番外編
side CY
お互いに、お互い以外からは貰わないって決めたのに。ベッキョンは女子からのチョコをこっそり受け取っていた。別に告白を受けた訳じゃないんだからいいじゃん、なんて本人は言っているけど、そういう問題じゃない。
俺たちは付き合い始めてもうすぐ1年半が経つ。順調にやっては来たけど、お互いに見えてなかったことも見えてきて、最近では上手くいかないときもしばしば。
ベッキョンのことは好きだと思うのに、それだけじゃあやっぱりダメなのかなぁとか。
そしてそれから、この二人の仲が良すぎるのも問題の内の1つだ。
「ヒョン、別にもういいじゃないですか」
「だよなー。俺も聞き飽きた」
「飽きたって!そもそもさぁ、ベッキョニが約束破るからだろ!」
「細かい男は嫌われますよー」
「はは!だってさ!」
味方をつけたベッキョンは勝者よろしく笑顔を見せる。
俺は、はぁ、と盛大にため息をついた。
「まぁまぁ、仲良くやれよ」
で、注文は?とマスターが割って入ってきたので、俺は仕方なくコーヒーを頼んだ。
「ところでタオは?」
「さぁ?知りませんよ」
「なんだ、お前らもケンカ?」
「一緒にしないでください」
だから俺らはケンカじゃねーし。
お前らと一緒にすんなよ。
てか、そもそもバレンタインまでくっついてくんじゃねぇ!!
何がハッピーバレンタインだ、なんていじけていると「はいはい、お待たせ」とコーヒーと、それから二人が頼んだジンジャーエールとメロンソーダを持ってマスターがテーブルにやって来た。
「じゃあ、このチョコもいらない?」
「え!?」
「なになに!?」
「今日だけお客さんにプレゼントしてる店からのチョコなんだけど」
童顔のくせにいやに格好いいマスターがにやりと笑って差し出したのは、綺麗にラッピングされたプチギフトの袋。
俺は慌てて「いります!」と声をあげると、セフンもベッキョンもマスターも、三人して笑ったのでちょっとムカついた。
「誰からも貰わないんじゃないのかよ」
「マスターは別だろ」
「なんだよそれ」
だってマスターだし。
「ホントお似合いですよ二人は」
「……バカにしてるだろ」
「まさか?」
セフンにからかわれて立場のない俺は、結局コーヒーを一口啜って口ごもるしかなかった。
ベッキョンは、相変わらずベッキョンで。余裕がないのは昔から俺の方だ。告白したときだってそう。タオがベッキョンに抱きついた瞬間、俺の頭は真っ白になって気づいたら店を出ていた。ハッピーウイルスなんてどこへやら。ベッキョンのことになると途端に余裕が無くなってしまうんだ。もっと大人になりたいのに。俺にとってはいつだってベッキョンの存在が最重要課題だ。
「そういえば、こないだ雑誌でタオ見たよ」
なぁ?とベッキョンが話を振ってきたので、「あぁ、」なんてつまらない返事を返す。
「雑誌?あぁ、映画のやつですか?」
「そう、すげぇな」
タオはといえば、高校を卒業したあとアクション俳優の養成所に入って演技の勉強をしているらしい。最近では、小さな役でも貰えるようになったらしく雑誌でもたまに見かけるようになってきた。
「なんか、本当に別世界って感じだな」
「まぁ……」
「いいのかよ、放っておいて」
「知りませんよ」
二人の会話を聞きながら「連絡してみれば?」と口を挟めば、セフンは嫌そうな顔を寄越した。
「俺がしてやろうか?」
ベッキョンの言葉に、セフンは「やめてください」と吐き捨てる。
「なんで?」
「だって……」
「忙しいの?撮影中?」
「知りません……」
「知らないって」
なんつー顔して言ってんだか。
だから俺は、こっそりスマホを手にしてタオへとメールを送ることにした。
暇ならシロクマに来い、って。
何が悲しくて恋人たちのバレンタインに割り込まれなきゃいけないんだ。俺だってベッキョンと二人で過ごしたいっつーの。
すぐに返ってきた返事を見て俺は顔を上げた。
「来るってさ」
「は?」
「タオ。シロクマにいるって言ったら、すぐ行くって」
「連絡したんですか!?」
「したけど?」
セフンは盛大にため息をついて、がっくりと項垂れた。
「余計なことを……」
「いいじゃん別に。ってことで、俺ら先に出るから」
