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第三章

side BH




シロクマに行くと、高校生の男に訳の分からないことを言われて抱きつかれた。おまけに言えば、その友達とやらにめちゃくちゃ睨まれた。そんで一番の問題は、チャニョルがやたら不機嫌だ。

何なんだ今日は。厄日か。そうか、厄日なのか!

解決にもならないような答えを導きだしたって、なんの役にも立たない。


結局、買いたいCDがあったの忘れてたと言うチャニョルに「もちろんベクも行くよな?」と半ば無理矢理引っ張られて飲み物も飲まずにシロクマを出た。タオとかいう高校生には最後までギャーギャー言われて腕を引っ張られて、その友達には最後まで睨まれていた。


チャニョルは俺の腕を掴んでずんずんと歩く。
一方俺はお察しの通り小走りで。
だからコンパス考えろっての!


「おい、チャニョラ!」
「……なに?」
「お前、なんか怒ってんの?」
「いや……」
「じゃ、なんでそんなに不機嫌なんだよ」
「別に」


と言いつつも立ち止まってくれず、振り向きもせず、にこりともしないのは、やっぱり何か怒ってるからなんだろう。ハッピーウイルスが聞いて泣くぞ。

あぁ、もうどうしたらいいんだ。
頭を抱えそうな勢いだ。


「チャニョラ、」
「……」
「チャニョラってば!!」


強めに声を掛けると、漸く立ち止まって振り返る。
ふう、と安堵するも、なに?と不機嫌に見下ろされて緊張が走った。


「……CD屋だろ?」


本来曲がらなければいけないところを真っ直ぐに進もうとするので、あっち、と指を差す。

「あぁ、」と素っ気なく返されて少し凹んだ。いや、大分か。
俺なんかしたっけ?とか考えるけどよくわかんない。普段ほとんど不機嫌になるようなことなんてないのに。不機嫌なチャニョルは、初めてちょっと怖いと思った。




CDショップに着いた頃、チャニョルは漸く腕を解放してくれた。


「痛いし」

「……ごめん」


見るとほんのり赤くなっていて。チャニョルの顔は青くなった。


「どうしよう……痛いよね?ごめんね?」


必死に謝って腕をさするチャニョルを見て、なんだか可笑しくなる。
あーぁ、尻尾なんか垂らしちゃって。
やっと俺の好きなバカ犬に戻ったよ。


「お前、不機嫌だったんじゃないのかよ」
「あ、いや……」
「……あぁ、ヤバい!折れたかも!」
「え……?」

「だから鞄持て!」なんて言って持っていたバッグを投げつけると、チャニョルは嬉しそうに尻尾を振った。





「あ、ベクー!ちょっとこれ聞いてみて?」
「んー?どれ?」
「これこれ、この3番のやつ」


視聴コーナーにいたチャニョルに近づくとヘッドホンを外して呼び止められた。抱き抱えるみたいな格好でヘッドホンを付けられて、どう?と顔を寄せる。あまりの近さに驚いて、近いよバカ!と叩くと、背中からさらに抱き締められた。


ナンダヨコレ。ナンダヨコレ。
チャニョル頭可笑しくなったんじゃないの?
だから近いって。俺の心臓のことも少しは考えろバカ犬!


耳から流れる音楽なんて、全くもって脳みそは拾ってくれず、心臓の音だけが響いている。なのに、その腕を解くことはできなくて。



カチリと音が鳴って、いつの間にかトラックは終わりを告げた。
その刹那、聞こえた声。



「ベク……好き」



ヘッドホン越しに微かに聞こえたチャニョルの言葉。



「え……」



今何て言った?

はっきり聞きたくて身をよじる。
信じられなくてパニクる。
混乱して……、混乱する。


誰が、なんだって???


バタバタともがいても、その腕は強まる一方だ。


「あの曲も、ベクを想って書いたんだ」


ごめんな、でもお前が好き。



いつもより低く響いて、今度はちゃんと聞こえた。なのに、何でもないとばかりに「こっちもオススメー!」なんて声を上げて視聴機のボタンを押すから、真っ白な頭に爆音が流れて、驚いて跳び跳ねてヘッドホンをぶん投げた。


「なにすんだよ!」


チャニョルは慌てて離れて、笑っている。
但し、少しだけ眉を下げて。


だからバカ犬の飼い主なんて俺くらいにしか勤まらないんだよ!



「俺もだバカ!!」



続く
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