞じゃなくそう思った。きっと成功するって。
「でもセフナと離れ離れになるのは淋しい……」
「まだ先じゃん」
「そうだけど……」
言ってタオは俯いてしまった。
「僕ね、思うんだー、最近」
「何を?」
「セフナみたいな人はいないって」
「どういうこと?」
「セフナみたいに、全部見せれる人。どんなに辛いことがあっても、セフナと一緒にいたら全部忘れられるの」
「はは、なにそれ。辛いことなんてあったの?」
「うーん、あったような、なかったような…でもいいんだ!もう忘れたから!だから、えっと、そのくらいセフナが好きってこと!」
えへへとタオは笑った。
「テスト嫌だぁー!」
昼休みの教室で声を上げたのは自称パンダ。目のまわりの隈が大好きなパンダとお揃いなんだって。そんなのが嬉しいなんて、意味がわかんない。
テスト一週間前のテスト週間に入って、教室内は昼休みと言えど少しピリピリしていた。高3にもなればそれは当たり前で、なのにこのパンダは全然そんな素振りもなくて。
実は意外と成績が良いのも癪にさわる。
「今日からまたシロクマ寄ってくー?」
「うん、まぁいいけど」
テスト前には二人でシロクマで勉強するのが日課。分からないところを聞き合ったりするけど、僕が聞く方が圧倒的に多い気がする。タオはというと、大体ちょっかいをかけてきて邪魔をするばかり。それでもタオの方が成績がいいから、やっぱり癪にさわる。
「いらっしゃい。もうテストの時期?」
「うん、そうなのー」
カランと音をたててシロクマに入ると、タオがいつものようにマスターと挨拶を交わして、二人揃ってメロンフロートを頼んで、教科書を広げた。
「今回範囲広いよねー。嫌だなぁ」
「そんなこと言ったってタオはいつも成績いいじゃん」
「えへへぇ」
感心するくらい誉め言葉は素直に受けとるやつだ。
「あ、そういえば、今日告白された」
「は?いつ?」
休み時間に手紙を渡されたことを思い出して言えば、パンダは喰い気味に反応した。タオのことだからどうせ羨ましいだのズルいだの言うと思ったのに、それは思ってもみない反応で。
「なに?どうしたの?」
俯いてしまったパンダに向かって声をかける。
「返事は?したの?」
「いや、まだだけど?」
「……どうするの?付き合うの?」
「いや、知らない人だし」
そこまで言うと、目の前のパンダはパァっと表情を明るくした。
「そうなんだぁ!よかった!」
「え?なに?」
「ううん、なんでもなーい」
さ、勉強しようよ、って言って笑っている。何がそんなに嬉しいんだよ。パンダめ。
ふと見ると、メロンフロートのアイスは溶け始めていた。
僕の成績なんて、中の中だ。
要するに普通。取り立てて得意な教科があるわけじゃないし、ものすごく苦手な教科があるわけでもない。だから普通の大学に入って普通の会社に就職するんだきっと。
だけどパンダは頭がいいし、スポーツも得意だから、選択肢は当然僕より広い。
タオはどうするんだろう……
進学するとは思うけど、別の大学だろうな、なんて思ったらちょっとだけ寂しくなった。
タオは僕の親友。何かと面倒くさいし四次元なところもあるけど、一緒にいてとても楽だし、周りを気遣ったり、誰かのために怒ったり泣いたりできる優しくて繊細なやつだ。だから、離れ離れになるのはちょっとだけ淋しい。内緒だけど。
「セフナー」
「なに?」
テキストから目線を上げてタオが話しかけてきたのが分かったが、僕はそのままの問題集を解きながら答えた。
「僕たち親友だよね?」
「んー、どうだろう」
「えぇー!!」
「あはは!うそうそ!親友だって」
「そうだよね!よかった!」
「なに?急に」
「んー、別にー?」
急になんなんだ?ってタイミングで話を振る。それがタオだ。
「卒業……したくないねぇ」
「そうだねぇ」
「セフナは将来何になるの?」
「えー、まだ決めてないよ。普通にサラリーマンとかじゃないかなぁ。タオは?」
「僕はねぇ、アクション俳優になりたい」
「……は?」
この年で小学生みたいな答えが返ってくるとは思わなくて、思わず顔をあげた。
いひひ~って顔で笑っている。
普段は鋭い切れ長の目なのに、笑うと一気に柔らかくなって。僕は正直こっちの方が好きだ。
「かっこいいと思わない?」
「いや、まぁ、思うけど……」
「実はね、卒業したら養成学校に通おうかと思ってるんだー!」
「へ?大学に進学しないの?」
「うん」
余りにも突拍子もないことを言うから一瞬戸惑ったけど、まぁ、いつものことかって。
「いいんじゃなーい?」
「あ!セフナも一緒に受ける?」
「僕はいいよ。タオみたいに運動神経よくないし」
「えー!一緒に受けようよ!」
「いいって」
「だってそしたら卒業したらバラバラになっちゃうじゃん」
「……そうだね」
そうやってひとつの季節が終わっていくのかもしれない。
「……やだ」
「は?」
「だから、やだ!」
「いや、そんなこと言われたって。それに、」
卒業したら会えなくなるってわけじゃないじゃん?って言うと、タオはまたパァっと目を輝かせて。
「そっか!そうだね!」
単純。
「タオはきっと向いてるよ。武術も得意だし、イケメンだから」
「ホント?!」
「うん」
タオはきっと、たちまちに人気者になる。お世辞じゃなくそう思った。きっと成功するって。
「でもセフナと離れ離れになるのは淋しい……」
「まだ先じゃん」
「そうだけど……」
言ってタオは俯いてしまった。
「僕ね、思うんだー、最近」
「何を?」
「セフナみたいな人はいないって」
「どういうこと?」
「セフナみたいに、全部見せれる人。どんなに辛いことがあっても、セフナと一緒にいたら全部忘れられるの」
「はは、なにそれ。辛いことなんてあったの?」
「うーん、あったような、なかったような…でもいいんだ!もう忘れたから!だから、えっと、そのくらいセフナが好きってこと!」
えへへとタオは笑った。