コーヒーの残りを啜ってベッキョンに視線をやれば不思議そうに目線を寄越されて、俺は顎で出るよと合図を送る。
ベッキョンもあたふたしながらもジンジャーエールを飲み干して鞄と上着を掴んだ。
「じゃあな、タオによろしく」
マスターごちそうさまでした!と声をあげて、俺たちは店を後にした。
「なぁ、なんで急に出たの?」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど……」
「いいじゃん、バレンタインなんだから二人で過ごしたって」
「そうだけど」
駅に続く道を二人で並んで歩いた。
冷たい風がヒュっと吹いたので思わずマフラーを口元まで引き上げると、ベッキョンも寒そうにコートの襟を立てていた。
「なぁ、チャニョラ」
「なに?」
「チョコのこと……怒ってる?」
さっきまでずっと俺がぐちぐちと言っていたのをやっぱり少しは気にしていたのか、と少しだけ申し訳なく思った。
「そりゃあ、まぁ……」
「……ごめん」
「え……?」
だからごめんって!とベッキョンは少しだけ声を張り上げた。
「別に何の意味もないし……」
「そんなの、分かってるよ。意味あったら困るし」
俺はただ、二人の約束を破られたことが気にくわないだけで。こいつにそんな理由がないことくらい分かっている。
「だってさ、チャニョリが……」
「俺が?」
「別にさ、お前が釣った魚に餌をやらないタイプだとか、そんなのはいいと思ってたんだけど……どうせ俺たちは男だし。そんなベタベタしたってさぁ……」
「は?何の話?」
急に出てきた話にまったく頭がついていかない。
「なんかムカつくんだもん、お前……」
「へ……?」
「いつもひとりで余裕ぶってるし、知ってたけどやっぱりやたらとモテるし、いつの間にかコーヒーとか頼むようになってるし……昔は俺と同じがいいとか言ってたくせに……」
え……なにその理由。
「別に俺だって、チャニョリ程じゃないけどモテないことないし?」
立ち止まってうつ向いてしまったベッキョンを見てると、途端ににやけそうになってくるのはあまりにも現金だろうか。
「もしかして、ヤキモチ……?」
「違っ……!」
「俺の気を引きたかったの?」
あぁ、もう可愛すぎる!!
ベッキョンの真っ赤な耳は、きっと寒さのせいだけじゃない。支離滅裂なその言い訳は、どうしたって俺の顔をだらしなく歪ませるわけで。
「はは!そんな事考えてたんだ!」
「……あぁー!もう!」
「ベッキョナ可愛いー!!」
「可愛くないし!!」
二人きりになると意外と可愛くなってしまうベッキョンの照れたような横顔を見て、俺はチョコのことなんてどうでもよくなってしまうから、やっぱりベッキョンには敵わないなぁ、なんて。
俺の方がよっぽど余裕なんてないんだ。
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お互いに、お互い以外からは貰わないって決めたのに。ベッキョンは女子からのチョコをこっそり受け取っていた。別に告白を受けた訳じゃないんだからいいじゃん、なんて本人は言っているけど、そういう問題じゃない。
俺たちは付き合い始めてもうすぐ1年半が経つ。順調にやっては来たけど、お互いに見えてなかったことも見えてきて、最近では上手くいかないときもしばしば。
ベッキョンのことは好きだと思うのに、それだけじゃあやっぱりダメなのかなぁとか。
そしてそれから、この二人の仲が良すぎるのも問題の内の1つだ。
「ヒョン、別にもういいじゃないですか」
「だよなー。俺も聞き飽きた」
「飽きたって!そもそもさぁ、ベッキョニが約束破るからだろ!」
「細かい男は嫌われますよー」
「はは!だってさ!」
味方をつけたベッキョンは勝者よろしく笑顔を見せる。
俺は、はぁ、と盛大にため息をついた。
「まぁまぁ、仲良くやれよ」
で、注文は?とマスターが割って入ってきたので、俺は仕方なくコーヒーを頼んだ。
「ところでタオは?」
「さぁ?知りませんよ」
「なんだ、お前らもケンカ?」
「一緒にしないでください」
だから俺らはケンカじゃねーし。
お前らと一緒にすんなよ。
てか、そもそもバレンタインまでくっついてくんじゃねぇ!!
何がハッピーバレンタインだ、なんていじけていると「はいはい、お待たせ」とコーヒーと、それから二人が頼んだジンジャーエールとメロンソーダを持ってマスターがテーブルにやって来た。
「じゃあ、このチョコもいらない?」
「え!?」
「なになに!?」
「今日だけお客さんにプレゼントしてる店からのチョコなんだけど」
童顔のくせにいやに格好いいマスターがにやりと笑って差し出したのは、綺麗にラッピングされたプチギフトの袋。
俺は慌てて「いります!」と声をあげると、セフンもベッキョンもマスターも、三人して笑ったのでちょっとムカついた。
「誰からも貰わないんじゃないのかよ」
「マスターは別だろ」
「なんだよそれ」
だってマスターだし。
「ホントお似合いですよ二人は」
「……バカにしてるだろ」
「まさか?」
セフンにからかわれて立場のない俺は、結局コーヒーを一口啜って口ごもるしかなかった。
ベッキョンは、相変わらずベッキョンで。余裕がないのは昔から俺の方だ。告白したときだってそう。タオがベッキョンに抱きついた瞬間、俺の頭は真っ白になって気づいたら店を出ていた。ハッピーウイルスなんてどこへやら。ベッキョンのことになると途端に余裕が無くなってしまうんだ。もっと大人になりたいのに。俺にとってはいつだってベッキョンの存在が最重要課題だ。
「そういえば、こないだ雑誌でタオ見たよ」
なぁ?とベッキョンが話を振ってきたので、「あぁ、」なんてつまらない返事を返す。
「雑誌?あぁ、映画のやつですか?」
「そう、すげぇな」
タオはといえば、高校を卒業したあとアクション俳優の養成所に入って演技の勉強をしているらしい。最近では、小さな役でも貰えるようになったらしく雑誌でもたまに見かけるようになってきた。
「なんか、本当に別世界って感じだな」
「まぁ……」
「いいのかよ、放っておいて」
「知りませんよ」
二人の会話を聞きながら「連絡してみれば?」と口を挟めば、セフンは嫌そうな顔を寄越した。
「俺がしてやろうか?」
ベッキョンの言葉に、セフンは「やめてください」と吐き捨てる。
「なんで?」
「だって……」
「忙しいの?撮影中?」
「知りません……」
「知らないって」
なんつー顔して言ってんだか。
だから俺は、こっそりスマホを手にしてタオへとメールを送ることにした。
暇ならシロクマに来い、って。
何が悲しくて恋人たちのバレンタインに割り込まれなきゃいけないんだ。俺だってベッキョンと二人で過ごしたいっつーの。
すぐに返ってきた返事を見て俺は顔を上げた。
「来るってさ」
「は?」
「タオ。シロクマにいるって言ったら、すぐ行くって」
「連絡したんですか!?」
「したけど?」
セフンは盛大にため息をついて、がっくりと項垂れた。
「余計なことを……」
「いいじゃん別に。ってことで、俺ら先に出るから」
コーヒーの残りを啜ってベッキョンに視線をやれば不思議そうに目線を寄越されて、俺は顎で出るよと合図を送る。
ベッキョンもあたふたしながらもジンジャーエールを飲み干して鞄と上着を掴んだ。
「じゃあな、タオによろしく」
マスターごちそうさまでした!と声をあげて、俺たちは店を後にした。
「なぁ、なんで急に出たの?」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど……」
「いいじゃん、バレンタインなんだから二人で過ごしたって」
「そうだけど」
駅に続く道を二人で並んで歩いた。
冷たい風がヒュっと吹いたので思わずマフラーを口元まで引き上げると、ベッキョンも寒そうにコートの襟を立てていた。
「なぁ、チャニョラ」
「なに?」
「チョコのこと……怒ってる?」
さっきまでずっと俺がぐちぐちと言っていたのをやっぱり少しは気にしていたのか、と少しだけ申し訳なく思った。
「そりゃあ、まぁ……」
「……ごめん」
「え……?」
だからごめんって!とベッキョンは少しだけ声を張り上げた。
「別に何の意味もないし……」
「そんなの、分かってるよ。意味あったら困るし」
俺はただ、二人の約束を破られたことが気にくわないだけで。こいつにそんな理由がないことくらい分かっている。
「だってさ、チャニョリが……」
「俺が?」
「別にさ、お前が釣った魚に餌をやらないタイプだとか、そんなのはいいと思ってたんだけど……どうせ俺たちは男だし。そんなベタベタしたってさぁ……」
「は?何の話?」
急に出てきた話にまったく頭がついていかない。
「なんかムカつくんだもん、お前……」
「へ……?」
「いつもひとりで余裕ぶってるし、知ってたけどやっぱりやたらとモテるし、いつの間にかコーヒーとか頼むようになってるし……昔は俺と同じがいいとか言ってたくせに……」
え……なにその理由。
「別に俺だって、チャニョリ程じゃないけどモテないことないし?」
立ち止まってうつ向いてしまったベッキョンを見てると、途端ににやけそうになってくるのはあまりにも現金だろうか。
「もしかして、ヤキモチ……?」
「違っ……!」
「俺の気を引きたかったの?」
あぁ、もう可愛すぎる!!
ベッキョンの真っ赤な耳は、きっと寒さのせいだけじゃない。支離滅裂なその言い訳は、どうしたって俺の顔をだらしなく歪ませるわけで。
「はは!そんな事考えてたんだ!」
「……あぁー!もう!」
「ベッキョナ可愛いー!!」
「可愛くないし!!」
二人きりになると意外と可愛くなってしまうベッキョンの照れたような横顔を見て、俺はチョコのことなんてどうでもよくなってしまうから、やっぱりベッキョンには敵わないなぁ、なんて。
俺の方がよっぽど余裕なんてないんだ。
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